「養老乃瀧編」大衆文化の醸成と人の育成が支えた半世紀 -「養老乃瀧」55周年記念インタビュー

外食企業物語 養老乃瀧編 大衆文化の醸成と人の育成が支えた半世紀 「養老乃瀧」55周年記念インタビュー

居酒屋チェーンとして半世紀以上にわたる歴史を持つ 「 養老乃瀧 」。昭和31年(1956年)に横浜で第1号店が誕生、今年で55周年を迎えるが、その活動の中心には常に 「 食の大衆文化の発展 」 を心掛けてきた。また、日本における飲食店FCのパイオニアとして全国に店舗を展開、全店舗のうち約9割が “ 暖簾分け ” による加盟店舗となっている。今回は、同社が長きにわたり実践してきた、“ 大衆文化と人材の創造 ” について、代表取締役・野村幹雄氏に語っていただいた。

第3回 業態転換の実績が、新たな繁盛店を作り出す

第3回 業態転換の実績が、新たな繁盛店を作り出す

早い時間から安く飲める「一軒め酒場」― 「 養老乃瀧 」 の成功以降、さまざまな業態が誕生しています。一番新しい 「 一軒め酒場 」 を例に業態開発についてお聞かせください。

【 野村社長 】 サブプライム問題から急激なデフレ経済が進んで、近年は、“ 安いのが当たり前 ” という社会環境になりました。どの店舗も安くなるから安い物でなければ売れない、それが開発の要因になっています。それから、団塊の世代がリタイヤされていることも要因のひとつです。この方々は夕方5時・6時からはお酒を飲むということはあまりないのです。話を聞いてみると、その時間には 「 一杯飲んで家に帰りたいんだ 」 という声が多くありました。ということは、2、3時頃から飲んで電車が混む前に帰宅する。これからは、そういった需要が増えるだろうと予想をしたわけです。安く飲んで食べて2,000円でお釣りが来る、しかも早い時間から営業している。“まず、今日飲む店はここだ”ということで 「 一軒め酒場 」 が誕生したのです。

― 本社ビルにある 「 一軒め酒場 池袋南口店」 は、午後2時どころか朝から営業していますが、これはどういう理由ですか?

養老乃瀧株式会社 代表取締役 野村幹雄(のむら・みきお)氏【 野村社長 】 営業を続けていく中で、確かな需要があることが分かったからですね。本社の店舗は朝8時からやっているのですが、夜勤明けという人が非常に多い立地だったのです。警察や消防、地下鉄にタクシー、IT関係もそうですね。朝7時、8時の交代制で勤務が終わる方が多いのです。そういう皆さんが当たり前のように飲みに来られる。一般的なアフター5みたいな感覚ですよね。開発時から顧客ニーズに即していますから、この業態は立地に合わせて営業時間を変えるようにしています。画一的な午後5時~0時という時間は無視して、一番効率のいい時間帯に開けています。例えば、同じ池袋でも繁華街立地にある 「 一軒め酒場 池袋北口店」 は夜中が強いわけです。ですから、営業時間は夕方4時から翌朝8時まで。ディナータイムから夜はもちろんですが、朝6時頃にもうひとつのピーク時間帯があります。メイン客層は、近所で働いている方々と住んでいる方々。さっと飲んで、さっさと帰るという使われ方が多くて、そういう場合の客単価は1,300円程度になっていますね。

― ずいぶん安いですが、メニュー開発にご苦労はなかったのですか?

【 野村社長 】 ありました。安くするための秘密を話すことになりますが(笑)。営業していく中で一番経費の掛かるところを省く作業を徹底したのですが、ただひとつ、原価だけは省かないという条件を設けました。100円だったものを50円にするのは品物が悪くなるだけです。それから、「 ジョッキサイズを小さくしたい 」 という要望は、単なるインチキ。大きいジョッキを小さくして安く提供するのは、お客様には決して得ではありません。同じジョッキで売って値段を下げ、他のランニングコスト等を圧縮して商品価格に置き換えたのです。



養老乃瀧株式会社

養老乃瀧株式会社

http://www.yoronotaki.co.jp/

代表取締役社長:野村 幹雄氏
本社:東京都豊島区西池袋1-10-15

昭和13年(1938年) 長野県松本市にて創業
昭和31年(1956年) 神奈川県横浜市に、「 養老乃瀧 」 第1号店開設
昭和39年(1964年) 国際物産を設立、仕入れ部門を完全独立化
昭和41年(1966年) フランチャイズ第1号店を板橋区成増に出店
昭和46年(1971年) 「 養老ビール 」 誕生
平成8年(1996年) 新業態 海鮮番屋 「 魚彦 」 第1号店開店
平成10年(1998年) 新業態 やき鳥専科 「 一の酉 」 第1号店開店
平成12年(2000年) 新業態 だいにんぐ 「 楽顔亭 」 第1号店開店
平成14年(2002年) 新業態 海鮮居酒屋 「 だんまや水産 」 第1号店開店
平成16年(2004年) 新業態 串や 「 二の酉 」 第1号店開店
平成19年(2007年) 食材・酒類仕入部門の養老国際物産を統合
平成20年(2008年) 新業態 「 一軒め酒場 」 第1号店開店

養老乃瀧株式会社 代表取締役 野村幹雄(のむら・みきお)氏

代表取締役 野村幹雄(のむら・みきお)氏

昭和28年富山県魚津生まれ。昭和45年(1970年)に養老乃瀧株式会社入社。当時、一般家庭では口にすることが難しかった 「 若鶏の丸焼き(ローストチキン)」 が食べられる店と聞き、勝手に高級レストランと勘違いして入社したという。昭和63年(1988年)の分社化により北日本養老開発株式会社へ異動後は、同社社長、甲信越養老開発社長を歴任、平成17年(2005年)に養老乃瀧株式会社の社長に就任する。「 赤ちょうちんの焼鳥屋とローストチキンのギャップに戸惑いながらも、アットホームな雰囲気が居心地がよくなり、仕事の面白みが分ってきて現在に至る(本人談)」。

文:貝田知明 人物写真:酒美保夫
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