本格的なナポリピッツァで有名なパルテノペ 総料理長兼統括店長の渡辺陽一氏。外食ドットビズでは、昨年8月に掲載した『食材原価高騰の時代を活きる Vol.1』の第2回 に登場して頂いた。その取材に伴うインタビューで長時間に渡り興味深いお話をお伺いした。今回はそのインタビューの内容をネット講義としてあらためて皆様にお届けする。
これから、本格的なピッツェリアを作ろうと考えている皆さんに “ 真のナポリピッツァ協会 ” についてお教えしたいと思います。
真のナポリピッツァ協会は、1984年に設立された。目的は、ナポリに古くから伝わる職人の伝統技術を再評価し、ナポリピッツァの伝統が世代交代の中で変わっていくことを少しでも防ぐこととその記憶が失われないように緻密な基準づくりをし、伝統技術を後世に伝えることです。2004年5月にはイタリア政府からも公認され、ヨーロッパにおいては伝統的な特産物としての保証であるS.T.G.認定を受けています。
日本では、さくらぐみ (兵庫県赤穂市) の西川オーナーと私とでナポリの本部と折衝を重ねた結果、認可を取ることができ、2006年9月に設立しました。西川オーナーが支部長になり、私が副支部長に就任致しました。
日本支部における役割は、本物のナポリピッツァを普及させ、定着させるための啓蒙活動に尽きますね。どんな食べ物でもそうですが、その食べ物がどんな環境で、どのような食べ方をされてきたのかと言う背景がありますよね。これが文化、つまり食文化と言われるゆえんです。例えば、イタリアでは必ず1人が1枚のピッツァを食べますが、日本では1枚のピッツァを6等分とか8等分にして皆で分けて食べますよね。なぜかというと日本におけるピッツァの位置付けは “ おつまみ ” なんですよ。残念ながら “ 食事 ” まで来ていないのです。カップルが、ピッツァ屋さんに行って、2枚のピッツァを食べて満足して帰っていただく。そういう食べ方ができる文化というものを日本に伝えたいと思っています。
もう一つは本物を本物として確立したいと言うことです。例えば、誰かがこれが日本一のナポリピッツァだと誰にでも支持されるようなお店を作ったとします。そのお店が幸い本物のナポリピッツァを出しているお店なら拍手です。ところが全く違う物を出して、それが受けてしまった時には取り返しがつかないことになってしまうのです。なぜならそれがスタンダードになって、皆が真似をするようになったら業界全体がナポリピッツァはそういうものだということになってしまいます。これは日本の食文化において物凄くマイナスになってしまうのです。文化というものは変えちゃいけないのです。新しいものとして認めればいいのですが、それにナポリピッツァと言う元々ある文化の名称をつけてはいけないのです。ですから私どもは本物のナポリピッツァを確立するために活動しているのです。
では、具体的な活動についてお話しましょう。大きく分けて認定のための活動と普及・啓蒙のための活動に分けられます。
「 認定 」 は、少しハードルが高いのですが、本格的なナポリピッツァのお店を目指されている方には是非目指して頂きたいので、認定のための活動の話からしましょう。
最終的な認定はナポリ本部が行いますが、日本支部では事前審査の権限を与えられています。まず申請書による書類審査を行います。使用している食材のリストや設備の写真も用意してもらい、また作業しているところをビデオ撮影してもらいナポリの伝統通りかどうかもチェックします。合格の場合は店舗での事前審査になりますが、これは西川支部長か私のどちらかが現場に行って審査することになります。そこでは、ナポリピッツァを焼くのに適した窯が使われているか。正しい食材を使っているか。熟成や発酵など適した製法で作っているか。生地を焼く技術をしっかりとマスターしているかなどの審査を行います。
ちなみにナポリピッツァに適した窯は400℃~500℃になるような高温タイプのものです。この温度帯を保つように床の広さ、天井の高さ、アーチの形状、排気効率などの熱効率を考慮した窯を使っているかどうかが重要なポイントになります。しかも薪窯である必要性があります。
笑い話ではないのですが、「 うちの店の窯はイタリアから直輸入したものなので問題ありません 」 と言われることがあるのですが、違うんですよね(笑)。なぜかというとイタリアのピッツァと一言で言っても北イタリアと南イタリアのそれは全く違う食べ物なんです。ローマやミラノやボローニアといったイタリアでも中北部で作るピッツァは麺棒で薄く延ばして焼くクリスピータイプのピッツァが多く、南のナポリピッツァの生地とは全く違うものなのです。このクリスピータイプのピッツァ生地を焼く窯は350℃~400℃位になるように設計されているため、ナポリピッツァの生地がちゃんと焼けないのです。
では、正しい窯を入手するにはどうしたらよいのか。
真のナポリピッツァ協会・日本支部 へお問合せください。この他、「 ナポリピッツァを本格的に学びたいのですが、どこで学んだら良いですか 」 「 ナポリピッツァのお店で働きたいのですが、お店を紹介してもらえないですか 」 「 これからお店を始めようと思いますが、業者さんを紹介してもらえないですか 」 などという質問にもお答えします。もちろん無料です。
この事前審査を無事通過すると次に本審査となります。この本審査は例年2~3月に行われ、ナポリ本部の技術委員が来日して対象店舗を審査することになります。この様な厳格な審査を経て、正式に認定されるのです。認定式は例年5~6月(本年は4月20日)に行われます。認定式にはナポリ本部より幹部の方々が来日されて、盛大に執り行なわれます。当日は認定書と看板の授与式とセミナーが行われます。
ちなみに今年は5店舗が正式に認定されて、日本国内に認定店舗は32店舗になりました。
次回は、真のナポリピッツァ協会が行っている啓蒙・普及活動の具体例についてお話致します。
渡辺 陽一
ピッツェリア PARTENOPE(パルテノペ) 総料理長
1961年愛知県出身。
高校卒業後、辻学園日本調理師専門学校(現、辻学園調理・製菓専門学校)入学。
専門学校卒業後、イタリア料理の老舗「アントニオ」に入社。
3年間の勤務の後イタリアに渡り、3年間の修行後帰国。その後再びイタリアに渡り延べ10年間をイタリアで過ごす。
2000年東京・広尾にピッツェリア PARTENOPE(パルテノペ)をオープン。その後、恵比寿、品川、横浜にパルテノペをオープンし、現在は、4店舗の総料理長。