庶民感覚を忘れない店作りを~お客様の立場に立って日々精進を重ねる~ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長

本格的なナポリピッツァで有名なパルテノペ 総料理長兼統括店長の渡辺陽一氏。外食ドットビズでは、昨年8月に掲載した『食材原価高騰の時代を活きる Vol.1』の第2回 に登場して頂いた。その取材に伴うインタビューで長時間に渡り興味深いお話をお伺いした。今回はそのインタビューの内容をネット講義としてあらためて皆様にお届けする。

第3回 イタリアで日本料理!?想定外のスタート

第3回 イタリアで日本料理!? 想定外のスタート

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長イタリアに行くことになってももちろん知り合いもいなければ人脈もありませんでした。そこである方からローマに住んでいるご夫人をご紹介いただき、ローマに着いてすぐにそのご夫人に電話でご連絡を差上げたのです。

ここで運命って怖いものだなと実感することになったのです。その夫人曰く 「 あなたちょうどいい時に来たわね 」 と仰るんです。何事かなと思ってお聞きすると、「 ちょうどね日本大使館の大使付けのコックさんが入院してしまって、大使がお食事を取れないのよ。だから明日から作りに行って頂戴 」 と。う~ん。自分は大使の料理を作りに来たのでは無く、イタリア料理の勉強をしに来たんだけどもな・・・と思ったのですが、頼りになる方が他にいなかったものですからお申出をお受けして、1週間取っていたホテルをすぐにキャンセルして大使公邸の一部屋に転げ込んだのです(笑)。

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長それからは日本料理三昧の日々でした(笑)。すき焼きをお食べになりたいといえばすき焼きを、豆腐料理をお食べになりたいといえば豆腐料理をといった具合です(笑)。でもイタリアで売っているのは偽の豆腐なんですよ、ゼリーで固めたような。ですから自分で豆腐を作るようになりましたね。豆腐って非常に便利な食材で、そのものだけではなくおからができたらおからの料理を、そこから卯の花を作ったり、おからのハンバーグを作ったりと色々と勉強になりました(笑)。実は大使館で作っていた日本料理のほとんどは、[くだん]のご夫人から手ほどきを受けたのです。イタリアでの ”和食修行“ の師匠はこのご夫人になるわけです(笑)。

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる~ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長このように作っていた料理のほとんどは日本料理でしたが、学ぶことは多く、その後の料理人人生に大きく役立つことがありましたね。

まずは、料理人の原点でもある 『 お客様に喜んで食べていただく 』 気持ちがよくわかりました。お食事の時は大使とフェーストゥフェースじゃないですか。もちろんご一緒にお食事を取ることはございませんでしたが、大使の一挙手一動が手に取るようにわかるわけです。ですから大使に喜んでいただこうという気持ちで一生懸命料理を作ることができたのです。

それから、毎日買物に行かせていただけるわけですよ。市場に行って 「 これを何グラム頂戴 」 とか 「 この他に○○頂戴 」 なんてやっているとイタリア語の勉強になるわけですよ。お陰様で語学学校に通うこともなく、大使館を出るときにはかなりぺらぺらとイタリア語ができるようになりました(笑)。それに市場に行くとイタリアの食材がわかるようになりますよね、かつ自分のお金ではないから高いものを買える(笑)。イタリアの魚と日本の魚は若干違うのですよね。ですから高くても色んな魚を買って料理をしてみて美味しくなかったら大使にお出ししないで自分で食べてしまえばよかったですから食材の勉強にもなりました(笑)。

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長もう一つ大きなことは、大使に色々なレストランに連れて行っていただいたことです。土日とかのお休みの日には、大抵大使にドライブに連れて行っていただいたりしたのです。大使自ら運転なさる車で、です(笑)。それも海辺の高級レストランとか良い所にです(笑)。大使は、お仕事柄レストランもお詳しいのです。「 ここはイタリアの有名人が良くいらっしゃるレストランだよ 」 などと。私が一人で行っても入れてくれないようなところに、もちろん行けたとしても支払ができませんでしたが(笑)、連れて行って頂き、「 せっかく料理の勉強をしに来たのだから、これを食べなさい 」 と色々なレストランで、色々な料理をご馳走になりました。

作っている料理は和食ばかりでしたが(笑)、本物のイタリア料理に触れることができ、本当に勉強になりました。

庶民感覚を忘れない店作りを お客様の立場に立って日々精進を重ねる ピッツェリア パルテノペ 渡辺陽一総料理長イタリア大使館には4ヶ月ほどお世話になりました。この間は、只で住まわせていただき、お給料もいただき、料理人の基本とも言うべき事柄を多々学ぶことができ非常に有意義な月日でした。この経験が今の自分に息づいているわけですから本当に運命とは怖いものだなと思います。

大使館を出てから本格的にイタリア料理の修業が始まるわけですが、観光客が行くようなセルフサービスのレストランからホテルの高級レストランまで色々なところで働かせていただきました。

料理というものは、その国の文化、食文化ですよね。食文化を知るためには高級レストランだけ知っていても駄目だと思っています。ですから、地元の人しか来ないようないわゆる“定食屋”みたいなところでも働きましたし、お菓子屋さんでも働きました、学校給食などをやっている工場にも行きました。もちろんミシュランの3つ星を取っているような高級レストランでも働きました。

とにかくイタリアの食文化を知ろうということで、3年間イタリアで修行を積みました。



渡辺 陽一

渡辺 陽一

ピッツェリア PARTENOPE(パルテノペ) 総料理長
1961年愛知県出身。
高校卒業後、辻学園日本調理師専門学校(現、辻学園調理・製菓専門学校)入学。
専門学校卒業後、イタリア料理の老舗「アントニオ」に入社。
3年間の勤務の後イタリアに渡り、3年間の修行後帰国。その後再びイタリアに渡り延べ10年間をイタリアで過ごす。
2000年東京・広尾にピッツェリア PARTENOPE(パルテノペ)をオープン。その後、恵比寿、品川、横浜にパルテノペをオープンし、現在は、4店舗の総料理長。

文:齋藤栄紀
ページのトップへ戻る