大皿惣菜料理の草分けといわれる居酒屋「汁べゑ」の創業者であり、「くいものや楽」を中心とする多数のグループ店舗を手掛けている宇野氏。居酒屋経営者としての顔のほか、グループ店舗で社員を育て、独立開業まで導く「宇野道場」の“オヤジ”という一面もお持ちです。
厳しくも温かい教育方針で、宇野氏のもとを卒業したOBは300名近くを数え、日本全国はもとより海外でも繁盛店を作り上げています。
宇野氏が考える外食産業の魅力から、大規模チェーンとは異なる個性を活かした店作りのノウハウから、「宇野道場」で教える起業のための心掛けなどを語っていただきました。
うちの店で働く人は、独立を前提にしているから、最初の面接で「何年後に辞めるか?」を聞く。独立するために、覚えるべきことを早く身に付けて辞めなさいといっている。平均すると5年位かな。僕のところで働くと、食事が全部付いてるから、頑張れば月10万円は貯められる。5年で600万円になれば、銀行も金を貸してくれるから1000万円位の資金はなんとかなる。でも、1000万円では絶対にいい場所には出店できない。例えば、下北沢に店を出したいと思ったら、隣駅の東北沢になる。しかも、表通りではなく3本も入ったような場所で、下手をすれば2階の物件になる。実際に飲食店を興そうと思ったら、それが現実的な状況。
だから、僕は裏道を狙って出店している。繁華街の一等地で黙ってても客が入ってくるような店にしてしまったら、独立するための勉強にならない。いま運営している店は、「隠れ家みたいで、いい場所」と評価されることがあるが、そうなるまでどれだけ努力が必要なことか…。うちの店での体験が自信になって、自分の店を出しても大丈夫だと思えるようになる。これから自分の店を持とうとしている人には、“お金がなくても飲食業は絶対にできる”と思ってほしいね。
独立するまでに身に付けなければ行けないのは、人通りの少ない店まで通ってくれるようにするには何をしなきゃいけないかということ。あまり流行っていないような店に連れて行って、「ここを流行らせるためのイメージを湧かせろ」というんです。もちろん正答なんてないが、何をすればいいのか自分なりに考えさせる。例えば、お新香を出す工夫でもいい。もし、夫婦で営業していたら、「女帝○○のお新香」とメニューに嫁さんの名前を書いておけば、客の興味を引くでしょう。そして、奥さんが姿を見せれば、「あ、女帝だ」とお客さんも声をあげてくれる。そうなれば、ダンナが客と会話をするきっかけになる。「怖いんですよー」なんて。奥さんにしてみても「花のOLだったのに、結婚したばっかりにこんなことに…」なんてね。飲み屋というのは、そういうコミュニケーションがあるべき場所。二人でお客さんとそういう会話ができるようになったら、1000万円でも十分に客が入る店ができるよね。
そういう誰にでもできる工夫すらしていない店が山ほどある。これから店を出す我々にはありがたいことだけどね。僕は、お新香ひとつでさえ、黙ったままでは売る自信がないから、いろいろと試している。キュウリのお新香だったら、女の子がお皿に一本のままの姿で運んでいき、おもむろに人数分に折ってテーブルに置くとかね。インパクトあるでしょう。トランプみたいにキレイに切って出すだけでは、次も頼んでもらえるとは思えない。お客さんがニヤッと笑ってくれる工夫があれば、それを友達にも見せたいためにもう一度来てくれて頼んでくれる。そういうことが裏道で居酒屋をやる秘訣といえるかもしれない。