昭和60年(1985年)8月の暑い日に、兵庫県加古川市に8坪の小さな焼鳥屋が開店した。店先には、「Yakitori Tori doll 3番館」と手書きで書かれた看板が掲げられていた。「 どうしたら、お客様が来てくれるだろうか? 」 とまさに手探りの中開店しながらも、「将来、3店舗を経営したい」と言う創業者の思いがこもった看板であった。
お子様からご年配の方まで、ご家族が一緒に楽しめる焼鳥屋を目指し、「とりどーる」の屋号で店舗展開を進めてきた株式会社トリドール 。いまやその軸足を讃岐うどんの店「丸亀製麺」に移しながらも178店舗(2008年1月末時点)を有する一大外食企業に成長した。創業当時は、「何とか3店舗は経営したい」と考えていた粟田貴也創業者社長も、ここまで大きな外食企業に育つとは思っていなかったと言う。創業業態にこだわらず、新たな業態開発で成長しているトリドールの歴史を紐解いていきたいと思う。
順調に店舗を拡大してきた 「 とりどーる 」 であったが、思わぬ外的要因から出店に急ブレーキをかけざるを得ない状況に陥ってしまった。
2003年(平成15年)頃から東南アジアで猛威をふるい始めた鳥インフルエンザが、2004年(平成16年)1月に山口県阿東町の養鶏場で検出され、2月には京都府丹波町の養鶏場で13万羽以上が死亡し、日本国内で鳥インフルエンザが社会問題化したのである。
BSE(牛海綿状脳症)問題で苦しむ焼肉業界を目の当たりにしていたこともあり、トリドールも焼鳥屋だけでの事業拡大に不安を感じていた。そこで、粟田社長は決断した 「 焼鳥業態からうどん業態に事業の軸足をシフトしよう 」 と。
鳥インフルエンザ問題が発生する前の、2000年(平成12年)11月にトリドールは、兵庫県加古川市に一店のうどん屋を出店した。屋号は 「 丸亀製麺 」 である。香川県では一般的なセルフうどんの店舗であった。
父親が香川県の出身ということもあり、粟田社長は幼少の頃から讃岐うどんの文化に慣れ親しんで育ってきた。そういった思い入れもあり、地元加古川の方々に、リーズナブルな価格で讃岐うどんを食べていただこうと開店したのがこの店である。もちろん当初は、チェーン展開をしようとなど全く考えていなかった。
当初、多店舗化を考えていなかった 「 丸亀製麺 」 であったが、自ら麺打ちを習うほど讃岐うどんにこだわる粟田社長は、店作りのコンセプトにもこだわった。少しでも本場香川(製麺所)の雰囲気を楽しんでいただくため、店内に製麺機を据えて、「 打ちたて 」、「 ゆでたて 」 の麺をセルフ形式で提供したのである。
そして、事業の軸足を 「 丸亀製麺 」 にシフトし始めた 2003年(平成15年)9月にその後の店舗展開の方向性に大きな影響を与えることになる 「 丸亀製麺 プロメナ店 」 が開店した。
プロメナ神戸は、JR神戸駅に近いハーバーランド内にあるショッピングセンター(SC)である。 SCのフードコートへの初出店となったこの店は、高い専門性による商品力とその手軽さ(低単価)が受け入れられ、多くの顧客の支持を得ることができたのである。
この店以降、ダイヤモンドシティ、イオン、イトーヨーカドーといったSCからの出店要請が続き、 SCが 「 丸亀製麺 」 の出店先として重要な位置を占めることになるのである。ちなみに2008年2月末時点で 「 丸亀製麺 」 は、全国に106店舗あるが、その半数以上の54店舗がSC内の店舗である。
また、「 丸亀製麺 」 のSCへの出店によって、新業態の開発と出店の加速が進むことになった。これに関しては、次回記述したいと思う。
多店舗化に突き進んだ 「 丸亀製麺 」 であるが、多店舗化にあたって当初は課題をいくつか内包していた。
代表的なのが、製麺のノウハウが十分に蓄積されていなかったことである。一般的な外食の場合、セントラルキッチンや指定業者から麺を仕入れることが多いのに対し、「 丸亀製麺 」 は各店舗で粉から製麺を行っている。このため、温度や湿度といった外的要因(いわゆる塩加減、水加減)が大きく影響するのだが、当初はこれらのノウハウが確立されておらず、品質にブレが生じることも少なくはなかったのである。
もちろん、現在はマニュアルが整備されているが、それでも個々人の感覚に頼るところが “ 0 ” では無いため、トリドールでは新規開店前の教育・研修は長めに取っている。
話は変わるが、「 丸亀製麺 」 を訪れた時、店舗内で働いている女性の割烹着姿がしっくりしていると感じるのは私だけであろうか。
「 丸亀製麺 」では、採用を若年層に限定する必要がないこともあり、他の業種・店舗に比べて採用年齢の幅を広く取っている。そのため、主婦を中心とした中高年の就業率が比較的高くなっているようだ。 社会問題でもある中高年者雇用促進の問題から見ても、地域密着型の理想の店舗像ではないだろうか。
株式会社トリドール
【会社設立】1995年(平成7年)10月。
【会社概要】家族で利用できる本格的な焼鳥屋を志し、焼鳥ファミリーダイニング「とりどーる」を、ロードサイドを中心に展開。
その後、ショッピングセンターを中心にセルフ讃岐うどん店「丸亀製麺」に事業をシフトするとともに多業態化をはかる。
2006年(平成18年)2月に東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場。
【経営理念】「ひとりでも多くのお客様に いつまでも愛され続ける 地域一番店を創造していこう」
【代表者】代表取締役社長 粟田貴也
取材協力:
経営企画課 IR・広報担当 伊藤純一氏
経営企画課 IR担当 萬代健氏