居酒屋チェーンとして半世紀以上にわたる歴史を持つ 「 養老乃瀧 」。昭和31年(1956年)に横浜で第1号店が誕生、今年で55周年を迎えるが、その活動の中心には常に 「 食の大衆文化の発展 」 を心掛けてきた。また、日本における飲食店FCのパイオニアとして全国に店舗を展開、全店舗のうち約9割が “ 暖簾分け ” による加盟店舗となっている。今回は、同社が長きにわたり実践してきた、“ 大衆文化と人材の創造 ” について、代表取締役・野村幹雄氏に語っていただいた。
― 「 一軒め酒場 」 での経費削減についてお教えください。
【 野村社長 】 最も経費が掛かる焼き台(電気グリラー)を外す決断をしました。焼鳥を辞めることにしたのです。「 養老乃瀧 」 業態では焼鳥等を電気グリラーで焼いていますが、その機械だけで月間の電気代が10万円を超えることがあるのです。「 養老乃瀧 」 は、それをカバーするだけの売上があるからいいのですが、低価格業態では難しいのです。居酒屋の調理場は、一般的に刺身・焼き場・揚げ場に分かれていますが、そのひとつをなくしたわけです。そうすることによって、機械のコストが掛からなくなり、一人分の人件費が浮いて相当額の経費が要らなくなりました。調理場のスペースを狭くできるというメリットもありました。
― 細かなところも含め、具体的にはどのような手法が?
【 野村社長 】 内装に決まりやルールを設けなかったことも経費削減になりました。居抜き再生ビジネスとしてやっていけるわけです。極端な言い方をすると、昨日までラーメン屋だった物件でもいいのです。ラーメン屋さんのような 「 一軒め酒場 」 があってもいい。喫茶店のようなでもいいのです。投下資本がほとんど要らず、物件取得費用だけでお店ができるようにしたのです。
それから、店舗のユニフォームも辞めて、スタッフ自前のジーパンと黒いTシャツを着て営業することにしました。1枚300円程度の安いシャツで構いません。ユニフォーム代とクリーニング代を会社持ちにすると大事にしないし、ちょっと汚れただけでクリーニングに出してしまう。
串カツなどのソースも付けて提供するようにしました。テーブルにソースを置くと、大量に使われる恐れもありますから。必要最低限の量で提供しています。せこい話かもしれませんが、そういう積み重ねが大事になんです。
― 低価格と収益性のバランスというのは?
【 野村社長 】 減らしたコストのすべてを売値に転嫁をしていったら、日本酒を190円で売れるようになりました。一番高いメニューでも300円台で、ほとんどが100数十円。にもかかわらず、「 養老乃瀧 」 と比べても遜色のない粗利になっています。
品質を下げて安くするのは誰でもできることですが、品質を落とさずに価格を下げるのが難しい。どうすればいいかというと、「 手づくり 」 が大切になるのです。「 一軒め酒場 」 の串カツは店内で手作りして揚げていますから、99円で提供できます。工場で製品化されたものだと、150円になってしまいます。やはり、加工度を上げると、工場やメーカーの人件費が跳ね返ってくるわけです。店で仕込むところと工場で仕込むところのバランスを満たすことが大切になってくるのです。
養老乃瀧株式会社
代表取締役社長:野村 幹雄氏
本社:東京都豊島区西池袋1-10-15
昭和13年(1938年) 長野県松本市にて創業
昭和31年(1956年) 神奈川県横浜市に、「 養老乃瀧 」 第1号店開設
昭和39年(1964年) 国際物産を設立、仕入れ部門を完全独立化
昭和41年(1966年) フランチャイズ第1号店を板橋区成増に出店
昭和46年(1971年) 「 養老ビール 」 誕生
平成8年(1996年) 新業態 海鮮番屋 「 魚彦 」 第1号店開店
平成10年(1998年) 新業態 やき鳥専科 「 一の酉 」 第1号店開店
平成12年(2000年) 新業態 だいにんぐ 「 楽顔亭 」 第1号店開店
平成14年(2002年) 新業態 海鮮居酒屋 「 だんまや水産 」 第1号店開店
平成16年(2004年) 新業態 串や 「 二の酉 」 第1号店開店
平成19年(2007年) 食材・酒類仕入部門の養老国際物産を統合
平成20年(2008年) 新業態 「 一軒め酒場 」 第1号店開店
代表取締役 野村幹雄(のむら・みきお)氏
昭和28年富山県魚津生まれ。昭和45年(1970年)に養老乃瀧株式会社入社。当時、一般家庭では口にすることが難しかった 「 若鶏の丸焼き(ローストチキン)」 が食べられる店と聞き、勝手に高級レストランと勘違いして入社したという。昭和63年(1988年)の分社化により北日本養老開発株式会社へ異動後は、同社社長、甲信越養老開発社長を歴任、平成17年(2005年)に養老乃瀧株式会社の社長に就任する。「 赤ちょうちんの焼鳥屋とローストチキンのギャップに戸惑いながらも、アットホームな雰囲気が居心地がよくなり、仕事の面白みが分ってきて現在に至る(本人談)」。