モスバーガー、テリヤキバーガー、ライスバーガー、ニッポンのバーガー匠味…。 オリジナリティーのあるハンバーガーを追求しつづけ、食の安全や健康にも積極的なモスバーガーの企業姿勢は、どこから生まれてきたものであろうか。飲食業に懸ける同社の思いを含め、その歴史や戦略を振り返ってみる。
第 2 回 |
アメリカの味を日本人向けにアレンジ - あくなき味へのこだわり -モスフードサービスの創業者である故・櫻田慧(さくらだ・さとし)は、アメリカで食べたハンバーガーの美味しさに感銘を受けて起業のきっかけとしたが、その時に食べたのは、現在 30店ほどの店舗を有するハンバーガーショップ「Tommy's」のチリバーガーであった。生家が料亭で舌の肥えていた櫻田は、チリバーガーの味のままでは辛すぎるうえにクセもあるので、日本では受け入れられないと判断してアレンジを試みる。チリソースのイメージを残しつつ、日本人にとって美味しい味付けとして用いられたのは、スパゲッティなどで馴染みのあったミートソースである。試行錯誤を重ね、これに味噌などを配合してコクをプラスして誕生したのが現在でも販売されている「モスバーガー」である。 ハンバーガーが日本に紹介された当初、バンズ(パン)は、手を汚さずパティを持つものという概念があったが、櫻田は、“存在感のあるふっくらとしたバンズ”にこだわり、約 8時間もの発酵工程を経て作られるバンズを完成させている。日本人に親しみのあるハンバーグをベースにしたパティの開発も合わせると、それだけで開業資金800万円のほとんどが消えてしまっているほどの注力ぶりである。
1987年に初登場した「モスライスバーガー」は、モスらしさの代名詞ともいえる商品だが、開発の裏には80年代の米余り現象があった。米が捨てられている事態を危惧した当時の農林水産大臣が外食団体に対処を依頼、要職にいた櫻田が「モスで米を使う!」と宣言したことが発端となったのである。メイン商品であるハンバーガーに米を使えれば、最も消費に貢献できるため、当初はパンのハンバーガーの具に米を使うという考えで企画を進めていた。ライスコロッケを挟む、ライスペーパーにして別の具を包む、米を粉にして加工するなどいろいろと考えたが、パンのおかずに米を使うのだから、簡単に合うわけがない。暗礁に乗り上げようかというときに、「焼きおにぎり」という逆転の発想が生まれた。まさに目からウロコが落ちる思いで、ご飯で具を挟むスタイルが誕生したのである。 しかし、ハンバーガー屋であるモスがおにぎりを売るわけにはいかない。試行錯誤のうえに誕生したのが、お米をパンのように使って具をサンドするハンバーガーというわけである。円板状のご飯を作るための機械を寿司ロボットメーカーと開発したことにはじまり、米の品種とブレンドの割合、炊き加減、圧力の具合などを研究して、食べるとふんわりしているが崩れない「ライスプレート」を 2年掛かりで完成させた。また、挟む具材の開発にも1年を費やして発売されたライスバーガー(最初の具はつくね)は、予想外の売れ行きで品切れが続出。社員総出でライスプレート工場に赴き、出荷の手伝いをする事態となったのである。 |