「日本ケンタッキー・フライド・チキン編」クリスマスにはチキン ~外食企業が創り出した日本文化~

外食企業物語 日本ケンタッキー・フライド・チキン編

日本のクリスマスには欠かせない存在となったケンタッキーフライドチキン。ご承知のように、「クリスマスにチキンを食べる」という習慣は日本だけのもの。これは、販促活動の一環として、1974年に日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFCJ)がスタートさせた習慣だが、企業キャンペーンが日本の食文化へと花開いた希有な例といえるだろう。

このクリスマスキャンペーンをはじめ、爆発的に店舗数を拡大させた同社の黎明期の戦略は、日本独特の文化やマーケットにいかに適応するかが課題であったという。ケンタッキーフライドチキンならびにKFCJの歴史を踏まえながら、日本文化に向けた同社の企業戦略や理念を振り返ってみよう。

第4回 クリスマスの食卓にフライドチキン日本の食文化を作ったKFCJの功績と強み

第 4 回
 クリスマスの食卓にフライドチキン 
 日本の食文化を作ったKFCJの功績と強み

~外国人のお客さんのひと言から生まれた日本文化~

 クリスマスの食卓にチキンが並ぶという光景に日本人は全く違和感を持たない。ご存知だろうが、七面鳥を食べるのが正式であり、チキンを食べるという日本だけの文化は、KFCJが仕掛けた「ケンタッキーでクリスマス」というキャンペーンで確立されたものだ。
  KFCJのクリスマスキャンペーンは1974年からスタート、当初から「クリスマスにはケンタッキー」というメッセージをテレビCFなどで流したのである。店舗が全国に拡大していくにつれ、クリスマスには鶏肉を食べるという習慣が広まり、ケーキとプレゼントしかなかったクリスマスに新たな文化を定着させたのである。
  クリスマスキャンペーンの出自はある程度判明している。1971年または72年のクリスマスに青山店へ来店した外国人のお客さんが「クリスマスパーティーを開くのだが、日本では七面鳥が手に入らないから、KFCで代わりにする(フライドチキンを代わりに食べる)」といったことがきっかけである。最初は外国人が多く来店する青山店で、当時の店長が「クリスマスにはチキンを」というキャンペーンを展開、それが当たって全国に広がったのだ。国によってクリスマスに食べるものが違うため、クリスマスキャンペーンはアジア各国を含め、世界で日本だけの戦略となっている。

~KFCJ拡大にも貢献したクリスマスキャンペーン~

 クリスマスという文化が確立していないとき展開したことがキャンペーン成功のポイントであることは間違いない。アメリカ文化への憧れがわずかながら残り、日本の経済成長もあって、うまく時流に乗れたのであろう。そして、クリスマス=KFCの図式を不動のものにしたのが、1983年発売開始の「パーティバーレル」である。最上段にオリジナルチキン、中段にサラダ、下段にケーキ・アイスという、これさえあれば、パーティーができるという組み合わせが大ヒットとなった。77年から登場して普及が進んだドライブスルー店舗との相乗効果もあり、クリスマスという稼ぎ時を確立し、加速度的に店舗が増えることになったのである。
  予約制になっているにもかかわらず、現在でもクリスマスのパーティバーレルを求めて、1?2時間待ちとなる店舗もあるというほど、クリスマス前後の3日間は、各店で最繁忙期を迎える。クリスマスが店舗の年間スケジュールの基準になっているほどだ。アルバイトも含め全員フル稼働になるが、そのためにはアルバイトがある程度教育できた状態でなければならない。普通のFF店よりも技術が必要とされるため、夏頃には採用を終えていなければ間に合わないのである。「極度のピークですから、普通の混み具合の時に接客できる程度の熟練度ではダメなんです。フォローなしに、安心してひとりですべてを任せられるまで育ってくれたスタッフが揃っていないといけません。それを見越した採用計画、さらには販売計画も立てているのです」(KFCJ広報)。

~クリスマスキャンペーンに凝縮された KFCJ のブランド力~

 KFCJのクリスマスキャンペーンは、同社だけが潤っただけではない。クリスマス時期に、スーパーなどでも鶏のモモ焼などが売られるようになり、チキンが浸透したがために逆に七面鳥を売りはじめるという動きにもつながった。現在のKFCJは、市場からの買い付けをせず、完全に自社スペックで生産からやっているので、相場への影響はあまりないが、一時期は同社が何かすると鶏肉の相場が動くということもあったほどだ。
  企業キャンペーンが業界全体の発展につながった例としては、KFCJのクリスマスと菓子メーカーのバレンタインデー位であろう。業界全体に貢献したからこそ、文化になっているのである。実際に調査することは不可能に近いだろうが、30年以上続くクリスマスキャンペーンの経済効果は相当な数字になっていることだろう。
  近年の戦略としては、パーティバーレルの他に、「プレミアムローストチキン」を完全予約制で販売している。銘柄地鶏を使用し、1羽ずつ肉と皮の間にチーズやキノコなどを手作業で詰め込み焼いているものだ。FFでは考えられない5000円という高価格製品だが、毎年売りきれている。手作業であるため大量生産できず、コストも高いため利益が出るような商品ではない。あくまでイメージ商品的な位置付けであるが、クリスマスにはチキンと謳った以上は、常に新しいものを作り続けるという気概が感じられる。30年以上にわたって、クリスマスキャンペーンが色あせずに成功しているのは、こういったリファインを毎年繰り返しているためだろう。パーティバーレルも、発売から21年が経過しているが、サラダやデザートは時代や流行に合わせて毎年変えるなど、一度として中身が全く同じだったことがないのである。パーティバーレルに限らず、通常メニューにもいろいろなサイド商品が登場するが、それも必ず何かを変えている。これまで一切変えていないのは、オリジナルチキンだけだ。絶対に変えてはいけない柱があったうえで、リファインを繰り返すことが、KFCのブランド力になっているのである。



日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社

日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社

http://www.kfc.co.jp/

1970年の設立以来、カーネル・サンダースから受け継いだ伝統を守り伝えると同時に、時代に即した新しい形のメニューや店舗展開で着実に成長を続ける フードサービスのリーディングカンパニー。

1991年には「ピザハット」事業にも乗り出し、KFCと合わせて全国に約1500店舗を構える。

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