今年で創業136年を迎える株式会社柿安本店。新興企業の多い外食産業の中、その伝統は今なお輝いている。創業以来、お客様第一主義を貫き、「美味しさへのこだわり」「お値打ち感へのこだわり」が企業理念として息づいている。文明開化の代名詞といわれた牛肉に早々に目をつけたその先見性は、現代においても同社の業態開発力に見ることができる。内食の精肉店、中食の惣菜店、外食のレストランと食の全てを網羅する総合食品企業「柿安」。その最も得意とする業態開発を中心に紐解いていきたい。なお、今回は代表取締役社長・赤塚保正氏の独占インタビューの模様を交えて物語を進めていく。
“ 柿安 ・ 第3の成長ステージ ” という位置付けで取り組んできた2006年9月期には、売上高314.52億円、経常利益18.54億円となり、4期連続の増収増益を達成している。そして、さらなる成長を図る2007年9月期は、「 既存開発業態のブラッシュアップ 」 「 新しい魅力ある店舗ブランドの開発 」 を進めることで、売上高196.04億(2月13日時点予測)、経常利益19.13億円(同)の5期連続増収増益を目指している。
今後の事業展開方針としては、“ 旬の店舗ブランドの開発と維持 ” “ お肉の老舗 柿安 ” という企業ブランディングの再構築を図る構えだ。
− 今後の業態戦略を中心に事業の展開についてお聞かせください
【 赤塚社長 】 精肉事業では、牛肉特化型の精肉店において、商品ロスの削減、客単価の増加といったように事業化の目途がつきましたので、今後の発展が見込めると思います。惣菜事業では、牛肉を中心に豚・鶏肉を用いた創作惣菜など、柿安ならではの 「 肉のお惣菜 」 を提供していきます。今年 2007年5月には、浜松の遠鉄百貨店に 「 肉惣菜の柿安 」 を出店しました。今後は、「 肉の匠 」 を惣菜店と精肉店に組み入れていきます。レストラン事業では、この夏に新業態としてハンバーグステーキレストランを出店する予定で、しゃぶしゃぶと合わせて「肉」のブランドイメージの再構築を行って行きます。
また、レストラン以外の精肉、惣菜、食品事業の店舗では、「昔ながらの牛飯弁当」という商品を 7月1日から全国の百貨店を中心に1,050円で売り出しています。これも、3つの事業にまたがる肉のブランドイメージ再構築という位置づけです。ただ、牛肉に特化しすぎますと、BSE問題で経験したような事態になりかねません。そこで、精肉事業でイートインコーナーを設けたり、惣菜事業でサラダの商品を拡充したりということも強化していきます。
「 旬の店舗ブランド開発と維持 」 という意味では、食品事業において、和菓子屋である 「 口福堂 」 に注力、レストランにおいては、中華ビュッフェの業態を確立していきます。牛肉を強く打ち出しますが、万一の時には、良い意味での変わり身ができるような体制にしていきたいと思います。この方針にしたことで、出店状況にも変化がありました。ラゾーナ川崎に 「 三尺三寸箸 」 「 柿安精肉店 」 「 口福堂 」 を出店したように、1つの商業施設で3~4店舗をまとめて出せるようになってきたのです。施設のデベロッパーからは、「 出店依頼をすれば、3~4テナントを流行る店舗で埋めてくれる 」 「 顔をいくつも持つことによって、柿安の魅力が高まっている 」 といった評価をいただけています。
− レストラン事業ついて詳しくお聞かせください
【 赤塚社長 】 いま最も出店の勢いがある事業ですが、出店が増えれば増えるほど人材育成に遅れが出て、店舗運営にブレが生じる “ 諸刃の剣 ” でもあります。これに留意しながら、早い段階で売上を 100億円規模にしていきたい。現状、精肉と惣菜で全体の70%を占めていますが、特定の事業に偏ると、何か問題が起こったときに会社自体が傾く危険性があります。4事業が25%ずつという理想的な売上構成比を果たすために、レストラン事業は積極的に出店していきます。
滝の水のしゃぶしゃぶも好調に推移しています。高級業態というのは、出店後じわじわと売上を伸ばしていくのが一般的なのですが、ここは最初から平均日商 100万円という数字になっています。2店舗目(東京)、3店舗目(場所未定)も出そうと思っています。ただ、この業態は、ビュッフェと異なり、よりサービス面がクローズアップされますから、人材育成にも時間が掛かるので慎重に出店していきます。
新業態のハンバーグステーキレストランは、最も大きくなるのではないかと見ています。その理由は、店舗面積が 40~50坪程度で抑えられるので少人数できる、「 肉屋がやっている、洋食の職人がいるハンバーグ屋 」 というブランドがあるからです。ハンバーグは簡単な料理と考えられがちですが、「 焼く技術 」 と 「 タレの技術 」 が必要なほか、「 肉を選ぶ技術 」 「 肉を加工する技術 」 も求められる。この全てを満たせるのが、柿安のハンバーグステーキ店だと自負しています。
− 最後に、社長としての理念をお聞かせください
【 赤塚社長 】 いま、社員教育の場などで、「 柿安が 130年以上存在できているのは、“ 美味しいものを、お値打ち価格で ” 売り続けてきたからで、そのことを決して忘れてはならない 」 と言い続けています。社長就任にあたって現会長から言われたのは、「 会社には変えていいものと変えてはならないものがある。変えてはならないものは企業理念。それ以外の変えられるものは全て変えなさい 」 ということ。私が変えすぎるので、会長は驚いているようですが…(笑)。
株式会社 柿安本店
http://www.kakiyasuhonten.co.jp/
1871年(明治4年)、新時代の象徴である牛肉に魅せられた柿安初代・赤塚安次郎が三重県桑名市に牛鍋屋を開店して創業。1968年(昭和43年)11月の法人化以来、「牛肉しぐれ煮」をはじめとする各種総菜・精肉の販売を全国展開する一方、外食事業も強化。
平成7年に郊外型レストラン「柿安 柿次郎」を桑名市にオープン、その後もビュッフェレストラン「柿安 三尺三寸箸」、「讃岐きしめん 大吉」、飲茶ビュッフェ「柿安香港飲茶」など新業態を次々に出店。
2006年(平成18年)10月には、ビュッフェレストラン「柿安 国際美食」(中国・上海市)で海外にも進出している。精肉事業、惣菜事業、レストラン事業、食品事業の4事業で食文化を創造する一方、『美味しいものをお値打ち価格で』というお客様第一主義を貫いている。
赤塚 保正
代表取締役社長
昭和38年(1963年)、三重県出身。
昭和62年(1987年)、慶應義塾大学法学部卒業後米国に留学。
平成元年(1989年)、株式会社柿安本店入社。
平成10年(1998年)、取締役レストラ ン営業部長、平成13年(2001年)、常務取締役レストラン営業部総支配人、平成16年(2004年)、専務取締役レストラン事業本部長兼精肉事業本部長等を歴任後、平成18年12月に代表取締役社長に就任。