関西圏を中心に94店舗の和食店を展開する がんこフードサービス は、同志社大学出身の創業者小嶋淳司代表取締役会長が大阪の十三に開業した4坪半の寿司店が始まりである。「 美味しくて安い、そして楽しい 」、このコンセプトには、本当に美味しい料理をリーズナブルに提供するだけではなく、食事の “ 場 ” や “ ひと時 ” を大事にしていきたいという気持ちが込められている。食文化を通じて、和の心や和の伝統を大切に守りながら事業展開をはかる 「 がんこ 」 の現状について、代表取締役社長の志賀茂氏にお話をうかがった。
- 「 がんここだわり倶楽部 」 は海外の環境保全にも貢献しているとお伺いしました。
ブラックタイガーのことですね。私どもの海老はインドネシアのタラカン市という街でつくっているんですが、海老をつくらせていただく代わりにマングローブの植林をしております。マングローブは海岸域の災害を防ぐ役割やCO2を吸収しますので地球温暖化を抑える効果も期待できます。養殖も、通常の生簀を使った方法ではなく、粗放養殖(※1) と言って自然に近い形での養殖方法を採っています。これにより大きな良い海老ができるのです。ですから現地と当社でwin-winの関係で進められることになります。
また、マグロに関しては多くは地中海産の物を使っています。日本のマグロ漁業は20~30kg小振りな物を乱獲していたのですが、ICCAT(※2) から駄目だと勧告を受けたのです。このクラスはまだ幼魚ですからそれはその通りですよね。当社では300Kg級の成魚を水揚げ、蓄養していますので自然に優しいだけではなく、脂の乗った美味しいマグロをお出しすることができるのです。今など旬の時期には和歌山沖で養殖している熊野マグロを使っているのですが、これでも50~60kg級の物です。当社の場合メーカーさんの協力のもと一緒にマグロをつくっていますので、品質の良い物を食べやすい価格で提供できるのです。
この他にもアナゴやウナギなども海外で作っているんですが、担当セクションの商品本部の本部長などは椅子を暖める間もなく、年がら年中海外を飛び回っています(笑)。
(※1) 粗放養殖は、自然の地形を利用した広大な養殖池の中に、ごく少ない尾数を放流し、人工の飼料を使わず周囲の環境や生態系と共存しながらえびを育成。自然に近い環境で、養殖密度を抑えてのびのびと育てられるため、えびは大きなサイズに育ちます。自然の力を活かした養殖法です。(出典:ニチレイフレッシュ株式会社ホームページより)
(※2) ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)は、大西洋におけるマグロ類の資源を最大の持続的漁獲を可能にする水準に維持することを目的に設立された大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約。小型魚の漁獲、水揚げ禁止などを取り決めている。(出典:外務省ホームページより)
「屋敷」業態 の最初は、1990(平成2)年にオープンした 「 平野郷屋敷 」 ですが、「屋敷」業態の話の前にしなければならないのが、もともと、なんば、梅田や三条など 「 がんこ 」 の内装に解体された日本の民家の物を使用していたことです。当時、プレハブなど新建材を用いた住宅に替わってきました。旧来の日本家屋は夏も冬もしのぎやすいなど日本の気候、風土にあったものでした。家を支える柱なんてそれは立派な物が使われていました。それがどんどん壊されていく様を見て、がんこは日本の食文化だけではなく、生活文化も守っていく必要があるのではという考えを持ちました。「 昔の家はこういう物を使っていたのか、こういうつくりをしていたのか 」 ということをお客様に知っていただきたいということで、壊された古い民家の柱や梁だけではなく、障子や襖といった建具までお店の内装材として使うようになったのです。例えば 梅田OS店 は大黒柱から梁組みなど旧民家2軒分の建材を使用し、一切新建材を使っていないのです。それだけではなく旧商家をモチーフに客間や蔵、旦那の部屋などをつくることにより旧来の家のつくりをお客様に知っていただけるように工夫しました。
この様な中で、平野の豪商辻本家が江戸時代初期に建築したといわれる屋敷を取り壊してマンションを建築するという計画がありました。しかし歴史的な建造物ですからご当主はかなり悩まれて、何とか残したいという話がたまたま当社にきたのです。このまま行ったら日本の素晴らしい木の建築文化が無くなってしまいます。何とか日本の文化を守りたいということと、「 屋敷 」 の中でお食事をしていただくことによりお客様にはご馳走感を感じていただける、「 美味しくて安くて、そして楽しい 」 の楽しい “ 場 ” のご提供ができるということで、ここをそのままの形(厨房は防火区画に改造)でお店として使わせていただくことにしました。
「 がんこ高瀬川二条苑 」 は、森鴎外の高瀬舟で有名な高瀬川源流庭苑、戦国時代の豪商角倉了以の別邸で、明治時代には元勲・山県有朋の別荘 「 第二無鄰菴(だいにむりんあん)」 であったところを使っています。人と建物が相互作用で作り出す “ たたずまい ”、建物と庭が融合して生まれる自然との一体感を美味しくリーズナブルなお値段で食べられる料理とともに楽しんでいただきたいですね。
がんこフードサービス株式会社
大阪市淀川区
代表取締役社長 志賀茂 氏
1962年 小嶋淳司氏(現会長)、同志社大学経済学部卒後寿司店で修行
1963年 小嶋氏、大阪十三にて4坪半の寿司店個人創業
1969年 小嶋商事株式会社設立
1980年 がんこフードサービス株式会社に改称
志賀茂 氏
1946年 現京都府福知山市出身
1972年 同志社大学経済学部卒業 小嶋商事株式会社入社
1983年 取締役 営業部長 その後、常務取締役、専務取締役、副社長を歴任
2005年 代表取締役社長就任 現在に至る
関西経済同友会・幹事などの公職に就く