「ドトールコーヒーショップ」をはじめ多彩なブランドのカフェを全国に展開、業界のリーディングカンパニーの地位を確立している株式会社ドトールコーヒー。 “一杯のおいしいコーヒーを通じてやすらぎと活力を提供する”を企業理念に掲げる同社の歴史と業態開発戦略をひも解いてみる。
本年4月26日、「ドトールコーヒーと日本レストランシステムが経営統合へ」という衝撃的なニュースが外食業界を駆け巡った。この発表後、米投資ファンドのハービンジャー・キャピタル・パートナーズの一連の発言により、にわかにその動向に外食関係者の耳目が集まった。6月28日に開催された株主総会においては、850人弱という過去最高の出席者を集め、82%の賛成票をもって経営統合案が一歩踏み出すことになった。 |
経営統合後のドトールの姿会社の形態は、ドトール・日レスホールディングスの下に、ドトールコーヒーと日本レストランシステムが事業会社として並ぶことが決まっている。また、事業会社の下には、ドトールで言えば、ドトールコーヒーショップ部門やエクセルシオールカフェ等の部門が付き、日レスも同じような組織形態になる。ホールディングスは、管理部門が中心となる。しかし現在の管理部門の社員が全てホールディングスに行くわけではなく、新会社設立当初は、数十人規模の転籍になることが予定されているようである。つまり当面は、ほとんどの管理部門社員は各事業会社に所属、ホールディングスと連携を取りながら業務を遂行していくことになる。 現在、両社間で統合準備委員会を作って、統合に向けた会合が重ねられている。この下に、 ファンクションごとに分かれた分科会が設置され、財務・経理・総務・システム・広報といった部門が入る方向性で、具体的な案件を検討している。ここで特筆すべき点は、店舗管理部門や設計部門といったいわゆる店舗開発の部門の分科会も併せて設置されて行く方向性であるといった点である。 というのも、通常の経営統合では、コストシナジーを求めることが多いが、今回のドトール・日レスの場合は、「 成長 」 を求めた統合である。つまり、新規出店の加速がメインとなり、シェアアップを求めた統合であるからだ。新業態の開発、複合店舗の開発、物件の開拓、そしてメニューの共同開発などをスピーディーに推進するためには、この部門が果たす役割が、非常に大きくなるのである。 今回の統合の大きな目的である新規出店の加速に関しては、統合後、まずは日レス側に大きく寄与していくと考えられる。これは、ドトールが持つ莫大な物件情報を活用することで、日レスの新規出店を加速されるからである。実際に、ドトールが持つ数万件の物件情報を付き合わせた結果、日レスの条件に見合う物件が、数百件にも及んでいたのである。しかし、一挙に 3桁にも及ぶ出店は考えられない。飲食業は、店長をはじめとした店舗運営に関わる従業員の質を高めることが重要であるので、人材教育をきちんと行うことが必要である。この点にも力を入れていくことになる。 一方、ドトールは、自社の持つフランチャイズシステムを最大限に活用して、日レスのノウハウを取り入れた新業態を開発、出店していくことになる。しかし、新業態の FC化は一朝一夕に行くものではない。ドトールは、日レスの業態のうちのいくつかをピックアップし、半年から1年間をかけ直営で展開していくことになる。この間に、FC化のための課題の洗い出しや解決を試行錯誤していき、一定基準のパッケージを作り上げて、一気に広めていくことになる。このFCフォーマットは、全く新しい業態になる予定だ。幸いにも、ドトールには500以上ものFCオーナーが存在する。今まで、ドトールのFCシステムに対して好感を持っていながらも、業態がないために出店できなかったオーナーにとっても大きなメリットとなるであろう。 ドトールにとっての大きなアドバンテージとしては、立地交渉力の向上も挙げられる。これまでは、基本的に駅前の1階という非常に高額な土地に出店を行ってきた。日レスとの統合により、複数業態を持つことになり、1階だけではなく、2階~3階といった複数階、場合によっては、ビルを一棟借りるという展開もできるようになる。また、駅前だけではなく、郊外の土地も対象となり、コストを下げた出店が可能となる見込みだ。さらには、広いフロアを持つ物件にも出店が可能となる。例えば、100坪のビルの場合に50坪をドトールコーヒーショップ、残りをスパゲッティや自然食レストラン、場合によってはケーキ屋を出店するということも可能となるだろう。 今回の経営統合は、消費者にとってのドトールの存在価値を高める可能性を秘めている。今までは、通勤や通学途中に、毎日、同じ店に、同じ時間に立ち寄ってコーヒーを飲んできたケースが多いと思われる 。パンやケーキなどの食事はあるものの基本的には喫茶であり、しかも、駅前やショッピングセンターといった立地に限定されていた。それが、ロードサイドなどの郊外や住宅地などに、食事を含めた新業態となって登場することとなる。今までは、駅前でしか飲めなかったドトールのコーヒーが自宅の近くで飲めるようになり、ドトールが提供する食事も食べられる。消費者の生活により密着する利便性は、消費者に対してドトールをより身近な存在に発展させるに違いない。
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