「ドトール編」日本に“トマ・カフェ(コーヒーでも飲もうか)”文化を! ~喫茶業界に新風を起こしたドトールコーヒーの業態戦略~

外食企業物語 ドトール編 日本にトマ・カフェ(コーヒーでも飲もうか)文化を 喫茶業界に新風を起こしたドトールコーヒーの業態戦略

「ドトールコーヒーショップ」をはじめ多彩なブランドのカフェを全国に展開、業界のリーディングカンパニーの地位を確立している株式会社ドトールコーヒー。 “一杯のおいしいコーヒーを通じてやすらぎと活力を提供する”を企業理念に掲げる同社の歴史と業態開発戦略をひも解いてみる。

第1回 コーヒーに魅せられた男のものがたり

第1回:コーヒーに魅せられた男のものがたり

コーヒーでやすらぎと活力を提供することが喫茶業の存在意義

あるぜんちな丸と喜望峰経由の乗船チケット終戦から14年が経過しようとしていた1959年(昭和34年)2月のある朝、ひとりの20歳の青年が横浜・山下埠頭からブラジル行の客船「あるぜんちな丸」に乗り込んだ。色とりどりの紙テープが舞うデッキの上で、自らが魅せられたコーヒー業での成功を誓っていたその青年こそ、ドトールコーヒーの創業者 ・ 鳥羽博道(とりば・ひろみち) である。

1937年(昭和12年)に埼玉県に生まれた鳥羽は、高校生のときに東京へと旅立つ。家出同然に出てきた彼は、生きていくために新宿駅前にあったレストランでコック見習いとなる。仕事内容は、料理の仕込みとコック長にコーヒーを用意することで、これがコーヒーとの初めての出会いとなった。若き日の鳥羽博道氏軍横流しの缶入豆をサイフォンでいれた最初のコーヒーは、「缶詰独特の酸化した日向臭さ。まずいとも、格別美味しいとも思わなかった」という。コーヒーを美味しく感じたのは、次に勤めたレストランでバーテンとなったときのこと。昨日よりも美味しいコーヒーをいれたい。生きるために飛び込んだ喫茶業界で初めてやりがいを感じる瞬間となったのである。

18歳になった鳥羽は、コーヒー豆焙煎卸の会社でセールスをするようになる。赤面対人恐怖症を克服して営業成績も上がりはじめた頃、会社が有楽町に喫茶店を開店、そこの店長に抜擢される。若き店長として最初に取り組んだのは、「喫茶業が世の中に存在する意義は何か?」という“極めて素朴な難問”であった。当時は、戦後を引きずりつつも、好景気に入るという混沌の状況。一杯のコーヒーを通じて安らぎと活力を提供する時代の勢いに煽られ、めまぐるしく働く都会の人々が疲れ果てているように彼の目には映り、それが難問の答えとなった。「一杯のコーヒーを通じてやすらぎと活力を提供することこそが、喫茶業の使命にほかならない!」。19歳の鳥羽が思い至った信念は、やがてドトールコーヒーの基本理念となり、不変の願いとして今に受け継がれている。

 

日本の裏側で描いたコーヒーへの野望

有楽町の喫茶店は大成功を収め、鳥羽自身もある種の充実感と自信を得るが、その一方で、“このまま喫茶店の店長で終ってしまうかもしれない”という将来に対する不安も抱えるようになる。そのような時に、ブラジルでコーヒー農園を営む知り合いから一緒に働いてみないかという誘いを受け、彼は自らが魅了されたコーヒー業でのさらなる成功を胸にブラジル行きを決意するのである。

ブラジルでのワーキングビザ(上)とブラジル修業時代の鳥羽氏ポルトガルやイタリアの影響を受けた当時のブラジルは、鳥羽の想像よりもはるかに進んだ興味深い国であった。道で知り合いに会うと、「トマ・カフェ(コーヒーでも飲もうか)」と言ってコーヒーショップに入り、サッカー談義に花を咲かせる。彼も同じようにコーヒーを楽しみながら、コーヒー農園では現場監督として現地の労働者と一緒に汗を流し、栽培状況や作業工程を学ぶ生活を続けていた。“ブラジルの太陽は、コーヒー農園から昇り、コーヒー農園に沈む”と言われるほど広大な農園…。そこに中世ヨーロッパの城郭のような農園主の家があり、自家用の飛行機が飛ぶ…。そんな光景を目の当たりにすれば、20歳前後の青年が「いつの日か、自分も農園主になりたい!」という野望を抱くのは必然だろう。ブラジルの大地は、感激と驚きの日々を彼に与えるとともに、いろいろな形で内面的な変化をもたらしたのである。

ドトールコーヒーを設立して、カフェ・コロラド、ドトールコーヒーショップなどの喫茶業を展開して成功を収める結果的に彼は、ブラジルから帰国後、ドトールコーヒーを設立して、カフェ・コロラド、ドトールコーヒーショップなどの喫茶業を展開して成功を収める。さらには、1991年(平成3年)、1995年(平成7年)とハワイに2つの直営農園を開設、日本の裏側で描いた大きな夢も現実にする。喫茶業とコーヒーへの使命と野望。若き日の誓いを守り続けた一貫性こそが、ドトールコーヒーの血脈となっているのである。

 

 


株式会社ドトールコーヒー

株式会社ドトールコーヒー

http://www.doutor.co.jp/

コーヒー豆の焙煎・卸会社として1962年に設立。1972年の「カフェ コロラド」を皮切りに、「ドトールコーヒーショップ」「エクセルシオール カフェ」などさまざまなブランドで全国展開するカフェ業界のリーディングカンパニー。

取材協力:広報部 鈴木美重子様

ページのトップへ戻る