福本龍太郎の米国店舗視察 ラスベガス発 ~成長する砂漠のホスピタリティ~ 有限会社ノーデックス 福本龍太郎氏

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第3回 Maryland Parkway の憂鬱(2)

第3回 Maryland Parkway の憂鬱(2)

幼少のころ、1980年代初頭だと記憶しているが、私の出身地(九州西北の小さな市街で、基地がある。)にはまだマクドナルドは出店しておらず、昔ながらの 「 ハンバーガーショップ 」 がどこにでもあった。

今は駆逐されてしまったフォーマットと言って良いと思う。

つたない記憶をたどるが、カウンターに、グリドル(ただの鉄板?)が設置されており、目の前で調理をする方式であった。

バンズは丸のままの 「 パン 」 をその場で上下半分に切り、切断面を下に、鉄板に載せて軽く火を通す。

おそらくグリドルの半分は弱い加熱、半分はパティを焼くために高温に設定しており、パンの風味がにおい立つまでの間に、パティを焼く。

肉が焼きあがったら手早くレタス、パティ、ケチャップまたは店独自のソース、ピクルス、輪切りのトマト、たまねぎ、の順で載せ、上半分のバンズを載せて出来上がり。

これでもそんなに待たされるイメージは無かった。

当時はすでに、紙にくるんで提供していたような気がするが、ファーストフードというよりも、ご馳走の一種であった。

さて、そんな私のノスタルジーを喚起する、「 ハンバーガーショップ 」 のドアをくぐる。

 

創業60年の最古参 「 In n Out BURGER 」

In-n-Out Burger は、JACKIN THE BOX 同様、日本に上陸していないハンバーガーチェーンである。今回の 「 炎のFF店舗視察ツアー 」 のなかで、一番印象に残っている。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
YOSHINOYA を出て徒歩10分で到着。4705 S Maryland Pkwy Las Vegas, NV 89119, USA

In-n-Out BURGER は創業1948年、カリフォルニア州ロスアンジェルス近郊、Baldwin Park に1号店を出している。

先に訪れた JACK IN THE BOX と同様、創業当時からドライブスルー形式の提供を行っている。

意外なことに、われわれが訪れたようなイートイン型の店舗が作られ始めたのは近年のことで、創業当初の形としては、ドライブスルーのみでスタートしている。

1970年代の経営陣交代から、急速に(といっても小規模な印象)西海岸地域での出店攻勢を行っているが、これも JACK IN THE BOX と同様、カリフォルニアの浪費体質(おおいに偏見を含みます)、戦後の民衆の開放感とコマーシャリズム、に歩調を合わせた成長曲線がうかがえる。

現在は210店舗を展開しており、郊外型出店であるが、われわれが訪れた店を含めラスベガスには7店舗ある。

当時からメニューを貼ったスピーカーボックスにオーダーを行う形式で、かなり画期的な光景だったと思う。

先に述べた JACK IN THE BOX が、3年後の1951年に南部のサンディエゴでドライブスルー形式の店舗を出すことになるが、McDonald's の創業者、レイ・クロック ( Raymond Albert Kroc )が、有名なマルチミキサー販売から転身した話が1954年である。

この3社のふるまいは、当時のアメリカ西部の気分、というものを色濃く映し出していると思う。

ご存知の通り McDonald's は、この後20年近く経て、なぜか「 文明 」として日本にもちこまれる。

 

高い品質を維持するシンプルなビジネス哲学

すでにチキン・パン・牛肉・米がつまった私の胃袋であるが、果敢にオーダーする。

メインのメニューアイテムはなんと、

「 ハンバーガー 」 「 チーズバーガー 」 「 ダブルチーズバーガー 」

の3種のみ。

サイドディッシュは生のジャガイモから揚げるというフレンチフライ。

・・・ろ、60年もこれだけでやってきたのか 、と。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
「 べつにいいわよ 」 と快く撮影許諾。・・別にお姉さんは撮らなくてもと思ったが、人気。後ろに見えるフライヤでポテトを揚げている。

創業者である Esther Snyder 氏のコンセプト 「 厳選素材と清潔な環境、フレンドリーなサービスを提供 」 は、いたってシンプルに聞こえるが、全アソシエイトに対して浸透しており、従業員もかなり高いモチベーションを持って働いている印象だ。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
見て見て!!というくらい開放的なキッチン。
それでいて野暮ったくない。スタッフがきびき働いている姿も印象に残った。

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店内は明るく清潔。お隣のビル工事現場からお客様がちらほら。ランチタイムである。

よく、「 アイテムを絞りこんで・・・ 」 という話を耳にするが、そもそも 「 増やさない 」 という選択は、マーチャンダイズ的に面白くないという理由で嫌われる傾向がある。

「 増やさない 」 哲学で、商品軸・サービスのバランスを維持している姿を実際に目にして、感銘を受けた。

さて、コメントがまったく参考にならないのであるが、試食。

ここでは、「 ハンバーガー 」 を頼む。いちおうコンボメニューがあるが、ポテトとドリンクをセットにしたもの。

上記のやさしいスタッフに促されて 思わず注文しそうになった が冷静に単品を注文。

冒頭、私の記憶のみで紹介した製法も、ほとんど同じで、本当に懐かしく感じた。電子レンジや冷凍製品はもちろん使わない。

サイズもああこんなもんだったよなと、決して大きくは無い。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
注文から提供までは少し時間がかかる。5分くらいか。
レタスやたまねぎが、見た目にもシャキっとしている。

少し甘いマヨネーズ、ケチャップとおそらくピクルスをブレンドしたソースが後味を軽くして、美味。

ここでなんと、編集長はおじけづいて半分にカットしたものを食していた。

気持ちよく要望に応じてカットしてくれたことも印象に残ったが、残り半分を吹上さんに 無理やり食べさせていた 編集長の暴君ぶりに一同唖然とする。

Maryland Parkway の憂鬱(2)
カットした上、個別に包装。すばらしい!

Maryland Parkway の憂鬱(2)
「仕事だから」と不可解な理由で半分押し付けられる吹上さん。
「・・・・。」

環境面では、店内、外観を通して、本当に清潔な印象があった。

ノスタルジーと書いたが、むしろ、なつかしのテイストというものを売りにしている感じもする。

 

商品カスタマイズについて余話

先に訪れた JACK IN THE BOX でも、カスタマイズ可能なメニューがあるらしいのだが、

In-n-Out Burger でも、裏メニューというものが存在しているらしい。

われわれは情報不足で試せなかったが、お立ち寄りの際はぜひカスタマイズメニューにチャレンジしてほしい。

たまねぎを抜いたり、ソテーしてくれというのは言うに及ばないが、商品名の 「 Double-Double 」 というのは、「 ダブルチーズバーガー 」 のことで、要は、パティ2枚、チーズ2枚・・ということである。

この要領で、ご自由に注文可能。

「 Hundred by Hundred 」 という幻のメニューまで存在しているというが、本当に食べた人は絶対にいないと思う。

 

コーヒーブレイク程度ですが 「 Coffee Bean & Tea Leaf 」

朝食-おやつ-昼食をすべて 2 時間弱 ですませ、だれも牛丼がおやつということに異を唱えないこと自体がすでに感覚としておかしいのであるが、おかげで内臓はすっかり なだれ現象 を起こし、しばしの休憩を必要とした。

In-n-Out Burger の後、一同ふらふらになりながら訪れたのは、スターバックス、ピーツ・コーヒー&ティーとともに、現在の「シアトルスタイル」の元祖となった「 Coffee Bean & Tea Leaf 」である。

南北に走る Maryland Parkway の中間、ネバダ大学のちょうど目の前にある。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
通りをはさんでネバダ大学がある。学生が多い。来客の人種もさまざまである。
おなじくショッピングセンターと、複数の商業施設が固まっているブロックであった。

スターバックスコーヒーがシアトルで創業したのは、1971年であるが、その創業者が勤めていた会社がピーツ・コーヒー&ティー。1966年、カリフォルニアで創業。

そのピーツ・コーヒー&ティーより3年前の1963年、おなじくカリフォルニアで、Coffee Bean & Tea Leaf はスタートしている。

シアトルスタイルなどといわれているが、その祖である企業は2社とも西部での創業というのが興味深い。ちなみにピーツ・コーヒー&ティーについては、 Bean & Tea Leaf 同様、貿易主体の母体があるが、その後スターバックスの傘下におさめられた時期がある。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
店内。フードメニューの品揃えや、提供スタイルなどは、スターバックスと全く同じである。

 

自分の空間でほっと一息という時代感

以前、パネラブレッドに行った感想を述べたが、ここも学校が近いせいであろう、学生がコンピュータを持ち込んで調べ物をしたり、勉強する空間になっていたり、カップルがいたり。

「 使い方 」 が完全に消費者側の行動によって確立されている。

空間・雰囲気・おいしいコーヒーを提供するだけで、そのほかは何も提供しない。

Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2) Maryland Parkway の憂鬱(2)
なんとなく客層が違います。ここではカップに名前を書かされた。” RYU ” と書くと、「 るわいゆー 」 と呼ばれた。とほほ・・。

10年なり20年単位での、1個の業態の躍動を見逃せないということを考えた。

1950年代から、モータリゼーション(車と郊外・中流化)に牽引される形で、アメリカ西部から Quick Service (ファーストフード) という業態が形成され、現在の形をほぼその時期に形成してしまっている。

もちろん現在の形になったのはごく最近であると思うが、同じく西部から、1960年代に、嗜好に応じた薫り高いコーヒーを、こだわりをもって提供するという 「 コーヒーバー 」 フォーマットが形づくられてゆく。

ひとつの産業の歴史というものは非常に多様な物語性を帯びていて、私には明確な解が出せない。世代も同様、わかりようが無い。

その時代の背景や、時代にコミットしている人たちが求める形で、求められたスタイルが圧倒的なスピードで形成されたのだなと、改めて思った。

紆余曲折はあったのだろうが、日本では現在、スターバックスをはじめとする 「 コーヒーバー 」 フォーマットは、実にスターバックスの上陸から10年余で、主だったチェーンの合計だけでもその店舗数は1000店舗にとどくという。


お気に入りだったせいもあってか、長くなってしまった。

関係ないが、町おこし丸出しの 「 佐世保バーガー 」 とか、なんだそれはと思うようなそのカテゴライズセンスには閉口してしまう。産業全体としてなんというか適切な表現とか、コンセンサスを取ることも必要だと強く思う。

情報が世界化した現代の消費者は、そのようなカテゴライズには反応しない。

次回、かつての 「 上陸組 」 TACOBELL 、Arby's の稿を持って、ようやくFF地獄から脱出。



福本 龍太郎

福本 龍太郎

国内コンピュータ販社にて流通小売業界向けSI事業部門を担当し、外食店舗店舗システムにも関わる。
現在は有限会社ノーデックス代表取締役。
ネットビジネス黎明期より各種サービスプロバイダを経験し、業務システムへのネット技術の応用・普及につとめる。

有限会社ノーデックス 代表取締役

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米国外食店舗視察 ~シカゴ・ニューヨーク発 アメリカの非日常・楽しませるという回答~

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