東京・神楽坂に居酒屋「MASUMASU(ますます)」、炉端焼きの「肴町五合」、しゃぶしゃぶ専門の「しゃぶ屋」と3店舗を構える志小田氏。18歳から外食産業に身を投じ、フレンチ、イタリアン、カフェレストラン等を渡り歩いてきた経験をいかんなく発揮して、3店とも神楽坂の人気店に育て上げています。
飲食店経営は、ただの商売人ではなく、“笑売人”であり、“Show売人”になるべきという志小田氏から、飲食店経営に必要な心構え、お客様との関係づくり、地域とのふれあいの秘訣を教えていただきました。
なお、今回のインタビューは、志小田氏も出店した地元商店街主催の「神楽坂まつり」会場で収録しました。
「MASUMASU」も出店当初は、ただただ、じっと我慢でしたね。「ここで雑誌に掲載してしまってはいけない」と頑なに思っていました。気合いで呼んでみようと念じてみたりもしましたね。そうしたら、本当に来ることがあるんですよね。俺達の気が通じたんだとスタッフと喜んでいました・・・(涙)。思い込みでしょうけど(笑)。でも雑誌に掲載されるのがいけないという事ではなく、自分たちの力を試したいということと、人が人を呼ぶ強い結びつきを作りたかったのです。変な噂・悪い噂は広まるのが早いですが、いい噂をどれだけ自分たちの力で広めていけるのかを試したかったのです。ですから、軌道に乗るまでの1年間はじっと我慢していました。その間、お店に来ていただいたお客様を、どうすればまた呼ぶ事ができるか!?その事しか考えていませんでした。今でこそ、 3軒目の「しゃぶ屋」で暖簾を出していますが、当時は、そういう高級感が出るようなことも、一切しないようにしていました。ローマ字でMASUMASUにしたのもそうです。神楽坂という街にありながら、身近に感じられるようなイメージにしたかったのです。
MASUMASUの由来は、時代劇の看板などで見かける“~いたし ”のマスから取りました。“何でもつくります”という感じですね。焼酎好きもあって、焼酎の種類と温故知新的な新しい家庭料理を売りにしました。
2店舗目は、シンプルな素材重視の炉端焼「五合」。全国各地の干物や珍味、それに合う日本酒を売りにしました。炉端焼きが有名な釧路に勉強に行ったとき“二升五合(にしょうごんご)”という木札をよく目にしました。二升で升升(ますます)、五合は一升の半分で半升(はんしょう)、益々繁盛という意味で、これは丁度いいということで店名にしました。さらに業態を変えてみようと、3店目の「しゃぶ屋」を五合の上階に出しました。MASUMASUの隣の路地にあるのですが、業態が増えたことで、お客さまに選んでもらえるようになりました。5年で3店舗になりましたが、無理に店を増やしたわけではありません。人が育たなければできないことですから、スタッフが育って自然に増えたという感じです。それが自然な姿だと思います。店舗先行型になって、店ができるから人を募集しようではなく、自然に増えていくことが、店の質という部分でもいいことだと思います。一番長いスタッフは、5年も働いていますので、そろそろ巣立ちの時。後輩が成長して彼らを押し上げてやらないといけないでしょうし、逆に、彼らも後輩を育てて自分の分身を残さなきゃいけない。それが自分で店を持つための勉強。お店を出すことは、ゴールではなくスタートですから、それまでにあらゆる準備運動をしておかなければ、スタートしても走り出すことはできません。スタート台に立つ前に、いかに練習していかに失敗できるかです。そして長く走り続ける為の持久力(=企画力や行動力など・・・)を身につける事が大切だと思います。
MASUMASU の客層は、比較的に若いです。20代前半から中半の OL の方が多くて、その次がカップル。炉端の五合や、しゃぶ屋には、男性のお客様が目立ちます。業態を変えたことで棲み分けもできているようです。各店”あきない店”を目指し、自分達で新しいメニューを試行錯誤しながら考え頑張っています。季節メニューは、各店舗会議で考えたり、評判のいいまかないがおすすめになったりすることがあります。
メニュー作りでのポイントには、“目で食べる”という感覚を重視しています。以前、ある方に礼状を出したら、「美味しそうな字ですね」という返事をもらったことがありました。別にメニューを送ったわけじゃなく、お礼の文章だったのですが、とても嬉しかった。メニューは書くときの字だけではなく、品名のリズムや語呂、耳に残るネーミングに気を配ると美味しそうなものになります。食感でもそうですが、いい意味での意外性、「なんだこれ?」という嬉しい裏切りがあることが料理には必要です。いい意味で裏切ってあげる、そのメリハリやバランスが大事ですし、それをいつも考えていると、この仕事が楽しくて仕方がないですね。
そして、料理は、人と人とをつなぐ役割を持っています。普段、街中でいきなり声を掛けたら不審に思われますが、お店で料理を出した瞬間に、私とお客様はもちろん、見知らぬお客様同士がお話をするのは、ごく自然なことですよね。ですから、料理は食べるだけのものではなく、皆を結びつける最高のアイテムでもあると思います。又、店作りには人と人がふれあう雰囲気作りも大切でしょう。その雰囲気は、懐かしさだったり、ちょっと安心できるような、お客様が気を抜けるところが必要だと思います。緊張感の中で食べるより、時にはこんな屋台の夜空の下で風を感じながらリラックスして食べる。その方が同じものでも絶対に美味しいはずですからね。