一昔前に比べ海外旅行は身近な存在になっただろう。とはいえ、現実は時間もないしお金もかかるし……と、なんだかんだで諦めている人は少なくないはずだ。芸術新聞社より今年8月に刊行されたグルメ漫画「東京世界メシ紀行」(いのうえさきこ著)は、まさにそんな人たちに読んでもらいたいガイドブックである。
グルメ漫画「東京世界メシ紀行」は、レストラン開業の野望をいだく主人公・知世(ちせ)が、会社の後輩・米田とともに東京に実在する世界各国の料理店を食べ歩くという内容だ。タイトルにある「世界メシ」というのは聞き慣れない言葉だが、著者で漫画家のいのうえさきこ氏による造語である。その定義はこうだ。
・現地の料理人が作っている料理
・現地の人が食べている料理
・現地気分を味わえる料理
お気づきの通り、本書は、「現地」に対する強いこだわりがある。日本人が料理人という場合、メニューは日本人好みにアレンジされるに違いない。一方、現地の料理人が作っている場合、客側としては自ずと“本物の”現地の味を期待するのではないか。本書も食べやすさ以上に、まだ見ぬ味への好奇心に重きを置いている。
さらにユニークなのは、中国や韓国、タイ、インドといった料理店として比較的メジャーな国が避けられている点だ。逆に、ウイグル、ベラルーシ、ブルキナファソ、トーゴなど、世界地図上の場所が浮かばない人も多いだろうマイナーな国の料理店が選ばれている。28カ国の料理が、漫画による食レポのような臨場感を伴って描かれているのも見所のひとつである 。食欲をそそるカラー写真と、料理の背景にあるその国の歴史や文化の解説なども充実している。登場する料理は初めて見るものばかりだが、知世と米田のおいしそうな表情を見ると今すぐにでも食べに行きたくなる。
日本にもさまざまな国の料理店があることは認識されている。ましてや東京であれば推して知るべしだ。ただ、それが現地の料理人によるものかどうかはどこまで意識されているだろう。本書は料理における「現地」という視点を与えてくれる。都内近郊に住んでいれば、本書を鞄に入れて気軽に出かけることもできる。
食欲の秋、食事をエンターテインメントとして味わいながら、まだ見ぬ味に出会い“味覚のボキャブラリー”を増やしてみてはいかがだろうか。
本連載では、次回からは数回に渡って、著者のいのうえさきこ氏のインタビュー記事を掲載していく。いのうえ氏が考える「世界メシ」の魅力とは? また外食産業における強みとは? 乞うご期待。