サッポロビールの関連会社として、全国でビヤホールやレストランなどを経営する 株式会社サッポロライオン。明治時代に東京・銀座で誕生した日本最初のビヤホールをルーツとする同社は、ビヤホール業態の歴史を誇るパイオニア企業である。創業から一世紀というのは、はやり廃りが大きな飲食業においては、まさに悠久の歴史といえる。伝統を重んじる老舗から、全国200店舗以上をネットする総合外食企業へと発展した秘訣について、代表取締役社長・山崎範夫氏にお話をうかがった。
― 社長に就任されてからは、どのような政策を行われたのですか?
【 山崎氏 】 従業員が店舗で感動した事例を共有する 「 感動情報共有センター 」 や、若手社員と泊まりがけで行う 「 社長座談会 」 などを設置しました。それから、全社員を対象に 「 業態開発グランプリ 」 も行っています。
― 最近では、優良外食産業表彰式で、農林水産大臣賞・環境配慮部門を受賞されたことも話題になりました(平成21年4月)。
【 山崎氏 】 店舗の照明にLEDを使ったり、太陽光発電に取り組んだりといった設備面から、食料の廃棄を少なくする運動や店舗前の通りの清掃といった従業員の活動も含めて、環境配慮に取り組んで来たことが評価されました。
コストも手間もかかりますが、サッポロライオンを 「 いい会社 」 にするために環境面に取り組みました。これからの会社は、儲かるだけではいけません。規模を拡大するだけではなく、信頼も大きくできる会社になることが大切です。環境問題は社会からの要請で、飲食業は、廃棄物の問題など注意すべき点もいろいろとあるのです。その中から、少しずつではありますが取り組みはじめたというのが現状です。農水省から表彰をいただきましたが、まだ十分ではありません。
― 「 いい会社 」 という考え方について、もう少し説明をしていただけますか?
【 山崎氏 】 「 いい会社 」 というのは、私どものお客さまだけではなく、地球にいるすべての人々に良くなければいけません。そのためにはどうすればいいか、自分達でできることを実践するという意識が大切です。農水省から表彰されたときに、「 何が評価されたの? 」 と疑問に思った社員がたくさんいたことも事実です。しかし、それをきっかけにして、何がエコになるのかを改めて知り、自ら考えることができるようになったのです。店で働いていると、何がどのようにリサイクルされているのかは分からないものです。それを学ぶきっかけをもつことが、「 いい会社 」 へのはじめの一歩になると思います。
料理ひとつにしても、最大のエコは残飯を出さないことです。そのためにはどうすればいいかというと、適正な量を出したうえに美味しくつくる必要があります。適正で、安全・安心で、健康で、美味しい料理をつくろうという意識が、最大のエコになると知っていくことが大切なのです。広く長い目で見れば、これも環境につながるはずです。肩肘を張って環境問題に取り組むのではなく、自分たちにできることを絞ってやっていきたいと思います。まずは、社員全員に気づいてもらって、環境問題に対する新しいアイデアが出てくることに期待したいと思います。
― 外食企業を経営するうえで、一番重要なことは何だとお考えですか?
【 山崎氏 】 お客様を大切にすることが基本だと思います。安全・安心で、健康的な本物志向の料理を美味しく提供しつづけること。そして、従業員を大切にすることです。CSとESをきちんとやった上で、適正な利益を生み出していくのです。店舗数何百店、売上何百億円という目標は、重視されない時代になっています。それよりも、皆から尊敬される飲食店を目指す考え方が重要ですね。
― 食の安全・安心に関しては、どのような取り組みを行っているのですか?
【 山崎氏 】 「生産者との信頼関係」というのをひとつの指針に考えています。安全・安心は、やはり目が届くことが基本になりますから。産地に赴いて自分の目で見て、納得できるものをお客さまに出すという意識を徹底したい。逆に、産地の方には私どもの店舗に来ていただいて、「 皆さんがつくったものは、このように召し上がっていただいています 」 と現場を見てもらうようにしています。
これらをもっと積極的に行えば、日本の農業も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。若い人に従事してもらって、農業が就業率アップに貢献するようになってほしい。そこでつくられたものが私どものお店で料理になって、多くの人に食べてもらえる。お金が回って皆が潤って、心も体も豊かになるサイクルをつくっていきたいです。それをできるようにすることが 「 食文化 」 だと私は思うのです。その担い手になりたいという気持ちを最近は強くしています。これから外食を志望する人も、使命のひとつだと考えてほしいですね。
株式会社サッポロライオン
【代表取締役社長】山崎 範夫氏
【本社】東京都中央区日本橋本町2-6-3 小西ビル5・6F
明治32年(1899年)東京・銀座8丁目に「恵比壽ビヤホール」(当時は日本麦酒株式会社が経営)として創業
大正3年(1914年)札幌狸小路2丁目にビヤホール開店(当時は札幌麦酒株式会社が経営)
昭和11年(1936年)大日本麦酒株式会社より飲食部門を分離独立、共栄株式会社として発足
昭和24年(1949年)共栄が二分割され、日本共栄株式会社(現株式会社サッポロライオン)と朝日共栄株式会社が設立
昭和33年(1959年)サッポロビヤホール、ニッポンビヤホール、広島ニッポンビヤホールの3社を吸収合併
昭和41年(1966年)サッポロ共栄株式会社に社名変更
昭和54年(1979年)株式会社サッポロライオンに社名変更
昭和63年(1988年)東証第二部へ上場
平成15年(2003年)持株会社サッポロホールディングス設立を柱とするサッポログループの事業再編に参画
※総合外食企業として、ビヤホール・ビヤレストランをはじめとする幅広い業態を展開。全国主要都市に202のチェーン店を運営している(平成21年8月1日時点)
代表取締役社長 山崎範夫氏
昭和25年高知県生まれ。慶應大学在学中からサッポロライオンのビヤホールでウェイターのアルバイトを体験する。卒業後2年間もアルバイトを続けた後、上司の勧めで、昭和50年(1975年)に入社。全国各地の店舗で店長・支配人として現場経験を重ねたほか、本社営業部やメニュー開発部などにも配属。平成15年(2003年)7月から現職、初のサッポロライオン生え抜き社長となる。
取材協力:経営企画室長・取締役執行役員 多田重夫氏(写真左)
経営企画室 西村礼佳氏(写真中央)