飲食店は人間力の修行の場-働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる- 株式会社自然回帰 大西礼二氏

飲食店は人間力の修行の場-働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏

ただ儲かればいい、自分さえよければいいという前時代的な価値観ではなく、食と命のつながりを自然から学び、飲食店のあるべき姿を追求する独自の店舗展開を行っている株式会社自然回帰 。無農薬野菜などさまざまな自然の恵みをメニューに掲げる「活菜厨房 然」をはじめ、自分の理想とする店舗を繁盛店に育てている大西社長だが、その裏では「飲食の起業家がやりがちな失敗をすべて経験してきた」と自らの経歴を振り返る。その体験談を赤裸々に語っていただきながら、起業時のアドバイスや繁盛店へのヒントをうかがった。

第5回 出店してからが本当の勝負。努力の積み重ねが信用になる。

第5回 出店してからが本当の勝負。努力の積み重ねが信用になる。

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏 1店目をオープンさせてすぐに一時閉店せざるを得ないことになった私のように、起業してからが本当の勝負が始まります。起業前に考えていた方針が通用しなくて、転換することになるかもしれません。偉そうな物言いになってしまいますが、お客様のお役に立てるように誠心誠意、精進していれば、軌道修正の方向性はお客様自身が客数という形で示してくれるものです。

飲食業に奇策は存在しません。努力を重ね、信用を積み重ねていくしかありません。お客様はもちろん、金融機関やディベロッパーの皆様に対して、信用を積み重ねていく方法は粛々と店をやっていくしかないのです。

あと、四谷で店を持っていて感じたのは、街自体が陳腐化するリスクもあるということです。オープン当初はどんなにいい立地であっても、街ごと終ってしまうような場合もあるのです。その経験をしたあたりから、飲食は立地産業という言葉が現実味を帯びてきて、今のビジネスの流れになってきています。

程度の問題はありますが、店や会社、経営者としての力がついてきたら、はじめて自己表現に手を出すべきではないかと思います。使命や役割を具現化する店づくりを行うということです。それが何かというと、私の場合は、「 活菜厨房 然 大手町店 」 の店舗に現れています。1号店の四谷店を移転するという形で、2009年5月にオープンしたのですが、はじめて、コンセプトに妥協はしない本物のお店作りに挑戦しました。無垢の楠の木を柱に使ったり、土壁も日本で3本の指に入ると言われる左官さんにお願いしました。本物の空間づくりを実践したのですが、そういうこだわりは、やれるようになってからでいいと思います。起業の時には、そんなことを考えず、やることをやってからこだわるべきです。

株式会社自然回帰 ブログブログなどでもよく主張していますが、店舗の掃除はとても大切なことです。私は、「 日本を美しくする会 」 の会員になって、早朝清掃に参加しているのですが、飲食店というのは本当に街を汚している商売です。これは、街頭清掃しないと気付かない問題です。飲食と並んで汚しているコンビニさんとともに、その経営者には自店舗の街の街頭清掃を義務づける法律を作ってもいいくらいだと思います。それ位に街を汚しています。街のゴミはなにかと言えば、タバコの吸い殻、ビニール袋や空き缶などいわゆるコンビニ商品が出すゴミ、それから飲食店のチラシやレシートです。そして、街を汚しているゴミのキングオブキングは、残飯でしょう。あれをカラスがつついて街が汚れるわけです。ひどい場所では、ラーメンのトンコツが下水に捨てられて、油が固まっているところがあります。どこのエリアとは明言しませんが、非常にモラルが低い地域がありますね。

これからは、そういう観点で飲食店を評価する時代が来るはずです。雑誌やサイトでは、料理や演出を星の数で表して判断基準としていますが、飲食の本質は、ゴミや環境、自然というところまで配慮することにあるべきです。不思議なことに、一過性のブームではなく本当に繁盛している飲食店から出てくるゴミは奇麗なものなのです。そういう企業姿勢というのは、お客様への愛情にも直結するものだと思います。これからの経営者となる皆さんには、そういった観点も求められるのではないでしょうか。

業界の社会的地位の向上は、飲食で働くすべての人のテーマです。最近は、サービススタッフの資質を競うサーバーグランプリなどが流行っていますが、すばらしい発想だと思います。ああいった活動をもっと元気にしていかないと業界の発展はないと思います。景気など外部環境はよくないかもしれませんが、飲食業の中には、いろいろな切口が出てきて成熟しつつあるような感じがします。今後やらなければいけないことは、「 食はいのち 」 という問題です。安心安全や自給率などの問題を含めて、今年は弊社も農業に参入しようと思っています。

飲食店は人間力の修行の場 働く仲間と生産者様とお客様、そのトライアングルが真の繁盛店を育てる 株式会社自然回帰 大西礼二氏飲食で働いている自分は、料理もできなければ、すばらしい野菜をつくり出すこともできません。センスもないでしょうし、他の経営者のようにセミナーやコンサルタントとしての活動もしていません。ただただ、仲間の成長をサポートして、店に関係するすべてのステークホルダーの方々の利益を大切にして、お客様への貢献に命を懸けているつもりです。飲食店は愛と人間力の修行の場であり、とても魅力的な世界だと思っています。ですから、積極的に業界に参入してください。一緒に語り合える日が来るのを楽しみにしています。

文: 貝田知明



大西礼二氏

株式会社自然回帰

http://shizenkaiki.jp/

代表取締役社長 大西礼二氏
1965年香川県出身

西武グループにてホテル業務などに従事した後、1997年12月に株式会社アール・ティー・エヌを設立、翌3月に一号店となる「食通工房 然 四谷店」を開店。飲食店形態で展開する一方、「旬彩弁当 然」という持ち帰り弁当店をオープンするなど「然」ブランドの多業態展開も行っている。現在は、四谷から移転した「活菜工房 然 大手町店」のほか、「食通工房 然 汐留店」「大九州酒場どげんこげん(汐留)」「旬彩弁当 然 赤坂店」を運営。生産者との深いつながりを活かした産直の味が好評を博している。

文:貝田知明
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