モスバーガー、テリヤキバーガー、ライスバーガー、ニッポンのバーガー匠味…。 オリジナリティーのあるハンバーガーを追求しつづけ、食の安全や健康にも積極的なモスバーガーの企業姿勢は、どこから生まれてきたものであろうか。飲食業に懸ける同社の思いを含め、その歴史や戦略を振り返ってみる。
第 4 回 |
おいしさを求めたら、生産者の顔が見えてきた…モスフードサービスは、企業目標に “ 食を通じた幸せ ” の提供を掲げているが、そのために、「美味しくて安全で健康に良い商品をまごころと笑顔のサービスとともに提供すること」を指針としている。商品づくりでは、生産者・協力会社に対して、モスの考え方や規格を徹底するよう努めている。 パティ用ビーフは、成長ホルモン剤を使用しないことを最低限の基準としている。ホルモン剤で太らせ、短期間で出荷するのではなく、広い牧場でストレスを与えない飼育方法にこだわっている。単なるオーストラリア産ではなく、考え方が合致した牧場のビーフに限定しているのだ。 野菜に関しては、「生産者の顔が見える野菜づくり」「農薬や化学肥料に頼らない栽培方法」を重視している。農薬・化学肥料を減らした農産物を本部で一括仕入れをして全店へ配送する体制に切り替え、その管理システムとして「マザーシステム」が導入されたのが 97年のこと。これに合わせて、モスバーガーの売りになっている野菜生産者の情報開示も開始されている。いわゆるトレーサビリティが注目される前から行われているが、その目的は、いかに美味しい野菜を導入するかという単純なものであった。美味しい野菜を突き詰めると、土づくりや堆肥づくりなどに労力を惜しまず、栽培にこだわる生産者との連携が不可欠とわかり、必然的に本部には生産者とのパイプができあがる。今日の野菜を届けている生産者が本部で分かっているのだったら、野菜を食べる側のお客さんにも開示しようという流れ。生産者を知らせようという意識ではなく、美味しいものを作ろうとしたらトレーサビリティも果たしていた…。味にこだわるモスバーガーらしいエピソードだろう。 生産者側にとっても自分の名前が出るということが責任感につながっている。農家は、基本的に BtoBビジネスであり、自分の野菜が最終的にどのように食べられているかを知る機会が少ない。モスの場合は、本部を通じてどこの店舗に出荷されているかわかるため、実際に店舗へ行き、お客様が食べている姿を見にいくこともあるそうだ。また、生産者にバーガーづくりを体験してもらう機会を設けており、レタスの巻き具合やトマトのサイズなどを実際に知ることで、モスがなぜ規格にこだわるかを理解してもらうよう努めている。生産者へ配慮する施策で責任感を芽生えさせているのだ。
工場、物流、店舗でモス独自の取り組みを実施生産段階では、 3つの基本システムで食材の品質管理を行っている。「クオリティゲートシステム」は、店舗で使用する食材の微生物をチェックするもので、自主検査と並行して、厚生労働大臣登録機関による検査も実施している。また、食材への「異物混入予防対策」として、食材メーカーの工場でも衛生管理・製造工程などの立ち入り検査を実施。品質のばらつきを防止するために、定期的に物性面・官能面から食材を確認する「ロットチェック」を行っている。モスは、 “ 飲食業はお客様の命を預かる仕事 ” という意識が会社の底流にあり、比較的早くから食の安全に関して取り組んでいる。そのため、上記のようなデータによる管理はもちろん、食べてみるという五感の検査も重視している。それこそ、検査の専門家ではなく、オーナーや店長、アルバイトでも試食をすれば違和感がわかることがある。自分がいま作っているものが間違いないかどうか、日々確認するという基本も徹底しているそうだ。 物流工程では、モーダルシフト(鉄道・船舶での大量輸送)や環境配慮型車両の導入で、 CO2 削減など環境負荷削減を行っているほか、廃棄物削減と品質保持のために、ICタグ付きコンテナ導入テストも行った。生野菜の配送を段ボールからコンテナにすることで、廃棄物となる空き箱の削減、雨天時などの品質劣化を防ぐのが狙いで、今後全国規模で本格的に取り組もうとしている。 店舗においては、モスの商品で使われているアレルゲン、卵を使っていないメニュー、商品ごとの栄養成分などを POSを利用して消費者に情報提供するシステムがある。これは、モス独自のシステムとして、ゼロから構築されたオリジナルのものである。環境保全として、ドリンク類を陶器やガラスの食器で提供して廃棄物削減を果たしているが、実はこれも紙コップよりもおいしく感じるからという理由で導入され、結果的に環境に役立ったという経緯がある。リサイクル推進策としては、バイオプラスチックカップ、天然素材不織布などのエコ素材を順次採用している。また、配送業者と連携して、野菜くずリサイクルシステムを導入している。モス専用の車両とシステムを構築して、配送した帰り道に野菜くずをリサイクル資源として回収することで効率化を果たしている。現在は、仙台と名古屋で導入されており、今後は各地へ広げていく意向である。 |