外食ドットビズ2周年記念特集の一環として、飲食業の労務管理に関わる問題を株式会社リーガル・リテラシーの黒部社長のインタビュー記事として掲載させていただいた。飲食に携わる、特に経営者の方にとっては、関心の高い問題のようで多くの反響を頂戴した。
巷でも、年金問題、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)など社会保険にかかわる話題に事欠かない。そこで、外食ドットビズでは、再度黒部社長のご協力のもと飲食業における社会保険について講義形式で掲載させていただく。
【黒部社長】 それでは、労災保険について学んでいただいた事をおさらいしていきましょう。
まず、労災保険の保険料を払うのは誰でしたか?
【前城】 全額事業者が負担する事になります。
【坂尻】 更に付け加えると、労災保険には被保険者という考えが無いから、総支給額に保険料率をかけた金額が保険料になるよね。
【黒部社長】 その通りですね。労災には労働者数は関係ないということと、全額事業者負担という事がポイントですね。
次に、労災保険と健康保険の違いを説明してください。
【前城】 労災保険は、労働中もしくは通勤中に起った傷病に適用され、健康保険は、それ以外の傷病に適用されます。それと、坂尻さんの会社に入ったら労災は適用されませんっ
【坂尻】
【黒部社長】 労災保険は、あくまでも労働災害による傷病のみに適用される。そして、対象は労働者なので、正社員のみならずパートやアルバイトの方でも対象者になりますが、逆に役員報酬のみを支給されている社長を含めた役員は非対象者となる事がポイントですね。
更に付け加えると、労災保険を適用するには労災指定病院に行く必要があります。ですから、店舗の労務責任者や従業員の方はお店の近くや自宅の近くにある労災指定病院を事前に知っておく事が肝要です。
違いを説明すると、例えば、傷病による後遺症が残ったり、お亡くなりになったりした場合、健康保険の場合は一切面倒を見てくれなくなります。後遺症が残った場合には、厚生年金の障害厚生年金とか国民年金の障害基礎年金とか、無くなった場合には遺族厚生年金とか遺族基礎年金(国民年金)などのように健康保険とは全く関係ないところが対象になりますので、それぞれの年金の受給要件を満たす必要があります。
一方、労災保険の場合には、後遺症が残った場合にも、お亡くなりになった場合にも最後まで労災保険が面倒を見てくれます。それに国籍も関係ないので、外国人に対しても出ます。しかも不法労働者に対しても出てしまうのですよ。
【坂尻】 えっ。不法労働者にも労災が適用されるの
!?
【黒部社長】 そうなのです。不法就労だとしても労働者。被保険者という概念の無い労災ではちゃんと出てしまうのですね。しかも、帰国しても完治するまで海外口座に日本円で振込まれるのですよ。嘘か誠か、労災で御殿が建ったなんていう話もありますよ(笑)
では、労災保険の認定基準は何だったでしょうか。
【前城】 労災の認定基準...。それは・・・まだ習っていないですよね
【坂尻】 おいおい。もう忘れてしまったんですか!?ストーカーのところでやったじゃない。
【前城】 あっ!も、もちろん覚えていますよ。・・・業務遂行性・・と業務・・原因性・・ですよね
【黒部社長】 惜しいですね。業務遂行性と、業務原因性では無く、業務起因性でしたね。この二つは、特に勤務場所や通勤経路以外の場所で怪我をしたり病気になったりした時に労災保険の対象になるのかどうかの判断基準になりますので是非覚えておいて下さい。
それと、“施設的な欠陥”ですね。これは自分の不注意での傷病の場合でも労災保険の対象になる原因の一つですから併せて覚えておく必要がありますね。
-講義のポイントのまとめ-
【黒部社長】 最後になりますが、労災隠しという言葉があるほど、労災にしたくないという経営者の方が多く見受けられますが、それは間違った認識だと思います。やはり労災保険料を支払っているのだから使うべきだと思いますね。
特に飲食店の場合、システム的に事故が起りやすい現場になっていますよね。だから、労災を使わない方がいいという発想ではなく、使うものはちゃんと使って、起ってしまった事故をデータベースとしてきっちりとまとめて、それを安全性管理に役立てる。役立つ情報に変えるという発想が絶対に必要だと思います。
現場が隠していたら絶対に本部には現場での安全性情報というものは上がってきませんよね。逆に労災保険を使う事で本部は現場の安全性状況が把握しやすくなるのです。
やはり、大きな重大事故が起る前にそれを阻止する。そのためには安全性情報というものは欠かせないものですから、労災保険を利用して安全性情報をとるという発想で、飲食店を経営していただきたいと思います。
【坂尻】 わかったかね、前城君
【前城】 はっ。よくわかりました黒部先生
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀