刺身居酒屋のはしりといえる「魚真・下北沢店」を1983年に開店したのを皮切りに、都内8店舗に“魚”にこだわった姉妹店を展開する加世井氏。築地の荷受会社勤務、家業である魚屋経営と魚一筋の経歴を持つ加世井氏から、個性ある飲食店づくりのポイントや心構えをうかがってみました。
下北沢が開業して 1 年半後には、最初にいた 2 人のアルバイトをひとりずつ店長にして、原宿と駒沢に 2 、 3 店目を出しました。その三人が店長をやっている体制がしばらく続いて、8年前に吉祥寺店を出店しました。やはり、若い人が入ってきて育ってくるので、彼も店長にしなくちゃなという感じで増えていきましたね。現在、「魚真」の名前では、下北沢本店、吉祥寺店、渋谷店、乃木坂店の4店が営業していますが、どれも魚屋の匂いを残すようにしています。入ってすぐに魚介類が飾ってあって、カウンターの上にはアラ煮などの料理が並んでいるという感じですね。
新しいチャレンジとして、5年ほど前から寿司屋もやっています。魚を扱っている以上、お寿司は絶対的な存在ですからね。魚屋だけをやっている頃は、お寿司屋さんに食べに行っても「何でこんなに高いの?」といつも不思議に思っていました。そこから、“安くできるんだから、安く出そうよ”というコンセプトの寿司屋をやろうと思ったのです。普通の町中の寿司屋は、 2 人で 1 万 5 ~ 6000 円は取られると思いますが、同じ品質と量で、1万円前後で食べられます。他にも、少しグレードの高い居酒屋をやったことがあります。ずっと 3500 ~ 4000 円の客単価でやってきたところで、 5000 円位にしてみたんですが、思惑通りにはいかなかった。素材では絶対に勝てる自信はあったんですが、僕を含めたスタッフの気質に問題があったというのか…高級な雰囲気が本質的に苦手だったのかも(笑)。やっぱり、魚屋風の威勢がある雰囲気が向いてるみたいですね。
そういうこだわりというのは大切なこと。僕の場合であれば、魚屋として、徹底的に“魚”にこだわるということ。築地勤めから魚屋営業と、 34 年間も河岸に通っているわけですから、魚を見る目、流通の仕方が分かっている。仲買さんなどとの対人関係のつながりもあって、“いい魚”には絶対的な自信がある。それを自分の店にどのように活かすか。店は、メニューらしいメニューがないのですが、それは、刺身は魚を切るだけ、あとは煮るか焼くかだけだから。そのときに安くて美味しい魚を煮るか焼くだけですから、どうしてもこれでなくちゃいけないというメニューは必要ないのです。僕が河岸に行って、集めたものの中から刺身、煮魚、焼魚と分けていく。その方が、美味しいし、利益率もいい。姉妹店の中には、鶏の唐揚げなど肉料理を出している店もあります。安い鶏肉はやっぱり利益率がいいですからね。でも、メインはやはり新鮮な魚介類。それを崩してしまうと、魚屋がやっている意味がなくなるし、営業していても面白くないでしょう。そういうこだわりを持ち続けることが、店の強みになっていくのです。
加世井 眞次
1949年東京生まれ。築地の仲買企業に魚を卸す荷受会社に就職、家業の魚屋を継いだ後、1983年に刺身居酒屋「魚真」を東京・世田谷に開店。魚一筋30余年の経歴から、魚に絶対的な自信を持つ姉妹店を都内に8店舗構えている。