東京・広尾のイタリアンレストラン「ACQUAPAZZA」のオーナーシェフ日高良実氏。大学進学を断念して飲食の道に足を踏み入れ、3年間のイタリア修行の後に独自のイタリア料理を目指して開業へと至った。イタリアで学んだ“楽しい食事”ができるお店のために、いかなる苦労と考えがあったのだろうか。
実際に店を運営していく上での苦労は、やはり集客という点に尽きますね。どうやってお客さまに来店していただくか、再来店していただけるかという点には苦心しています。これから飲食業を始めようとしている方にお伝えしたいのは、お店を継続していくためには、企業努力として顧客を開拓していくことが絶対に大切だということです。顧客を作るために、アプローチできるところへは、すべてアプローチをしていくことが重要です。お店の業態や大きさなどにより、アプローチの仕方は色々ありますが、自店舗に合致したアプローチ方法を見出すことが必要となりますね。
また、最近では食材価格の高騰ということが経営上頭が痛いところです。単純にメニュー価格に転嫁するとお客様が離れてしまいますし、食材の質を落としてもやはり同じ結果になりますから、非常に難しい問題ですね。食材メーカーの中には、当面値上げをしないとか、むしろ単価を下げて対応しようというところもありますが、それはそれで自分の首を絞めることになります。結局は、お互いに不幸な結果になってしまう可能性もありますからね。重要なのは、無駄なことをやっていないか、改めて見直すことです。無駄なことをやっているのであれば、改善することが最優先。そして、ロスを無くすことを徹底する必要もあります。
それから、従業員教育、従業員との接し方も重要です。従業員に高いモチベーションで働いてもらうことが、店舗運営では大切です。私は、皆がやる気を持ち、将来にわたってこの店で働いてもらえる環境作りを重視しています。もちろん独立して自分の店を持ってもらうのもいいですし、この店のシェフとして、マネージャーとして、ステップアップできるようになってほしいと思います。
これから飲食業をやっていこうという皆さんにお伝したいのは、大きな借金をしてまで、お店を作ってはいけないということです。借り入れから入ってしまうと、資金繰りが厳しい世の中ですから、後で絶対に苦しくなります。もちろん好きで始めるのは大切です。好きでないと長続きしません。しかし、好きだけでは続かないことも事実なのです。
私達がこの世界に入った頃は、オーナーシェフといえば、誰もがベンツに乗っていました。「 お店を持つとベンツが買えるんだ 」 と思っていましたが、現実はそんなに甘くはなかったですよ(笑)。しつこいようですが、“ 多額の借入をしてまでお店を開くな ” と重ねて申し上げておきます。
【 編集部より 】 今回は、『 起業のためのネット講義 』 に初めてオーナーシェフの方ご登場いただきました。日高シェフは、イタリア料理の巨匠としてご活躍されていますが、「 これからもお客様に “ 食 ” を楽しんでいただくために、自分たちが楽しいと思える店作りをしていきたい 」 と熱く語られていました。これから起業を目指す方にも是非この言葉は心に刻んでいただきたいと思います。また、今回のインタビューさせていただくきっかけとなった 株式会社TATSUMI と 日清フーズ株式会社 の関係者の方への感謝の言葉を持ってこの項を終わらせていただきます。
文: 齋藤栄紀
日高 良実
http://www.acquapazza.co.jp/ オーナーシェフ
1957年10月 神戸市出身。
調理師学校卒業後、神戸のフレンチレストラン「塩屋異人館倶楽部」に就職。
その後、神戸ポートピアホテル「アラン シャぺル」を経て、イタリア料理への転向を決意。
東京・銀座イタリアンレストラン「リストランテ ハナダ」に転職。
1986年 本場での修業のため渡伊し、3年間イタリアで修行をおこなう。
1989年 帰国後、「リストランテ山﨑」の料理長に就任。
1990年 東京・西麻布に「ACQUA PAZZA」オープン。現在は、全国12店舗のプロデュースも手がけながら、日本の食材を活かした独自のイタリアンを提案し続けている