衛生問題を考える~外食産業コンプライアンスとHACCP~

衛生問題を考える 外食産業コンプライアンスとHACCP

第3回 外食産業コンプライアンスとHACCP(3)

マスコミ時代に衛生管理の取り組みの姿勢は話題に?

加藤 : あまり話題にはならなかったですが、食中毒事件を起こして悲惨な状況になった現場は目にしたことがあります。お客さまが減って売上が激減して、従業員もどんどん辞めていく。その社長は、ひたすら謝りつづけていました。

坂尻 : 別の企業の例ですが、現場で多くのお客さまに問い詰められ、きちんとお応えするのが一番苦しかったといっていましたね。これは大丈夫なのか、なんで営業しているのだといった具合に。これはチェーン内の1店舗で起きた問題だったのですが、全体に及ぼす影響は大きいです。

坂尻氏「全体に及ぼす影響は大きい」
坂尻氏「全体に及ぼす影響は大きい」

衛生管理上、問題があると気になっていることは?

加藤 : 生肉のミンチに危険性があると思います。一枚肉の方がまだ安全です。表面から腐敗が進むので、見た目でわかります。衛生管理されたステーキ状の肉であれば安心して食べられます。しかし、ミンチはどこの部位か分からない肉が入っているので、細菌が繁殖した部分が内側に入っていたりします。見た目にはまったく分からない。いろいろな部位を集めて一枚肉のようにした結着肉も危険です。

坂尻 : テレビのグルメ番組で、プロの料理人が指でソースを味見する姿、お玉で味見する姿が気になります。口をつけていないといいますが、やはり接触しています。危険な行為だと思います。テレビで流していいものかとどうか。そういうところから菌が繁殖することも現実にありますからね。同じように考えると、タバコもどれだけ危険なものかわかりますよね。唾液も飛沫し、指にもつきます。くわえタバコなんかはもってのほかです。

加藤 : 鶏の 9 割がサルモネラ菌に汚染されているというデータがありますから、鶏肉にも注意が必要です。汚染されている親から産まれた卵も当然汚染されています。

---生卵って危険ですか?

加藤 : ・・・といわざるを得ないですね。日本人だけですよ、生卵を食べるのは。かくいう私も平気で食べますけど。

HACCPとは?

加藤氏「意味を理解して考え方を参照してほしい」
加藤氏「意味を理解して考え方を参照してほしい」

加藤 : 食品製造過程のどの段階 で、 どのようなことが事故の原因となりうるのかという形で分析し、それを累積して被害要因を洗い出していく。そこを重要管理点としてチェックしていけば、食中毒が起きなくなるという管理手法です。宇宙食を作るために、 米国航空宇宙局が設定した開発した手法です。確かに飛行士が宇宙に行ってから食中毒だったというのでは大変ですからね。

坂尻 : 認識度合というのはどうなのでしょうか?

加藤 : 難しいものですから、まだまだですね。『衛生管理ハンドブック』でも HACCP に触れましたが、それまでわかりやすかった本が、 HACCP に入った途端に難解な本になってしまいました。飲食店でバイトしている教え子に読ませたら、 HACCP に入った途端に寝てしまいましたね。いまの現場のレベルで、 HACCP を要求するのは酷ですね。 HACCP を導入した居酒屋が、白衣姿でヤキトリに串を打つ姿をガラス越しに見える店舗を出したら、半年も続かなかったらしいです。 白衣を着て帽子を被り、ゴム手袋をした人たちが串を打っていたら、いかに安全といっても興ざめなのでね。 HACCP を全面に出すと外食産業には、マイナスに作用することがあるのです。飲食店には、 HACCP を導入しろというより、意味を理解して考え方を参照してほしい。

坂尻 : 食中毒予防の衛生管理は、その食品の中に菌があるのかないのか、ある場合はいかに滅菌するかということを学びます。 HACCP は基本的に工程管理。原料の入荷から製造・調理までの全ての工程で起こる問題を予想して管理する。予防が主体ですよね。

昨今話題のトレーざびりてぃは、衛生問題にどのような関係が?

加藤 : ある講演で話して反発を買ったことがあるのですが、トレーサビリティは、安全・安心を保障するものではありません。何かあった時に、さかのぼれるというだけの仕組みです。錯覚を起こしています。

坂尻 : 原産地の表示や■■県○○さんが作りましたという表示があれば、すべて OK と感じてしまっている。味も少し違うように思いますが、錯覚ですね。安全も安心も美味しさも保障しているものではない。
△△産トマトという表示の横に、高い糖度の数字が書いてあったら甘いトマトです。しかし、生産者のオジさんが写っていたからといって、美味しくて安全というわけではない。それで値段が倍だったら、ちょっと間違っているような気がしますね。



加藤 秀雄

加藤 秀雄

1951年、東京生まれ。73年、日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、88年10月の創刊時から副編集長。91年9月から2000年7月まで9年9カ月間、編集長を務める。
2000年12月、フードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。2003年1月、ベンチャー・サービス局次長、同年3月1日付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任。2006年3月、日経BP社を退社。
98年4月から、女子栄養大学非常勤講師を兼務。2005年4月から、大正大学講師も兼務。

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