長い低迷期にあるといわれている外食産業界。バブル経済崩壊後の不況が大きな要因となっていることは確かですが、外食産業特有の課題もその裏には隠されています。外食産業および関連産業の産業構造・経営動向等に関する調査や財団法人 外食産業総合調査研究センター(外食総研)主任研究員である堀田宗徳氏に、数々の数値データをもとに外食産業が抱える課題と展望を語っていただきました。
第二部
外食業界での M&A (企業の合併・買収)の登場は、平成 3 年以降のバブル崩壊以降と思われます。バブル崩壊後、一連の金融不安が生じ、各銀行が本業へ経営資源を集中するなか、自前で持っていた給食施設を給食会社に譲渡し、その後、メーカーも給食施設を売却しはじめたことによるものと思われます。
一般外食では、比較的歴史の浅い外食企業が、急速に業容や商圏を拡大するために M&A を実施する傾向が見られました。外食企業の M&A はここ数年、活発化しておりますが、平成 17 年は最近になく多くの M&A が実施されました。
外食企業の M&A は、多業種・多業態化の一環として 1 号店からの新規出店のリスク回避のため、商圏内での店舗過剰状態による競合激化で撤退を余儀なくされた企業に対するものが実施されています。
具体例では、平成 17 年の1年間で多くの M&A を実施した企業としては、まず、ジー・コミュニケーションが上げられます。本社が愛知県にあるジー・コミュニケーションは、事業内容としては、外食事業のほかに教育事業、コンサルティング事業、 FC 事業、コンピュータ事業、酒造事業、デザイン事業、トレーディング事業、宿泊事業、海外展開と多岐にわたっています。店舗数(平成 17 年 6 月 14 日現在)をみると、教育関連が 743 店舗、外食事業関連が 579 店舗、その他 5 店舗となっています。外食関連の M&A では、まず、サンリオが展開していた外食事業を買収したほか、回転寿司の平禄を公開買付で株保有率を高めて子会社化、破綻したナカタケの焼肉店等を買収、同じく準自己破産をしたゼクーから「ボブソンズ・カフェ」を譲り受けています(実際はジー・コミュニケーションの傘下に入った平禄が買収)。また、「長崎ちゃんめん」を展開するパオの創業者から 15.2 %の株式を取得して筆頭株主になり業務提携を締結しています。
次いで M&A が多いグリーンハウスは、川崎造船の給食等運営のさかしょく、セキュリティーネットワーク事業のサクサの子会社であるサクサプロアシストの厚生部門などを引きつぎ、各企業が保有していた給食部門や福利厚生部門の買収を実施しています。特に、東北地方の老舗企業、伯養軒の給食事業と弁当販売事業を買収したことが注目され、東北地方では伯養軒ブランドを生かしウェルネス伯養軒として運営しています。
従来から M&A を積極的に実施しているコロワイドは、中部エリアで焼肉店展開の株式公開企業、がんこ炎の株式を公開買付で取得して子会社化したほか、オリンパス・キャピタル・ダイニング・ホールディングスを買収し、その傘下のアトムも取得しています。
同じく、 M&A を積極的に実施しているゼンショーは、双日からなか卯の株式を取得、最終的に公開買付で子会社化しています。
そのほかでは、「ステーキのどん」などを展開するどんが、ダイエーなどから株式を取得するかたちでフォルクスを買収、給食会社のエームサービスは、子会社のアトラスコーポレーションを通じて同業者のメフォスを買収、その後、敵対的買収のリスクを回避するため公開買付により子会社化しています。
また、ドン・キホーテが、オリジン東秀の創業家が経営しているコーワを子会社化することでオリジン東秀の株式 23.63 %を取得し、ドン・キホーテがオリジン東秀に業務提携を申し入れる状況となり、外食・中食企業以外の企業が外食・中食企業を買収する大きな事例となったことは記憶に新しいところです。しかし、今回のドン・キホーテの株取得は、オリジン東秀側が認識しておらず、今年に入りドン・キホーテの敵対的買収に発展し、最終的にはイオンが間に入りドン・キホーテが買収を断念、オリジン東秀はイオングループ傘下となりました。
平成 17 年の M&A で特徴的なことのひとつですが、すかいらーくが小僧寿し本部の株式を取得し資本・業務提携を締結したことやロイヤルホールディングスが天丼「てんや」展開のテンコーポレーション、伊勢丹内のレストラン等を運営している伊勢丹ダイニング、キリンダイニングのビアレストラン、ピザ「シェーキーズ」などの一部の店舗などを買収するといった、今まで M&A を実施していなかった歴史ある外食企業が参入してきたことが注目されています。
以上、各企業の M&A の状況をみてきましたが、 M&A を実施する理由は、売上高増加、業容拡大のほかに、食材仕入のシナジー効果や商圏拡大などがあげられます。今後は、1号店からの出店のほかに、 M&A も出店政策にとって有効な手段であると考えられます。しかし、外食・中食産業は労働集約的産業であり、従業員に不安を生じさせることがあると企業業績にも影響が出てくる可能性があるため、友好的な M&A であるのが絶対条件になることはいうまでもないかもしれません。
堀田 宗徳
1957年生まれ。1989年に農林水産省の外郭団体である財団法人 外食産業総合調査研究センター(外食総研)に研究員として入社、99年に主任研究員となる。05年からは、関東学院大学人間環境学部および尚絅学院大学総合人間科学部で非常勤講師(フードサービス論)も務める。専門領域は、個別外食企業の経営戦略の分析、個別外食企業の財務分析、外食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、外食産業に関する統計整備。フードシステム全集第7巻の「外食産業の担い手育成に対する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「外食産業の動向」「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」掲載)など著作も多数あり。