「 名古屋名物の料理は?」 と聞かれると、多くの人が 「みそかつ」 と答えるのではないだろうか。そんな名古屋のソウルフードみそかつの老舗 「矢場とん」。現在、名古屋を中心に東京・銀座、タイ・バンコクなどに20店舗を展開する。その成長は試行錯誤の連続であった。「矢場とん」 成長の秘密を探るため、同社代表取締役 鈴木拓将氏に話を伺った。
昨年6月に拓将氏が3代目を継いで以降、矢場とんの改革と成長はより一層顕著なものとなっている。現在の成長に至るまでに行った改革や出店には多くの辛い経験や苦しい決断もあった。そこには 「家業を廃れさせてはいけない 」、「従業員が矢場とんで働くことで幸せになって欲しい」 という拓将氏の熱い思いが常に原動力となっていた。
昔、必死で働いても食べるものに困窮していた時代、祖父である初代や父である先代は、「 飲食店には賄があり食いっぱぐれることはない。うちにきて働けば腹いっぱい食わせてやる。うちに来ればお前だけじゃなくお前の家族も幸せになれるよ 」 といって従業員達をわが子のように見守っていました。私が、従業員を家族のように考え、大切に育てているのも、祖父や父の背中を見て育ってきたからです。だからこそ、従業員達には、「 いい会社にするために働くな。家族を幸せにするために働け 」 と伝えています。
公私ともに充実した従業員が育てば、それは会社の成長に繋がるのではないでしょうか。そのためにも、仕事に専念できない家庭事情を抱えた社員がいれば、その妻まで呼んで“三者面談”を行って、本人たちが望む解決法を一緒に考え、時には救いの手を差し伸べたりもするのです。また、年度初めに提出してもらう「個人目標」に対し、毎月、私や人事部長と、社員のグループ面接を実施しています。そこでは、目標の進捗状況の確認だけではなく、社員からの提案や相談事なども話し合います。対面して話し合うことにより仕事や私生活で悩みを抱えた社員はいないか把握し、困っていたら徹底的にフォローすることができるのです。更に、毎日、店ごとに社員が持ち回りで提出する「日報」には、単に数字の記入だけではなく、悩みや気づき、日々の出来事などを自由に記入してもらうようにしています。この日報に目を通すことが、私にとって最も大事な仕事の一つと考えています。社員の様子に違和感を持てばすぐにアドバイスをしたり、時に叱咤激励もできます。この日報から社員の状況を把握し、どの社員にどんな仕事を任せるか、成長期にある社員は誰か、困ったり悩んだりしている社員はいないかなどを適切に把握するようにしているのです。
私が会社を継ぐときに言われた言葉で、今でも肝に銘じていることがあります。それは、“ 自分の器以上の人材は育たない ”、つまり自分の器を大きくしていく努力を怠れば、優秀な人材を育てることはできないということです。自分が10学んだら10を、100学んだら100を全身全霊で170名の社員に伝えていくことを常に心がけていきたいと考えています。自分はたまたま創業家に生まれたから社長になったわけで、どの社員よりも優秀だから選ばれて社長になったわけではないと考えています。だからこそ、従業員達のためにも、自分は常に学び続けていかなければいけないのです。そんな謙虚で真剣な姿勢がなければ、多くの社員が信頼を寄せてくれるはずはありません。
株式会社矢場とん
創業 1947年5月
本社 愛知県名古屋市中区大須3-6-18
代表者 鈴木拓将
資本金 1,000万円
年間売上 約30億円
事業概要 名古屋名物みそかつ専門店(店舗・通販での販売)
鈴木拓将
1973年3月 愛知県名古屋市生まれ
1996年3月 中部大学 経営情報学部卒
1996年4月 株式会社名古屋ヒルトン入社
1998年8月 矢場とん有限会社入社
2014年6月 株式会社矢場とん代表取締役就任