これだけは知っておいてほしいワインの話 小久保尊

これだけは知っておいてほしいワインの話

「ワインって気取って飲むのも悪くないけど、もっとテキトーに楽しんじゃっていいものだと思うんですよ。」そう話すのは日本ソムリエ協会認定ソムリエの小久保尊(こくぼたける)さん。船橋にご自身が経営されているバーのオーナー兼シェフをされています。オシャレ風貌漂う小久保さんですが、実は生粋のアニメオタク。一見難しそうなワインの品種も、キャラクターに例えたら親しみやすいのではないかと出版した「図解 ワイン一年生」はたちまちベストセラーに。今回はそんな小久保さんに、「飲食店で働く人に知っていてほしいワインの基礎」を、全5回に分けて教えていただきたいと思います。

第1回 おいしいワインって、どんなワイン?

vol1 おいしいワインって、どんなワイン?

 

飲食店で働くみなさま、こんにちは。
突然ですが、お客様からこんな注文をいただいたことはありませんか?「“飲みやすいワイン”をお願いします」私の場合は困ってしまいます。人によって「飲みやすい」は違いますものね。もちろん、甘いワインが飲みやすいと感じる人もいれば、さっぱりして軽いワインを飲みやすく感じる人もいます。この2つは味わいの分布でいうと対極。そんなときは、お客様がどういったワインを飲みやすく感じるか?をお客様に確かめる必要があります。

図解 ワイン一年生また「“おいしいやつ”ちょうだい」という注文をいただくこともありますが(経験上、陽気な年配のお客様に多い気がします)「おいしい」も人によって感じ方が違うので、こちらも普段どういったタイプのワインをおいしく感じるかを、(ご予算も含めて)お客様に確認するしかありません。

でもほとんどのお客様は、ワインを趣味にしていない限り、「こういうワインが飲みたい」という表現力を持ちません。赤か、白か、せいぜい軽めとか、重めとか、そんな程度だと思います。ですから、飲食のプロである私たちの方が、できるだけ「このお客様はどんなワインが飲みたいのか?」想像力を働かせてあげる必要があると思います。

ではこのとき、どんな風にお客様とコミュニケーションを取れば、もっとワインを楽しんでいただけるのか。『図解 ワイン一年生』から一部を抜粋し、ご紹介したいと思います。少しでも、皆様のヒントになれば幸いです。

「子どもおいしい」からはじめて、「大人おいしい」をめざそう

「子どもおいしい」からはじめて、「大人おいしい」をめざそうワインは嗜好品です。冒頭でもお話したように「おいしい」か「まずい」かは、お客様の好き嫌いに大きく左右されると思います。ただ、もしもワインの「おいしい」を定義するならば、「バランスがいいワイン」ということです。酸味が強すぎるとか、甘すぎるとか、果実味がくどすぎるとか、“すぎる”ところがない。なにかの味が出っ張っていたり、凹んだりしていないワインです。だからワインに対する味覚にいまいち自信が持てない店員さんでも、(酸っぱいな)とか(甘ったるいな)などと感じることなく、自然でバランスが良いと感じたら、「おいしいワイン」だと定義していいと思います。ただ、一口に「おいしい」といっても、「おいしい」には段階があります。お客様の経験値によって、ここは変わっていきます。

味覚というものは、年齢を重ねていく過程でどんどん変わっていくものです。たとえば小学生の頃はハンバーグやグラタンのような「わかりやすくおいしいもの」で満足していた人も、大人になってからはあん肝だったり、しめ鯖だったり、「わかりにくくおいしいもの」を好むようになる人も多いかと思います。ワインも同様に「わかりやすくおいしいワイン」と「わかりにくくおいしいワイン」があります。

「わかりやすくおいしいワイン」は、子どもでもおいしさがわかりそうな感じ(飲ませちゃダメですが)で、ジュースっぽかったり、ちょっと甘かったりするわけですが、一般的な傾向として「わかりやすくおいしいワイン」の価格はリーズナブルです。反対に、舌の経験値をある程度積まなければ良さがわからない「わかりにくくおいしいワイン」というのは、たいてい高級ワインの部類に入ります。つまり、ワインに慣れていないお客様は、たいていジュースっぽい、やや甘い「わかりやすくおいしいワイン」を、おいしいって感じます。そこからどんどんはまっていくと、やがておいしいと感じる好みのワインがより複雑で、繊細なものに変わっていきます(もちろん世の中には、難しいワインをはじめから「おいしい」と感じられる天才的な舌を持った人もいると思いますが)。

「子どもおいしい」からはじめて、「大人おいしい」をめざそうときどき、有名な高級シャンパンの【ドン・ペリニョン】とかを、「おいしくない」って言う人がいます。そんなハズはありません。おいしいです。“シャンパン”って書いてある時点でほぼ確実においしいものなのですよ。なぜなら“シャンパン”と名乗るには、丁寧に丁寧に造って、シャンパンの番人たちが作った厳しい基準をクリアしなければいけないからです。もちろん先ほども申し上げた通りワインは嗜好品なので、なにをおいしいと感じるかには個人差があります。私も職業柄いろんなワインを飲んできましたが、発作的に「ジュース的においしい」ワインを飲みたくなるときがあります。それでも、舌の経験値は影響します。

ですから「このお客様は、ワイン初心者っぽいな」と感じたら、はじめは安価で“ジュース的においしい”ワインからおすすめしてみてもいいかもしれません。では、グルメっぽく、少しワインを飲み慣れた感じのお客様にはどういったおすすめをすればいいか?次回、ご紹介していきたいと思います。



小久保尊氏

小久保 尊(Kokubo Takeru)

1983年、千葉県船橋市生まれ。
日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
「ワインと肉 COQ DINER」のオーナーソムリエ兼シェフ。大学在学中から船橋市内の某有名飲食店で経験を積んだのち、2011年9月に「ワインと肉 COQ DINER」を、翌年10月には2号店となる「立呑み 燻製COQ DINER離-HANARE-」を船橋にオープン。日本一の庶民派ソムリエとして語る、ワイン案内の“ハードルの低さ”に定評がある。

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