素敵なお店にはお客様が来ていただける。素敵なお店になれば従業員のモチベーションも上がりサービスアップにもつながる。そのためには、内装・家具・置物・絵画等々気を使わなくてはならないことが山ほどある。今回は「浮世絵」がお客様の心をつかんだ実例を挙げる。
昭和12年、銀座の数寄屋橋畔に白亜のビルが誕生した。株式会社ニュートーキヨーの旧本店ビルである。日本で初めて登場した総合飲食ビルであった。銀座の街を行き交う人々からは ” 白亜のビール大殿堂 ” と親しみをこめて呼ばれた。戦中戦後の混乱期を乗り越え、昭和32年にこのビルは地上9階地下2階に建替えられた。現 ニュートーキヨー数寄屋橋本店ビル である。高尾 はここの8階に位置する。
高尾の最大の売りは、松阪牛をはじめとした高品質の牛肉を提供しているところであろう。この肉を使用したすき焼きやしゃぶしゃぶは社用族のみならずファミリー層にも好評である。
高尾の東賢治店長にスポルディング・コレクションに関してお話を伺った。(以下敬称略)
-今回スポルディング・コレクションを選択された理由をお教えください。
【東】 当店は、和食店ですので、やはり日本画が良いだろうと思いました。でも、日本画といっても油絵とか水彩画となるとちょっと大げさになってしまうのではないかという思いがありました。特に今回は、皆様に見ていただきたいと思い、入口に掛けようと決めていましたので威圧感なくさりげない絵が良いなと思っていました。その点浮世絵はもともと大衆的な絵画ですし、その中でも歌麿の絵は固くなく、さりげない色気がありますので当店にはちょうどいいかなと考えました。
-お客様の反応は如何ですか?
【東】 思っていた以上ですね。どれだけのお客様に気にかけていただけるか正直心配でしたが、多くのお客様から「 なかなか素敵な絵ですね 」 とか 「 前よりも雰囲気が良くなったよね」などとお言葉をいただいてホッとしています。もう一つ想像以上であったのが、かなり多くのご質問をいただいていることですね。丁度、お会計の横にかけさせていただいていますので、最後のお会計の際に「この絵は歌麿の絵ですか? 」 「 この浮世絵は本物ですか? 」 「 浮世絵ってこんなに明るかったでしたっけ? 」 などと多くのご質問をいただくようになりました。そうするとレジ係とお客様の会話が弾むのですね。飲食業の場合、お客様には、最後に気持ちよくお帰りいただくことが重要と考えておりますので、その点にもプラスになっていると思います。
-数種類の絵をかけてあるとお伺いしましたが、どういうことですか?
【東】 実は、8種類の絵が1セットとなっているのです。ですから毎週取り替えてもいるのですが8週間は違う絵をお楽しみいただけるようになっています。常連様からは、「 あれ、絵を換えたの?これもいい絵だね 」 などと新鮮な印象に映るようです。「 前の絵の方が良かったな 」 というお客様に対しては、「 では3週間後にまた是非お越しください 」 などと営業トークを話したりできます(笑)。
-従業員の方々にとっては絵の勉強をしたりしなくてはならなくなり負担が重くなるのではないですか?
【東】 そのようなことは無いですよ。逆にお客様とのコミュニケーションが更にはかれるようになったことで、従業員のモチベーションは非常に高まったように見受けられます。確かに今の若い子にとっては浮世絵など興味がないかなと思いましたが、日本史の授業などで歌麿とか写楽とか習っているんですよね。だから言葉には違和感がないようなのです。私どもが特に何も言わなくてもインターネットなどで調べてくるようですよ。その結果またお客様とコミュニケーションが深く取れるようになるのでモチベーションを高く持つようになったと実感しています。
東店長への取材後、会計にかわいらしい女性がいたので、浮世絵をかけてからのことを少しお聞きした。
この女性も 「 お客様の反応は非常にいいですよ。皆様興味を持たれて色々お聞きになって下さいます。お客様との会話が本当に弾むようになったと思います。 」 と素敵な笑顔で答えてくれた。
素敵なお店にはお客様が来ていただける。素敵なお店になれば従業員のモチベーションが向上する。モチベーションの高い従業員には素敵な笑顔やホスピタリティが生まれるといういい循環が生まれると言うことがまさに実証されているように感じた。
高尾 ニュートーキヨー数寄屋橋本店8階店
http://www.newtokyo.co.jp/honten/honten_8/8f.htm
所在地 千代田区有楽町2-2-3
電話 03-3575-4800
取材協力:芸術新聞社
ニュートーキヨー高尾本店
文: 齋藤栄紀