アベノミクス効果により、景気の回復基調が見られる反面、食材価格の高止まりや水光熱費の上昇などがコストアップ要因となり、飲食店にとって利益を確保するのが難しい状況にもある。今回は、冬の宴会シーズンを前に、「差別化戦略によるアルコール商材の利益向上」をテーマに、梅酒と本格焼酎を題材とし、コストパフォーマンスが高いスタンダードな価格帯のアルコール商材使用による利益向上策について、サッポロビール株式会社スピリッツ戦略部 マネージャーの津久浦氏と末田氏の協力のもと考察を進めていく。
梅酒の市場規模は、過去 10 年間で約 2 倍に成長、この 2 ~ 3 年では一定のボリュームで落ち着き、特に業務用は、梅酒市場の約 25 %を占めるまでに成長した ( サッポロビール調べ ) 。これは、梅酒の持つ健康的なイメージ、まろやかな口当たりや果実感が、女性の社会進出とともに外食市場で受け入れられてきたと推察できる。
梅酒は、飲食店の多くでは、メニューブック上で「梅酒」或いは「梅酒(ロック)・梅酒(ソーダ割り)」などと 1 ~ 2 行程度の扱いになっている。確かに、メジャーブランドといえるものが無いカテゴリーなので、メニューでは差別化しにくいが、一方で、ラインアップ増によるネーミングや提供方法のバリエーションなどひと工夫するだけで、他店との差別化を図ることもできるのである。
ここから、サッポロビール社の商品を例にして考察を進めていく。
同社は、一升瓶の 「 白加賀でつくった梅酒 」 など7種類の梅酒商品をラインアップしている。その中でも特徴的な商品が 「 黒梅酒 」 と 「 赤梅酒 」 である。 “黒”“赤”とキャッチーなネーミングで、両商品とも紙パックで提供されているため、コストパフォーマンスや eco の観点からも優れており、飲食店にとっては取扱いやすい商品なのである
「黒梅酒」は、梅エキスを配合しているのが特徴の“紀州南高梅 100 %の梅酒”である。収穫した青梅を搾り、じっくり煮詰め濃縮した梅エキスを使用することで、味の厚みが生まれ、コクとほど良い甘さを実現している。味に厚みがあるために、氷が解けても、炭酸で割っても負けないという特長がある。
「 赤梅酒 」 は、名前の通り、梅酒では珍しい華やかな赤色が特徴。また、「 高リコペントマト 」 「 マルチビタミンB12かいわれ 」 などの機能性野菜や 「 プリン体0.00 糖質0 」 の 「 サッポロ 極ZERO 」 などの機能系新ジャンルなど、機能性を謳う食品が増えてきたが 「赤梅酒」も梅・ぶどう・しそ由来の 3 種のポリフェノールが 1 本 (1.8?) あたり 800mg 入っているという、正に“機能系梅酒”ともいえる商品でもある。
同社の調査によると、「外食でよく飲むお酒を 3 つまで答えて」との設問に対して、首都圏の 20 代男性は他の年代に比べて梅酒を選択する割合が突出して高く、しかもハイボールを凌ぐほどであった。ちなみに、近畿圏は梅の産地和歌山を抱えていることもあり、更に梅酒の割合が高くなっている。一般的に梅酒は女性向きの商材と思われがちだが、若者層の男性にも人気の商材であることがわかる。この年代を意識した提案としては、ビジュアルやキーワードを前面に出すのが効果的と考える。例えば、『「男の黒梅酒」「女の赤梅酒」』や『「割って美味しい黒梅酒」「 3 種のポリフェノールが嬉しい機能系赤梅酒」』のように 2 商品をネーミングにより差別化する方法である。
また、同じく若者層を中心に人気のあるカクテルは、メニューを充実させようとすると、酒類を増やし過ぎ過剰在庫になったり、作業工程が多くなるためオペレーション上の支障をきたす可能性がある。これらの課題解決策としては、梅酒をカクテルのように使用したら良いだろう。
前述の通り、「黒梅酒」は、味に厚みがあるので“割っても負けない”という特徴がある。つまり、ロックやソーダ割り以外にも、ぶどうジュースで割った「ぶどう梅酒」、いちごシロップと炭酸水で割った「いちご梅酒サワー」などバリエーションを増やすことができるのである。
また、寒さが厳しくなるこれからのシーズンを迎えるにあたり“ホットドリンク”としての飲み方も提案できる。例えば、ポッカレモンとお湯で割った「ホットレモン梅酒」、或いは、紅茶で割った梅酒に少量のはちみつと生姜のすりおろしを加えた「ジンジャーティー梅酒」などは省エネの折、「ホット梅酒で暖をとる」などと一文を添えるとより効果的であろう。
「赤梅酒」は、華やかな赤色を活かし、炭酸水の上にシャーベット状に凍らせた梅酒をのせて“フローズン梅酒”として提供するとビジュアル上のインパクトを醸し出し、シャリシャリ感という食感を楽しむ飲み方を提案できる。見た目もルビーのような深い赤色がテーブルにも映え、他の来店客の興味を引くメニューにもなる。また、シャーベット状の梅酒をアイスクリームグラスで提供すれば“大人のデザート”としてデザートのバリエーションを増やすこともできる。ちなみに、「フローズン梅酒を飲んでみたいか」との設問に対し、首都圏女性の 69.3 %、近畿圏女性の 67.3 %が“飲んでみたい”、と回答、飲用経験のある女性の約 90 %が“また飲んでみたい”とリピート志向が高いという結果も出ている ( 同社調べ ) 。
更には、「 飲み放題に入れてもらいたいメニューを5つ選んで 」 という設問に対して、若年層で「梅酒」は 「 生ビール 」 に次ぎ 「 チューハイ・カクテル 」 とほぼ同等の回答となっている(同社調べ)。
以上のことから、例えば、「黒梅酒」と「赤梅酒」と特徴の異なる 2 商品でのラインナップに加え、それぞれの特徴を活かした“ホット梅酒”“フローズン梅酒”などのメニューバリエーションを充実させることにより他店との差別化を図れると考察できる。また、これらを飲み放題メニューへの追加することで若年層を中心とした顧客満足度の向上も図れることも期待できる。
紙パックを使用したリーズナブルな梅酒商品、「黒梅酒」と「赤梅酒」による売上高と利益向上策は、一考の余地があると考えられる。
差別化のポイント -梅酒-
①特徴の異なる複数商品のラインナップ
例:「カクテル風に使える梅酒」と「機能や見映えに優れた梅酒」の2品
②特徴を前面に出したメニュー提案
例:「フローズン梅酒」、「ホット梅酒」
③ネーミングによるインパクトの創出
例:「男の黒梅酒」、「女の赤梅酒」や「紀州南高梅の梅エキス配合 コクの梅酒」、「3種のポリフェノール配合 贅沢梅酒」
サッポロビール株式会社
1876年(明治9年)設立の開拓使麦酒醸造所で醸造された、北極星をマークとする冷製 「札幌ビール」 が社名の由来とされる。
1949年に大日本麦酒が分割された日本麦酒としてスタート。
1964年からは、会社名もサッポロビール株式会社に変更。
2003年の持株会社制導入に伴い、新たにサッポロビール株式会社として設立。
代表者 代表取締役社長 尾賀真城氏