外食企業に於ける情報システム構築の着眼点 ~外食ドットビズ論説主幹 坂尻高志~

外食企業に於ける情報システム構築の着眼点 外食ドットビズ論説主幹 坂尻高志

第5回 アーリーステージでのシステム化ターゲットと考え方

以上の様に、外食企業のアーリーステージでは、今後の成長に影響を及ぼす課題が山積みになっている。従って、システム導入のターゲットは、これらの課題を顕在化させ、店舗と本部が一体となって改善の方向付けが出来る様な、マネジメントサイクルの仕組みが優先となる。

システム導入を本格的に検討し始めると、「会計処理」「給与」「店舗システム(POSやOES)」「食材発注」「従業員の勤怠管理」といった個別の業務システムの検討から入りがちになる。勿論これらのシステムは企業経営にとって重要なものであるが、位置付けとしては、経営システム(マネジメントサイクルの実践用)の「サブシステム」として考えたい。個別システムから着手すると、システムに求める機能や必要情報が不明確な状態で進めることになり、やがて根幹の経営の仕組みから離れたものになっていく。さらに、経営システムを後付けで検討すると、サブシステムに対する新たな要求が加わり、企業経営全体の最適化が遅れてくる。当然、サブシステムに対するメンテナンスコストも膨大なものになってしまう。
経営システムは、市販のソフトを買ってくればすぐ出来るというレベルのものではない。実験と検証を繰り返しやり続ける事で出来上がっていく。最低限必要なものは、店舗で発生する数値確定の為の「POS」と、簡単な会計パッケージぐらいだろう。業績指標や当初の管理会計用の仕組みは「EXCEL」で充分機能する。また、個別業務システムについては、ASP( Application Service Provider )事業者の活用も検討したい。ASPのメリットは、規模に見合った業務システムの活用が可能であると同時に、情報システムの運用に関わるリスク回避と、システムコストの平準化、ASP事業者からのノウハウの享受にある。
この段階の経営者は、“まだまだ我々のレベルでは…”と考えがちであるが、早ければ早い程構築し易いのは明解である。

 

(1)マネジメントサイクル構築のポイント

■マンスリーマネジメント

  1. 日本の商習慣や給与支払単位が「月」ベースなので、計画~実行~検証サイクル単位をマンスリーとするのが一般的であり考えやすい。月末での店舗棚卸し、経費発生の閉めで数値確定するやり方である。
  2. 検証はPL(損益計算書)で。但し、通常の財務会計での決算を待つと、確定に時間がかかるので、管理会計方式で実行する。月初3日までには確定させたい(理想は1日)。
  3. パート/アルバイトの人件費は「労働時間×時給単価」で、また把握し難い水道光熱費は、メーター値で概算する等、月末で全ての数値を確定させる。
  4. PLと共に、PL項目に無い自社の業績指標(客数変動、食材ロス等)と生産性指標を加える。これらの情報により、先月のレビューと今月の目標設定をする。

 

■ウィークリーマネジメント

  1. マンスリーでのマネジメントの弱点は、月によって稼働日が違っていたり、前年比較した時に曜日構成が違う事で、特に売上傾向を見る時には正確な比較が出来にくい。また、天候やイベントの要因による影響も大きい。ウィークリーマネジメントは「問題発見~解決」のサイクルを、より早く実践させる「現場主体」のマネジメントである。
  2. 管理単位は「1W」「13W」(四半期)、「26W」(半期)、「52W」。「月」や「年」といった概念は排除する。管理単位が「週」であるから、前年同週との比較でも、マンスリーの様な不整合が起きにくい。
  3. サイクルは基本的に月曜日~日曜日とし、日曜日に棚卸しをする事で確定させる。毎週月曜日には必要情報が出る仕組みにし、週単位で計画~実行~検証のサイクルを実践する。
  4. 従って、経費の確定は「支払主義」では無く「発生主義」とする。発生主義は 「作業が発生する時」「コストを掛けようとする時」「人を使おうとする時」にいかに正しく判断するかという事が重要になってくる。

構築手段としては、まずマンスリーマネジメントの仕組みを固め、管理会計を主体としたマネジメントサイクルを定着させる事。マネジメントサイクルの基盤が出来ると、企業としての未整備の部分や、課題が浮き彫りになる。これらの課題を着実に解決していく事で、次への成長のステップとなっていく。



 	坂尻 高志

坂尻 高志

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長~事業部運営スタッフ~本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

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