外食企業に於ける情報システム構築の着眼点 ~外食ドットビズ論説主幹 坂尻高志~

外食企業に於ける情報システム構築の着眼点 外食ドットビズ論説主幹 坂尻高志

第2回 外食産業システム化ターゲットの変化…つづき

(2)第二世代(1990年~2000年)での情報システム構築課題

バブル崩壊を機に、日本の経済は低成長期に入る。店舗数の拡大を戦略としてきた外食産業大手も、その勢いを失った。低成長化での経営課題は必然的に「コスト削減」に向かう。外食産業先輩国のアメリカも同様の状況に陥ったが、彼らは新しいフォーマットの開発で、新たなマーケットを開拓し、「売上増」を目指していく。この辺りの事情は、『外食ドットビズ』 “ ファストカジュアルに見るアメリカ外食事情 ” を参照されたい。外食産業の歴史が長い分、今まで数々の困難に立ち向かい、その壁を乗り越えて来た経験とノウハウが、アメリカ外食産業にはある。残念ながら我日本の外食産業にとって、バブル崩壊の痛手は、初めて訪れた試練である。1990年代には、日本でも新しい業態開発も積極的に行われたが、冷え切ったマーケットを再構築し、豊かさを国民に再提供するフォーマットは築けていない。
FFやFR大手による“低価格戦略”が唯一革命と言える提案だろう。既存店の売上増が期待できない中で、一定の利益水準を確保するには、当然の事ながら「コスト削減」しかない。当然の発想である。この業務改革的アプローチは、企業情報システムの役割無しには実現できない。店舗拡大路線の第一世代では、省力化ツールとして陰ながら企業を支えてきた情報システム(というよりは、コンピュータそのものと言った方がいい)は、インフラの整備(オーダ・エントリー・システム~POS~ネットワーク~本部でのデータ集計・分析システム)の場から、「情報活用」のステージへと変わる。

「情報活用」の成否の決め手は「情報が速やかに流れる事」にある。例えば身近な例で、「食材発注システム」を例にとってみる。

Step1. 食材発注システムは、過去の実績や直近の商品販売を予測し、適正な発注をする事にある。
Step2. 適正な発注は適正在庫を実現させる。
Step3. 在庫量の削減は、店舗の作業量を軽減させると同時に業務の質を高める。 さらに無駄なスペースも無くなり、厨房機器を含め店舗投資の低減に繋がる。
Step4. 店舗投資が低減する事は、損益分岐点を下げる。
Step5. 損益分岐点が下がれば、出店候補地が増える。
Step6. 出店候補地の拡大は、競合企業との差別化要因となり得る。

これは極身近な例であるが、要するにどの企業でも用意されている発注システムひとつでも、それのもたらす期待効果と、変革をしていく行動が伴わないと単なる遊び道具に過ぎない。システム( System )は、集合を意味する接頭語[ Sy ]と、リンゴのヘタ等、単独では役に立たないものという意味の[ stem ]が合わさった単語である。単独ではあまり機能しないが、それらが集まるととてつもない力を発揮すると言う事である。「情報」は「次の行動を喚起させるもの」と定義される。従って、様々なデータが必要な各機能によって加工が施され「情報」になり、その情報によって皆が速やかに行動を起こせる仕組みの事を「情報システム」と呼ぶ。

少し横道にそれたが、外食第二世代はまさに「情報活用」の時代と言えるだろう。外食経営の根幹のあらゆる業務がまな板の上にのり、徹底的な分析が行われ、新たな業務モデルが創出されていった。低成長期故に、乾いた雑巾を絞るが如くの「コスト削減効果」は別の意味で企業体質を強めていく。情報システム構築の優劣が、そのまま企業の生き残り戦略になったともいえる。
「省力化」「コスト削減」を目的とした情報システム構築はおそらく未来永劫続いていく。情報システムの主なる目的のひとつである事に変わりない。外食産業が市場規模を縮小させた大きな原因は、コスト削減により、商品の質を落とし、人件費カットによってサービス力の低下を招いたからだ、という意見もある。各企業の状況を見れば否定は出来ないが、だからといって「徹底したコスト削減」はいけないという結論にもならない。いつの時代でもムダは排除すべきである。
外食産業がその市場規模を縮小させた原因は、「マーケットとのズレ」にある。前にも書いたが、バブル崩壊以降、企業内部の改革に視点が向けられていた間に、外食マーケットが微妙に変化をしていったのである。家族構成や人口構成が変わり、物の価値観が変わり、さらに顧客の選択の目が厳しくなっていった。第一世代時の様な、店を開ければお客様は来店するものだ、という現象は既に過去の想い出話になっている。今まで顧客のニーズを先取りして感動を創出してきた外食産業が、バブル崩壊で「よそ見」をしている間に、マーケットが先に進んでいってしまった。
という前提に立てば、次の情報システムの課題は明確である。「売上」を取りに行く仕組みを構築する事である。
この戦略は今の外食企業の経営政策に合致する。第一世代の時の「インフラ整備~省力化」から第二世代での「情報活用~コスト削減、企業体質の強化」のステップを経て、これらをさらに強化させつつ、さらに新たな課題として「売上確保~客数増大」の仕組みが必要とされてくる、という流れになる。

 

(3)第三世代(2000年~現在)での情報システム構築課題

外食産業は元来、顧客へのアプローチが苦手な産業である。1970年外食産業の発生段階での大成功以降、消費者の絶大なる支持によって支えられてきた。第二世代に突入後も、新業態開発によって既存店のダウンを補ってきた。そして内部充実に戦略がフォーカスされていった。つまりいい商品を、いいサービスで、きれいで清潔な店舗で提供いていく限り(高水準のQSCの提供)、お客様は来店してくださるものだという文化が定着している。店舗運営ではQSCは命である。これも不変であり、更なるレベルアップを期待したい。ここで言いたいのは、これらQSC個々の満足度のレベルが、顧客の望むものと外食企業が提供するものとにズレが無いか、と言う事である。
商品については、味・温度・盛り付け・食器等の各要素によって決定される。しかしこればかりでは「安心できる商品」とは言えない。今の顧客は「情報」を求めている。ステーキやハンバーグやピザに感動した時代は30年前に終っている。法の整備と共に具体化されつつある「原産地表示」や「成分表示」「アレルゲン表示」。またこれらに加え「製造工程」も見せる事で、お客様が「美味しい」と感じる時代となっている。そして安心して自分達の子供にも食べさせる事ができるのである。
サービスも同じ。言葉遣いや目配り気配り、頭の下げ方は基本だが、その基準は果たして顧客の望んでいるものなのかどうか、もう一度再点検したい。少なくともこの基準は外食産業誕生以来、手が加わっていない。企業側が作り出した基準にズレが無いか、新たなサービスの仕組みが必要となっていないかどうか。店舗環境についても掃除が行き届いていて、清潔な状態が維持されているだけで良いのか。それだけで使う側が「快適」と感じるか。

新たなQSCの基準作りには「IT」の力が必須になってくる。新しい取り組みをする為には、新しい「役者」の登場も必要である。今まで情報システム部門が中心となって築き上げて来た企業システムも、新しい観点でのシステム化ターゲットでは、より現場に、よりお客様に最も近いところで実行しなくてはならない。それには、店長や営業部門、商品部門が中心となって“お客様の為の”システムを築き上げていかなくべきなのだろう。

2000年問題をきっかけとして、企業にとって“消極的なIT投資”が終わり、しばらく動きが無かった情報システム構築の分野に、上記した様な観点で、ベンダー側についても、新たな参入組み達によって活発化されようとしている。
『外食ドットビズ』 “ 特集:電子マネー” でも書かれている通り、この仕組みは単に利便性の追求ばかりではなく、直接的な「来店動機」にもなる。言い換えれば「お客様を呼べる仕組み」と言える。携帯電話しかり、RFID(微小無線チップによる管理・認識の仕組み)しかり、道具立てには困らない。企業側のシステム構築に向けられていたITが、顧客側に向けられてきた。企業側にとっても、漸く「売上」「客数」の増大に情報システムが活躍し、全く新しい顧客獲得モデルが生れようとしているのが、今の外食第三世代の特徴である。



 	坂尻 高志

坂尻 高志

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長~事業部運営スタッフ~本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

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