ここ数年、市場規模の減少とともに、停滞気味だった外食産業のシステム構築に「動き」が出てきた。
企業の情報システムは、経営課題の実現の手段である。時代の変化やマーケットの変化とともに、経営課題も変化する。それと共にシステム化のターゲットも変化してくる。この「動き」の要因は何か。外食産業の歴史を再確認し、現在、外食各社が共通に抱える問題を見据える事によって、「今の課題」も見えてくる。
外食産業の発展経緯については、このサイト『外食ドットビズ』創刊特集 “よみがえれ外食産業”をご覧頂きたい。ここでいう第一世代~第三世代(現在)の時代変化と共に、外食企業情報システムもダイナミックな変化を遂げてきた。
外食第一世代は「店舗拡大の時代」であった。外食先駆者達によって生み出された飲食業の新しいフォーマットは、日本の食文化に大きな影響を与えた。チェーンストア経営を機軸とした「高収益体質」から計上された利益は、次の出店投資に向けられる。出店候補地は山の様にある。一等立地の陣取り合戦こそが、この時代の外食先輩企業達の重要な経営課題であった。この時代ではまだ情報システム構築には目が向けられていない。勿論、企業会計や給与計算等にはコンピュータを導入して処理されていたが、これは目新しい事ではなく、外食産業以外のどの企業も、一定の規模になると実践されてきた「当たり前の仕組み」である。
新規出店が重要経営課題であり、どの企業も年度目標値を遥かに超える実績を叩き出してきたこの時代では、情報システムに頼らなければならない開発ターゲットは無い。規模や処理量の増大化についても、コンピュータの成長は遥か先を進んでおり、全く問題は無い。ところが店舗数が10店舗から30店舗、さらに3桁の数値に突入してくると、売上対比利益率が低下してくる。原因は間接コストの増大である。出店の加速、店舗数の拡大がテーマであるにも拘らず、その資金が生み出しにくい状況になってくる。
間接コスト増大の悪の根源は「集計作業」である。全店舗からFAXや電話で集まってくる売上情報や販売情報は、人手によって集計される。集計作業自体は何の価値も生み出さない。しかしその作業に多くの作業コストが費やされていく。そればかりか、ついこの前まで直ぐに確定できた売上情報の集計が日増しに遅れてくる。店舗数が拡大されるにつれ、反比例的に経営判断のスピードが遅くなっていったのである。
マクドナルドがPOSの原型となるシステムを導入したのが1974年。POS先進国アメリカの仕組みを導入したものだが、その後日本マクドナルドのノウハウをベースに進化を重ね、1982年に開発されたPOSシステムは、米国マクドナルドに逆輸出されている。
テーブルサービス業態では、すかいらーくが全店舗にPOS導入されたのが1981年。店舗数 300 店舗を目前とした時期である。同時期にセブンイレブンもPOSを導入し、単品管理へと踏み込んでいく。
外食産業ばかりでなく、流通系企業の情報システム化はこの時代から始まった。
POSの導入目的は様々ではあるが、FF業態や物販系の企業ではその名の通り、「単品管理」を目的としているが、外食産業でのPOS化の初期段階では、むしろ前述した背景により、省力化→経営のスピード化が主目的であった。
現在、テーブルサービス系業態で導入されている「オーダー・エントリー・システム」が開発されたのが1985年。外食産業特有のシステムが始めて生れた。
POSやオーダー・エントリー・システムの導入によって、今まで見えなかった情報を外食企業は手に入れることが出来た。チェーン企業スタッフにとって必須な技術(能力)のひとつに、「数値を見て状況分析をし、問題発見~問題解決をする」という、いわば“アウトプットマネジメント”能力(情報リテラシー)がある。しかしまだこの時点では、「情報活用」の準備が漸く出来た時代と言って良いだろう。
店舗拡大は益々加速していく。その資金力を強化する為にIT(まだこの時代はこの言葉は無かったが)が省力化のサポートをしていく。一方、現場で発生している問題発見~解決のスピード化が要求されてくる。企業情報システム化への期待が、戦略の明確化と共に大きく膨らんできた。
しかし今まで“サポート”的な位置付けであった情報システムが、企業経営の主役に踊り出る状況が発生してくる。1990年に起こったバブル崩壊による「外食第二世代」への突入である。
坂尻 高志
外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長~事業部運営スタッフ~本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。