消費者動向を精緻に分析したマーケティングで、昨今ヒット商品を立て続けにリリースしているサントリーグループ。商品力だけではなく、おいしい作り方など効果的な情報発信で、角ハイボールの大きなムーヴメントも創出している。おいしさや品質を正しく伝えて顧客の琴線に触れるという手法は、業務用製品や飲食店向けの運営サポート業務にも反映されている。今回は、2010年のヒット商品であるノンアルコールビールテイスト飲料「オールフリー」や「トリスハイボール」を例に、業務用製品での取り組みや飲食店サポートの実態をレポートするとともに、飲食店向けソリューションの活用方法を探っていく。
飲食店に対するサントリーの姿勢は 「 盛業してもらうこと 」 にある。サントリービア&スピリッツ株式会社 営業推進第1部 武藤多賀志氏は、ある飲食チェーン社長の言葉を引用しながら、基本姿勢を次のように説明する。
「 メーカーの人間は、“ 自分たちの商品を売るという立場で飲食店に接するが、それは入口が違う ” と指摘されたことが印象的でした。店舗経営者にとって一番大事なのは、商品をそろえることではなく、自分の店を存続させることです。近隣店舗の状況や流行などの情報を知りたいのに、自社の商品情報ばかり主張するのは大間違いというわけです。ベースで考えなければいけないのは、自分たちの商品を取り扱っていただいている店舗の盛業のために、どういう手伝いができるか?ということなのです 」
飲食店には顧客からいろいろなニーズが集まってくる。それに応えられるように、ドリンクやフードメニューの強化、サービスレベルの向上につながるソリューションを充実させるのが、サントリーの店舗支援というわけである。そして、メーカーとしては提供品質を如何に高めていくかにこだわりながら、飲食店と連動してエンドユーザーの満足度を上げる活動を徹底する方針なのである。
サントリーが仕掛けたハイボールブームは、ウイスキー飲用習慣の拡大にとってはトライアルな提案に過ぎない。ウイスキー本来の奥深い味わいや価値観につなげていくような施策を行っていく意向を持っている。「 トリスや角から、サントリーのシンボリックな響や山崎、白州を味わってもらえるようなステージに移行する施策を強化していきたい 」(武藤氏)という。ここには、自社製品の拡販というだけではなく、プレミアムクラスへ移行することで、飲食店の売上や集客面も活性化させたいという狙いがある。
いきなりレベルアップするものではないが、ハイボールブームをきっかけにして、ペリエで割ってみるなどウイスキーを楽しむ習慣が広がっているのは事実。階段を一段ずつ上っていきながら、プレミアムクラスへつながるような仕掛けを検討しているそうだ。
「 飲食店が厳しい時代ですから、何とかしてお役に立ちたい、利益を出していただきたいと考えています。飲食店の皆様が元気になっていただかないと、メーカーの事業も成り立ちません。応援というとおこがましいですが、連携して活動を進めていきたいと思っています 」 と武藤氏。
角ハイボールが家庭にも広がったのは、「 最初に飲食店で飲んでおいしかったから 」 ということがひとつの要因となっている。テレビCMを打てば、家庭でハイボールを飲むようになるというものではなく、飲食店での上質な飲用経験が重要だったのである。家庭とは違うおいしいものを提供するのが、外食産業の本質的なメリットである。飲食店での提供品質にこだわるサントリーの戦略は、中食・内食が増える中での対抗策、競合との差別化になっていくだろう。
マクロ的とミクロ的、両方の視点から飲食店の盛業を考えていることが、サントリーのソリューションの真価なのかもしれない。
サントリーグループ
1899年(明治32年)に鳥井信治郎氏が、葡萄酒の製造販売のために鳥井商店を開設して創業。
1921年(大正10年)に株式会社寿屋を設立。
1929年(昭和4年)に、日本最初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー白札」発売。
1963年(昭和38年)にサントリー株式会社に商号変更。
1967年(昭和42年)、「サントリービール〈純生〉」発売。
以降は、清涼飲料・健康食品・外食事業もスタート、いずれも実績を残している。
2009年(平成21年)に持株会社制へ移行、新たなサントリーグループを形成している。
代表者 サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長 佐治信忠
取材協力 サントリービア&スピリッツ株式会社 営業推進第1部部長 武藤多賀志氏
文: 貝田知明