消費者動向を精緻に分析したマーケティングで、昨今ヒット商品を立て続けにリリースしているサントリーグループ。商品力だけではなく、おいしい作り方など効果的な情報発信で、角ハイボールの大きなムーヴメントも創出している。おいしさや品質を正しく伝えて顧客の琴線に触れるという手法は、業務用製品や飲食店向けの運営サポート業務にも反映されている。今回は、2010年のヒット商品であるノンアルコールビールテイスト飲料「オールフリー」や「トリスハイボール」を例に、業務用製品での取り組みや飲食店サポートの実態をレポートするとともに、飲食店向けソリューションの活用方法を探っていく。
サントリーは、おいしいトリスハイボールを飲める飲食店を 「 トリハイ酒場 」 としてモデル店舗に認定、2010年12月時点では全国約100軒に上っている。どのスタッフが注いでも同じ品質のトリハイができるように専用ディスペンサーを設置、“ すごいハイボールが飲めるお店 ” というホーロー製の認定看板を掲げ、トリハイ酒場からおいしいトリスハイボールの訴求を図っている。東京都内には約30店あり、2010年10月には田町(港区芝)初のトリハイ酒場として、立ち飲み業態の 「 田町ハイボール酒場 」 がオープンした。運営しているのは、田町を中心に都内で居酒屋や日本料理店、寿司、ダーツバー業態など計20店舗を展開する駒八グループ。このコーナーの第4回目は、創業35年の歴史を持つ駒八グループ代表・八百坂 仁氏のインタビューをもとに、ハイボールブームの中でのトリハイの効果的な活用法を探ってみる。
− 「 田町ハイボール酒場 」 の出店経緯を教えてください。
【 八百坂代表 】(以下、敬称略) 人気にあやかって、ハイボールを全面に出した店舗を出店したというのが正直なところです。サントリーさんは、地域で競合しないようにトリスハイボールのディスペンサー数を制限しているそうですが、田町のトリハイ酒場として確固たるメッセージを伝えたいと思っています。運営に関しては、近隣で同じ立ち飲み業態の 「 たちのみや二合半 」 という店舗を20数年営業しているので、それをベースにしてサラリーマンをターゲットの中心と考えています
− 35年にわたる飲食店経営者のキャリアから、昨今のハイボールブームをどのように分析していますか?
【 八百坂 】 私が北海道から上京してきた40年ほど前は、ケンタッキーバーボンが大人気でした。学生の私はトリスやハイニッカ、レッドなどに紅茶を入れて飲んだりしていましたが、いずれにしてもハイボールは定番の飲み物でした。その経験をもとにして率直に言わせてもらうと、最近のハイボールはちょっと物足りないというか、飲みやす過ぎると感じています。でも、それが時代のニーズですから、サントリーの営業の方と一緒にメニューを考えています。
− どのようなドリンクメニューを提供しているのですか?
【 八百坂 】 一番出ているのは、サントリー公式の 「 トリハイ 」 とライムを添えた 「 田町ハイボール 」 です。私が好きなのは、やっぱり紅茶風味の 「 英国ハイボール 」。それから、「 爆弾ハイボール 」 というのもあり、ハイボールに生ビールをプラスしています。変わったところでは、コラーゲンを入れたゆずまたは白ブドウ味の 「 コラーゲンハイボール 」 というのもあります。もうひとつの工夫として、「 オヤジの媚薬 」 という液体を各席に置いています。これは、コーラ風味のシロップで、トリハイに少し落とすと、さらに飲みやすくなって酒が進みます。無料ですから、たくさん飲んでもらえますよ。
− ドリンクメニュー開発で気をつけていることは?
【 八百坂 】 出店に際して、いろいろな飲食店や情報誌などで様々なハイボールを勉強しましたが、結局、女性のお客様を意識した甘いベースのハイボールは何杯も飲めないと判断しました。ニーズは、最終的にすっきりタイプに落ち着くだろうと思っています。ですから、店のメニューも 「 コラーゲンハイボール 」 や 「 ジンジャーハイボール 」 は甘めですが、他は甘味を控えています。ハイボールが店舗の弾なのですから、たくさん飲んでいただかないと売上は伸びません。濃い味にしていて、一杯だけで帰られたんじゃ意味がない。4、5杯は飲んでいただけるようにするのが工夫でしょう。
− トリハイに合うおすすめの料理は何ですか?
【 八百坂 】 鶏の唐揚がメイン料理です。ハイボールはさっぱり系ですから、合うのは焼鳥よりも揚げてコッテリしたもの。ですから、揚物は幅広くそろえています。「 晩酌セット 」 は、目玉料理1品・小皿1品・鶏唐という内容で1000円。「 本日の目玉 」 というのは、グループ全店共通のお得なメニューです。季節ものでカキフライもありますが、さっぱりの同系統ということで生ガキもよく合うんですよ。冬場ならおでん、煮込みもいいですね。12月からは1人前の鍋料理も提供しています。メニューづくりで気をつけるのは季節感とトリハイとの相性。相性に関しては、思ったよりも幅広い味に合うので、いろいろと試してみると良いと思います。
− オープンからの売上状況はいかがでしょう?
【 八百坂 】 駅に近い立地なので、帰りがけに飲み足りないからもう一杯という需要を取りたい。実際に夜8時過ぎから込み合うことが多いです。午後4時から営業しているのですが、早い時間の集客対策として、4時から7時までハイボール全品半額サービスを実施しています。
− サントリーさんの運営サポートに対するご感想は?
【 八百坂 】 ハイボールの商品戦略、ハイボールにまつわる店舗戦略となると一日の長があるように思います。味に対する好みは人それぞれなので、メーカーによる違いをどうこう言えませんが、サントリーさんがあれだけの宣伝費を掛けて販促活動をしていただけるのは、店舗にとってはありがたい限りです。このブームをいかにして長続きさせるか。これはサントリーさんにとっても、我々店舗にとっても大切な課題だと考えています。
− とはいえ、息の長いブームになるという勝算があったから出店されたわけですよね?
【 八百坂 】 それはもちろんです。今後5年は稼がせていただきたいと思っています(笑)。グループ各店には角ハイサーバーを入れているのですが、宴会の飲み放題でも出したところ1日200杯も出たことがあります。半端じゃない人気は1年半ほど続いています。いまの飲食店では、ハイボールがなければ厳しいでしょう。今後は、ハイボール体験が広がって、お客様から 「 こういうメニューはないのか?」 という声も上がってくると思います。そういうニーズをいち早く捉えて応えていくことが、王道かつ効果的な活用だと思います。
− 開店前のお忙しいなか、ありがとうございました。
ニーズに応えていく姿勢を示すように、取材直後には 「 田町ハイボール酒場 」 の新しいドリンクメニューとして 「 トマトハイボール 」 が誕生していた。さっぱりと飲みやすいだけでなく、男性用・女性用という2種類を用意して、いろいろな来店客が注文したくなる仕掛けも施されていた。ブームの後押しに乗るだけではなく、来店客の話題に上るフック、注文したくなるフックという工夫が販売促進には欠かせないのだろう。
駒八グループ
1975年(昭和50年)8月 杉並区・高円寺駅南口に7坪の「酒蔵駒八」を開店
1980年(昭和55年)8月 港区芝に本拠地を移転、30坪の広いスペースで本格的大衆居酒屋として「駒八 本店」を開店
※以降は、毎年のように新店舗を出店、居酒屋を中心に日本料理店、寿司、立ち呑み、ダーツバーなど計20店舗をグループで運営している。なお、田町には13店舗を出店、ドミナント戦略で売上を伸ばしている。
代表者 駒八グループ代表 八百坂 仁氏
サントリーグループ
1899年(明治32年)に鳥井信治郎氏が、葡萄酒の製造販売のために鳥井商店を開設して創業。
1921年(大正10年)に株式会社寿屋を設立。
1929年(昭和4年)に、日本最初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー白札」発売。
1963年(昭和38年)にサントリー株式会社に商号変更。
1967年(昭和42年)、「サントリービール〈純生〉」発売。
以降は、清涼飲料・健康食品・外食事業もスタート、いずれも実績を残している。
2009年(平成21年)に持株会社制へ移行、新たなサントリーグループを形成している。
代表者 サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長 佐治信忠
取材協力 サントリービア&スピリッツ株式会社 営業推進第1部部長 武藤多賀志氏
文: 貝田知明