シカゴ・ニューヨークで行った視察レポート。アメリカフードビジネスの潮流をさわりだけ。
2日目は前日とおなじくシカゴ、ダウンタウン。Lawry's The Prime Ribにて夕食。
なにせプライム・リブである。その名の通りメインはリブロースを使ったローストビーフ。前日、チーズケーキファクトリーで食べたものはすっかり消化され(あたりまえだが)、いざ準備を整えてお店へと集結。肉である。
我々が行ったシカゴのお店のお向かいはチーズケーキファクトリーの高級版、Grand Lux Cafe。前日のチーズケーキファクトリーからも近い。自社競合対策で開発されたらしい。
あとから入手した情報であるが、Lawry's もファストカジュアルに参入している。Lawry's Carvery という名称で、こちらはサンドイッチをメインとするテーブルサービスらしい。各地に展開しているが、今回は視察で触れられなかった。近いうちにだれかレポートしてくれると勝手な思い込みをしている。
さて、チーズケーキファクトリーでは予約ができなかったが、ここは予約可。むしろできれば予約したほうが良いだろう。ここはOFSC事務局の方々のご協力により、なんと厨房ツアーを実施してくれるとのこと。
楽しみである。
中に入ると、さすがに老舗らしい雰囲気で、すこし圧倒される。客席もどうやらフォーマルな装いが目立ち、今日は孫の誕生日でとか、あなた結婚記念日くらいとか、家族での特別な集まりといった感じが良く似合う店だ。私はジーンズにボタンダウンとジャケットというスタイルで来てしまって戸惑ったが、良しとする。短パンにサンダルとか恥ずかしい格好をしてこなくて本当に良かった。
ウェイティングスペースと客席。重厚な雰囲気。
Lawry's The Prime Rib は1938年創業で、ビバリーヒルズで開店。このシカゴのお店は1974年にオープン。当時マンションだった建物を改造して店舗にしたらしい。いまの鉄筋のスタイルになったのは77年のことで、逸話も面白いが、当時のままの入り組んだ構造がそのまま生かされており、むしろ往時をしのばせる天然のテーマレストランとしても通用する気がする。
予約の時間になったところで、なぜか記念写真。ダイニングの中央から螺旋階段がのびていて、ほかのお客様のかならずしも好意的でない視線を浴びながらぱちりと。
ああ、視線が集まる・・・。
記念写真の後、マネージャーらしき人が前述のお店の歴史から始まり、物語がスタート・・・・。
今回は石田さんの同時通訳がなく、我々は耳を総動員してかつ豊かな想像力で物語を構築してとりあえず厨房ツアーに入ってもらうことにした。
たぶんマネージャーはもっと話を聞いてほしかったと思うが。まったく問題無しとする。
厨房は大きく分けて3つの部屋に分かれている。サラダやサイドディッシュをセットアップする部屋と、肉をローストする部屋、ドレッシングなど貯蔵品をセットアップする部屋と貯蔵庫で、それぞれの部屋の行き来に階段があったり、大きなパーティースペースを介して移動したりと、お世辞にも効率の良い作りとは言えない。
次の調理場へ移動する途中でガラクタ置き場が・・。年内に改装してここもダイニングにするらしい。
厨房ツアーの最中に調理行程の説明があった。肉は3時間ほどローストされ、移動式のオーブンに入れたまま客席へはこばれ、お客様の見ている前でカットして提供する。
このときに、お客様の要求にたがわず上手にカットできるスタッフが毎年選出され、優秀者にはメダルが贈られるらしい。
品質に寄与するのだろうか。面白いとは思うけど。
チャンピオン登場。
調理器具についてはやはり大量調理型の機器を多くそろえ、200人を超すパーティーにも対応可能である。
スタンバイは客数によって変動するが、約80個のリブロース(切る前のかたまり)が準備される。(最高80個スタンバイ可能と言っていたのかもしれない。)
このかたまりは1斤ずつ真空パックされたものを週2回、おそらく需要予測に応じて仕入れ、冷蔵貯蔵される。
かたまりの肉はやはり迫力があります。
アメリカに行くとこれでもか言うくらいマッシュポテトを出されるが、肉の付けあわせとしては当然はずせない。見たことの無いような大きさのジャガイモがスタンバイされていた。何人分だろう・・。
イモとイモを撮影する私。冷静に考えたらそんなに珍しくない。
マネージャーがしきりにほめていたのがコンピュータシステムで、この管理システムはすごい、テーブル状況も管理できて重宝してるよ。いまのオペレーションを維持できているのはこのシステムを導入したおかげだよとべた褒め。日本でもホテル系のPOSオーダーエントリシステムに良くみられるしくみかとおもうが、こんなにお客様によろこんでもらえるベンダーがうらやましい。
べた褒め。
厨房ツアーの途中、この店に32年勤めているというスタッフを紹介された。単純にすごいと思う。
本人は撮り損なった。不覚・・。従業員は定着率が高いようで、全般的に年齢高め。店が好きなのだろうな。
厨房ツアーを終え、マネージャーに深く感謝。いよいよプライムリブを食す。
この店はなんというか冒頭に述べたが、「天然系」テーマレストラン(実際の位置づけは違います)だなということを感じた。
関係ないかもしれないがロックバンドの究極はコミックバンドであるという意見を最近読んだ本で見かけたが、客席のすぐそばで肉を切るパフォーマンスのほかに、スタッフ一同、私たちをエンターテインメントの世界へ引きずり込もうとやっきになっているようで、笑いが絶えなかった。
やにわ関係ないところでチャンピオン(前述:肉のカット優秀者)が登場したり、特におばちゃんがサラダをサーブするときに自分で「スパイラル・サーブ!」とか自分の必殺技に名前をつけてサービスしていたのはコントだなこれはと思った。
「スパイラル・サーブ」とは、単に葉っぱの入った大きめのボールをワゴン上でくるくる回転させ、チーズベースのドレッシングをおばちゃんが身長の高さからそそぐというパフォーマンス。
・・・・。だからなんだと。
スパイラル・サーブされたサラダ。何の変哲も無いシーザースサラダである。氷の上でスパイラル(?)するので確かにつめたくておいしい。
肝心の肉の味は・・おいしい。ローストビーフというとぺらぺらのハムのようなものしか想像していなかった私だが、上等なステーキが出てきた。
一応焼き方と大きさを聞いてくれるのだが、私が頼んでもらったのはおそらく4分の1ポンド。十分な食べ応えの上、やはり出てきたマッシュポテトがどんぶり1杯分ほど盛られて、さすがに完食を断念。デザートはアイスクリーム。
おいしい。骨付きの部分が特にお勧めらしい。
32年努めているスタッフがいるということを書いたが、創業からたどり着いたスタイルが暗黙的にスタッフに定着し、「お客様を楽しませる」ということに行き着いているような気がする。
当たり前のことだが、この店のスタイルは自然と消費者に受け入れられたわけではなく、徹底した品質維持と、細かい改変、試行錯誤がもたらしたものである。
「天然系」とおもったのは、トレンドに左右されること無く、創業以来「楽しませる」ことに主眼を置いている点で、アメリカそのものを感じるのである。
前日のレポートでも触れたが、「非日常」というキーワードをアメリカの人たちは大事にしているような気がする。非日常は楽しく、気持ちよくなければ意味が無い。
Lawry's The Prime Rib は東京赤坂にも店舗がある。このような視点で一度試してみるのも面白い。
公式の視察はこの後、ニューヨークの「NINJA」が残っているが、余裕があればシカゴでの私的なレポート(HMR・ファストカジュアルの数店舗。本来のトレンドとしてはこちらに力を入れるべきだろうが・・・。)も掲載したいと思う。
福本 龍太郎
国内コンピュータ販社にて流通小売業界向けSI事業部門を担当し、外食店舗店舗システムにも関わる。
現在は有限会社ノーデックス代表取締役。
ネットビジネス黎明期より各種サービスプロバイダを経験し、業務システムへのネット技術の応用・普及につとめる。