シカゴ・ニューヨークで行った視察レポート。アメリカフードビジネスの潮流をさわりだけ。
初日の視察からはシカゴ、ダウンタウン。The Cheesecake Factoryである。
NRAショーレポートでも書いたが、非常に美しい町である。
ダウンタウンの北端を抜けると、ミシガン湖にぶつかる。店舗視察の待ち合わせまで時間があり、私たちも足を伸ばしてみた。街区からちょっとしたトンネルを抜けてビーチに降りることができ、ダウンタウンの喧騒から一転して静かな時間と白い砂浜が展開する。
ミシガン湖ビーチ。ぜいたくな場所です。
すでにビーチでは水着の人がいて、遠くにはウィンドサーフィンが数丁漂っていた。もうすぐ夕暮れという時間帯で、印象的な光景だった。
The Cheesecake Factoryはそんな贅沢な都市の中心、ジョンハンコックセンタービルの地下に2000年にオープンした店で、現在は大商圏を中心に各地に展開している。
ジョンハンコックセンタービル。ウォータータワー周辺、都市の中心地である。
開店当時から夕方は1時間待ちが当たり前という人気店で、実際私たちも18:30から1時間ほど待ってようやく店に入れたのであるが、アメリカのひとは気長に待つなあと思うのと同時に、「大商圏立地の自社競合」を少し理解した。
テラスで食べてるひとと待ってる人でごったがえしている。デザートはテイクアウトも出来ます。
日本の外食企業の方々もこぞって視察に訪れていたらしいので、ネタとしては多少使い古された感があるが、その後も人気を維持し続ける怪物を、多少強引な仮説を交えてレポートする。
カジュアルレストランという位置づけであるが、私は定義がピンときていない。ディナーレストラン並みの格調で、手軽なメニューをそろえるということだろうか。
たしかに店の造りにはこだわりが見え、チーズのメタファーだろうか、奇妙なオブジェが店内に張り巡らせてあり、床は高低をつけて奥行きのある作り方。客席は十分な広さが確保されており、私が入ったのは19:30ごろだが、店内の照明も落ち着いていて、適度な陰影と装飾で非日常を演出している。客層は多様で、時間帯にもよるが、この時間帯からはカップルでの来店が多くなってくる。
店員は若干若い年代(私は見分けられないが)で、良く教育されていて愛想が良い。日本のファミリーレストランでも見かけるが、着るものでチーフレベルと一般を分けているように見受けられた。
チーズケーキファクトリーという名前の通り、もちろんチーズケーキが目玉なのだが、フードメニューのメインはパスタ、サラダ、チキン、ステーキ、サンドイッチなど、通常のファミリー向けのメニューが並ぶ。
スナックメニューを頼んでるつもりが・・・。ちなみにこれは私が頼んだものではない。
どれも量がハンパでなく、とくにサラダなどはかさばっていて「山」がやってくる印象である。
私たちのとなりがカップルで、女性の方がサラダ頼んでいたが、チキンブレストが何切か乗った「山」をきれいに平らげていた。
私が頼んだのはトマトとバジルのオリーブオイルベースのパスタ・エンジェルヘア。
通常量の2倍はありそうなものが運ばれてきて、味は・・・うーん。
前情報でちらりと、アメリカの人はパスタをものすごくやわらかくゆでて食べる傾向があるらしいと聞いていたがなにもここまで・・・。
おまけに量が多くて食べてるそばからリアルタイムでどんどんのびます。
しかもなぜが伸びやすいエンジェル・ヘアを使っていて、のびることを前提としたぺペロンチーニですね。
・・・無いでしょう、この組み合わせと量。
いや、ここは私見です。日本人だし。
2000年ごろのアメリカの景気と関係しているのかもしれないが、大事なのは「低価格で非日常を手に入れる」ことであり、当然非日常の中で人は気持ちよく、楽しくなりたいはずだ。
メニュー構成は50種類のデザート(もちろんチーズケーキを主体に)を含む200種類のバリエーションを実現し、絶えず改廃が行われている。(アイテム数と効率についての考察はこの場合無視することにする。)
店内に入ると少し暗い照明のエントランスに煌々とショーケースが。大ぶりなチーズケーキがずらりとならび、目を楽しませる。
照明は暗め。ひときわショーケースが魅惑的である。食べたくなるだろうな。
関係ないかも知れないがメニューブックは1ページごとに、広告ページが上手に織り込まれていて、いまではこの店の代名詞となっているらしい。広告主とのタイアップ商品もあり、だれでも考えそうではあるが、高度な設計がされている気がする。(会社のWEBサイトでもメニューブックのオブジェクトを配置しているが、さりげなくGODIVAが・・。)
広告主の立場に立ってみるとどれくらいの告知効果があるのかわからないが、消費者の目を楽しませる効果に一役買っていることは間違いない。
あと、これは私が気づいたことでは無いが、テーブルに配置してあるペッパーソースの瓶が、随時交換されていて常にすりきりまで入れてある。(別に大量に消費されているわけでもないが)切れているときにいちいち店員を呼ばなくて良いし、使いかけの汚い印象が無いので使うときに気持ちが良い。
見落としがちだが、このようなことを無理の無い行動としてオペレーションに組み込むということが、「非日常では気持ちよくなくてはならない」というシンプルな定義を守っているのではないか。
料理の提供は感覚でしかないが少し遅かった(外はいまだに長蛇の列のピークタイムだからかもしれないが)ように思える。
今回私は厨房を見ることができなかったが、この提供の遅さが滞留につながっているかもしれない。予測なのでなんとも言えないが。
この店について言えば、「なぜ、人気なのか」というより、「なぜ人気を維持できているか」ということに着目しなければならない。
最高のダイエットが「太らないこと」であるように、ある基準を維持するということは、実はシンプルなのではないか。
外食企業に関して言えば、サービス品質を落とさないことである。仮説検証の上、消費者に受け入れられた品質を、改変しつつ維持する。この場合の改変とは、新たな驚き・感動のことである。
各種の情報源から過去を調査してみたが、開店当時から店の様相に大きな変化は無い。ただし、細かい改変が随時行われていて、いまでも長蛇の列を造り、この1店舗だけで年商20億円に達しているという。
視察中のなかでもひときわ従業員の対応が良いように感じたが、従業員もプライドを持って仕事をしている雰囲気があった。
この日は視察行の初日で、皆さんへとへとになっている中で通常の2倍の量をこなす(たべる)という苦行を行ったのであるが、論説主幹いわく「まだまだ」。
体を壊さないことを祈りながら、明日は赤坂にもお店があるLawry's The Prime Libへ。
福本 龍太郎
国内コンピュータ販社にて流通小売業界向けSI事業部門を担当し、外食店舗店舗システムにも関わる。
現在は有限会社ノーデックス代表取締役。
ネットビジネス黎明期より各種サービスプロバイダを経験し、業務システムへのネット技術の応用・普及につとめる。