一昔前に比べ海外旅行は身近な存在になっただろう。とはいえ、現実は時間もないしお金もかかるし……と、なんだかんだで諦めている人は少なくないはずだ。芸術新聞社より今年8月に刊行されたグルメ漫画「東京世界メシ紀行」(いのうえさきこ著)は、まさにそんな人たちに読んでもらいたいガイドブックである。
ご存じの通り、東京にはアジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカなど様々な国の飲食店がある。今回は、この沢山の飲食店の中から、なぜあまり知られていない国のお店を選んだのか、なぜ日本人のシェフではなく“現地の料理人”でなければならなかったのか、そのこだわりについて語っていただいた。
以前、「人間の味蕾(みらい)は、8歳から急速に増え、12歳をピークにまた減ってしまう」という記事を読みまして……。味蕾というのは、舌の表面にある器官なんですけど、食べ物に含まれる味は、まず味蕾でキャッチされ、神経細胞を通して脳に伝えられて「甘い」とか「辛い」とかを知覚するみたいです。もう自分は、どうあがいても12歳の頃の味覚で形成されているんですよね……。でも、マイナー料理のお店に行くと、見るのも食べるのも初めてのものばかりだから、毎回味覚が更新されていくのが分かるんですよ。その時に、大人になってもまだまだ変化はあるんだと実感しました。味わったことのない感動があるっていうのが、一番の魅力じゃないでしょうか。だから、色々知っている大人の人にこそ、あえてマイナーな国の料理を食べて欲しいです。知らないことに触れると脳の刺激になりますから。ボケ防止にもなるんじゃないかなぁ(笑)。
昔、カンボジアに行ったとき、美味しいご飯を独特の匂いのあるお店で食べたんですよ。どのレストランで食べてもその香りがするので、なんの匂いなんだろうとずっと不思議に思っていたのですが、その後日本でカンボジア取材に行ったときに、それがカンボジア独自のプラホックという塩辛が発しているものと知ったんですね。日本で日本人が作る料理はどれも間違いなく美味しいんです。でも、カンボジアであの「匂い」と「ラフ」な環境で食べたご飯の方が、やっぱり心に残るんですよね。それが土着の料理だと思うんですが、雑でも素っ気ない料理でも、その国により近いものを求めているのかもしれないです。
そうですね。一概には言えませんが、海外では日本のように至れり尽くせりのサービスがあるわけでもなく、いい意味で適当でアバウトなので、拍子抜けするようなことも多々ありました。約束の時間にお店に行ったら昼寝していた店主もいたり(笑)。でもちゃんと待っていてくれてるわけですし、自分の国の料理に対する熱い気持ちは全員から感じました。アバウトではあるけど、フランクで愛を感じる。その日本とのギャップを含め、「現地」に行った気分が味わえると思います。
そうなんですよ。お昼だったら1,000円もあれば冒険できるんですよ。飛行機も乗らず、時間もいらない海外旅行ですから。
次回最終回は、いのうえ氏お勧めのお店や、外食産業における「世界メシ」の今後の展開について語っていただく。