一昔前に比べ海外旅行は身近な存在になっただろう。とはいえ、現実は時間もないしお金もかかるし……と、なんだかんだで諦めている人は少なくないはずだ。芸術新聞社より今年8月に刊行されたグルメ漫画「東京世界メシ紀行」(いのうえさきこ著)は、まさにそんな人たちに読んでもらいたいガイドブックである。
第2回目からは、「東京世界メシ紀行」の著者いのうえさきこ氏によるインタビューをお届けする。まずは、本書を描くことになったきっかけや、掲載するお店選びのこだわりについて語ってもらった。
これまで描いた漫画の中に、料理のうんちくを描いたグルメ漫画(※1)があるんですけど、それを読んだ「クーリエ・ジャポン」(※2)の当時の編集長から、今度は外国版で料理のうんちく漫画を描いてみませんかと声をかけていただいたのが最初です。その後、どうせならこの漫画で、実際に海外に行ったような追体験ができたらいいねという流れになり、都内に実在するお店を取材して、そこで聞いた生の声を漫画にしようということになったわけです。直接取材をすることで、よりそのお店の愛情やこだわりを知ることができるのだと思いました。
※1:「わたしのご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ①・②」(KADOKAWA/2013、2014年刊行)、「食わせろ!県民メシ」(講談社/2009年刊行)
※2:講談社発行の雑誌「クーリエ・ジャポン」(2016年3月よりオンラインに移行)
最初から、いわゆるメジャーな国(タイ・インド・ベトナムなど)の料理はやめて、マイナーな国にしようと決めていました。お店の選定は、グルメライターの方からの情報をベースにウェブ検索などで集めていきました。最初はロケハンをしてお店を回っていたんですけど、事前に調べていたお店が既に閉店していたり、入れ替わりが激しいという現状を知り、ロケハンはやめました。だから、お店は決め打ちで行って取材をするというスタンスに切り替えたのです。
そうですね。冒険でしたよ(笑)でも美味しいか美味しくないかは自分個人の基準で判断するものではないと思っていましたし、“初めて”を感じる味であれば、それでいいと思ったんです。例えば、人のお家のご飯でも、たまに「この味微妙だなぁ」って思うことあるじゃないですか。でも、美味しさよりも、その場の雰囲気や過ごしている時間が楽しければ、美味しさはそこまで特別じゃないような気がするんです。この漫画に出てくる料理も、決して華やかとは言えない素朴な料理が出てきます。でも、懐かしかったり、面白かったり、その場にいることが楽しいと感じるお店を探していたので、そこが選定する上で大切にしていたことですね。
次回第3回目は、なぜこの漫画ではマイナーな国ばかりを取り上げているのか、なぜ日本人シェフではなく、“現地の料理人が作っていること”にこだわってきたのか、その疑問に答えていただく。