厳しい経営環境にある外食店で、求められているものは何であろうか。メニューの差別化、コスト面を含めた合理化、そして、ホスピタリティーの充実といったことが考えられるが、これらの要素を踏まえた上で日本の外食産業に向けて、新たなメニュー提案を実践しているのが米国ポテト協会である。米国ポテト協会は、レストランや企業などに対してアメリカ産ポテトに関する知識や情報を提供する非営利団体。「ジャガイモ」という普遍的な食材にいかなる新しい魅力を提供しようとしているのか。そのマーケティング施策とアメリカ産ポテトの真価に迫ってみる。
ビールとカクテルをメインに、フィッシュ&チップスをはじめ代表的な英国メニューを提供している英国風パブの 「 HUB 」。2008年3月からアメリカ産ディハイポテト(スタンダードポテトフレーク)を使った料理をグランドメニューに採用、お客様の舌を満足させる一方、厨房スタッフからも好評を博しているという。アメリカ産ディハイポテトがもたらした成果について、株式会社ハブ 商品企画部メニュー企画課 課長 石河幹武氏にうかがった。
--- まず、店舗コンセプトなどHUBについて教えてください。
【 石河氏 】 弊社はもともとダイエーグループでスタートしているのですが、中内功氏が英国のパブに感銘を受けたのをきっかけに、ちょうど30年前に神戸で1号店をオープンしました。英国パブをそのまま持ってくるのではなく、日本人のお客様に合うようアレンジし、日本にいながら英国のパブ文化を体験していただけるというコンセプトで作った業態です。
--- 日本人に合うというのは、食事メニューのことですか?
【 石河氏 】 主なところはそうですね。英国は食の国ではないとよく言われますが、おいしい料理もたくさんあります。現地のメニューをそのまま持ってくるのではなく、英国色をなるべく消さないようにし、日本人の口に合うようにアレンジして提供しています。それから、決定的に違うところは接客面です。現地のパブは、良く言えば煩わしくない、悪く言えばほったらかしのスタイル。日本は接客が重要ですから、サービス面にも精力的に取り組んでいます。
--- アメリカ産のディハイポテトを使われているメニューはどのようなものですか?
【 石河氏 】 ひき肉で作る英国風ミートパイ 「 シェパーズパイ(羊飼いのパイ) 」 と 「 ローストビーフ 」 でマッシュポテトを使っています。味付けは、シェパーズパイのマッシュポテトはバターと塩コショウのみ、ローストビーフのマッシュポテトにはマスタードも練り込んでいます。
--- 国産をはじめ世界各国のポテト製品があるなか、アメリカ産を採用することになった理由や経緯を教えてください。
【 石河氏 】 昔からマッシュポテトを提供していたのですが、ずっと生のポテトから作っていました。ふかして、皮をむいて、つぶしてといった手間が現場の負担になっていたのです。チェーン店ですから、キッチンの中をアルバイトが一人で担当することもあります。そうなると、手間が掛からず、保存も効く乾燥ポテトがベスト。そこで、米国ポテト協会さんと一緒に製品を選び、さらに国産の製品も混ぜてブラインド試食して、いま使っている製品を選びました。ローオペレーションと保存性、味の良さが採用の理由です。
--- 味の違いは、どのようなところにあるのですか?
【 石河氏 】 まず、生のポテトと比べると、食材や作り手によるバラつきがないことに意味があります。ふかすのが甘くて芯が残っていたりすると食感にバラつきが出て、美味しいマッシュポテトにはなりません。乾燥ポテトは、一定量の牛乳とバターを入れてレンジアップし、かき混ぜるだけですから、バラつきが一切出ないのです。採用したアメリカ産のポテトフレークは、その中でもとくに食感がなめらかでクリーミーだったことが決め手になりました。「 食べてみて単純に美味しい 」 「 オペレーションが楽 」 「 価格も安い 」 という3つの判断基準をクリアした製品です。
--- 飲食店である以上、顧客からの支持がなければメニューは存続しませんが、どのような反応があったのでしょうか?
【 石河氏 】 「 シェパーズパイ 」 は、以前は出来合いのマッシュポテトを使っていました。当時から味の評判は良かったのですが、アメリカ産のポテトフレークに変更してからは出数が倍増しています。「 ローストビーフ 」 は、3倍増で推移するようになりました。もともと料理の出数が少ない業態で、1日1店あたり数食も出ればヒットメニューになります。ですから、驚くような数が出ているわけではないですが、確実に増えています。お客様からは、味の評判がすごく良くて、ポテトを食べ慣れている外国の方からも 「 マッシュポテトがおいしい 」 といった評価をいただき、リピートしてもらっています。ちなみに、英国の某有名バンドも来日講演のたびに足を運んでくれています。
--- 1日に数食ということですが、オーダーが入ってから調理を始めるのですか?
【 石河氏 】 シェパーズパイはオーダーが入ってから焼きますが、焼く直前の段階まで仕込みをしてあります。練り込んだ後でも保存が結構効きますから。きちんと菌検査をしてみたら、生のポテトよりも日持ちするという結果が出たのです。わずか1日ほど長いだけですが、ロス軽減やコストダウンという意味では大きな違いです。
--- アメリカ産乾燥ポテトを使ったメニューの今後の展開は?
【 石河氏 】 現行の2品は、登場から2年が経過しましたので、どうアレンジするかを検討しています。もちろんベースは変えずにブラッシュアップして進化させたいと考えています。マッシュポテトは、食材としては脇役かもしれないですが、これからも出しつづけたいと思っています。
--- 最後に、ポテトへの期待をお願いします。
【 石河氏 】 食文化としてポテトがもっと日本に定着してほしいですね。ポテト=フライドポテトという認識しかないのが現状で、ローストビーフの下にあるマッシュポテトが美味しいことに、お客様が気づいてないふしもあります。食文化を築く一歩として、米国ポテト協会に、まず食べてみることを促してほしいです。HUBに来られるお客様の中には、「 食べてみたら美味しかった 」 とリピートしてくれる方がたくさんいます。まず、口に運んでもらって感動してもらうことに、私たちも貢献したいと思います。
株式会社ハブ
http://www.pub-hub.co.jp
1980年にダイエーの100%子会社として設立。ダイエー創業者が渡英の際、英国PUB文化に感動して日本で広めたいとの想いからグループ内で事業化。同年3月に1号店「HUB神戸三宮店」をオープン(1986年9月閉鎖)する。
1997年にオープンした池袋東口店で、現在のHUBのプロトタイプ確立。
1998年からは、株式会社ハブとして事業を展開、2005年には同じ英国風パブ 「 82(エイティトゥ) 」業態の1号店を神田にオープンする。
2010年2月末現在の店舗数は60店舗(「HUB」49店、「82ALE HOUSE」11店)。
【代表者】代表取締役社長 太田剛
米国ポテト協会
●団体概要 生産者の目線でアメリカ産ポテトのグローバルな発展を
コロラド州デンバーに本部を置く米国ポテト協会は、全米のポテト生産者を代表する非営利団体である。1971年の設立当初、「ポテトは太りやすい」といったマイナスイメージがアメリカ国内にあり、消費者に栄養価などに関する情報を提供することでそのマイナスイメージを払拭する目的で米国ポテト協会は設立された。その後、活動範囲を広げ、現在は、日本、韓国、中国、香港、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、メキシコ、コスタリカの12の国と地域に代表事務所をおき、アメリカ国内だけでなく世界各国でアメリカ産ポテトについての教育プログラムを展開している。
●米国ポテト協会のサポート・プログラム 米国ポテト協会は、サンプルの提供、メニューやレシピの開発、メニュー提案セミナーの開催や技術的サポート、店内デモンストレーションの実施、POPツールの制作、企業協賛、PR活動など、輸入および卸売、小売、食品メーカー、外食産業の各業態に応じたサポート・プログラムを提供しています。
●取材協力 米国ポテト協会 日本代表事務所 プログラムコーディネーター 友田理絵氏