「ホスピタリティ精神とアメニティ感覚に溢れ、高度な専門性と実践的能力を身につけた、地域の発展をリードし、世界に貢献できる人材を育成するとともに、学術・文化の向上と豊かで活力のある地域社会の形成に寄与する」を建学の理念とする宮城大学。飲食業に繋がる理念を有する同大学は同時にフードビジネス学科というまさに飲食業にかかわる学科を持つ。今回は同学科准教授の老川信也先生が食の安全・安心についての論文の要約を外食ドットビズに寄稿していただいた。
今回は、安全と安心について考えてみる。安全とは有形・無形を問わず被害がないことであるが、食(品)の安全を脅かす代表的なものとして食中毒を思いつくと思う。今年は全国的に猛暑期間が長かったため、体力的にも時期的にも、これから注意すべきことだろう。食中毒を分類すると下記(表1)のようになる。
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表1:食中毒の分類
この分類は「何の、どこに、どのような、どうなる」を具体的にまとめていない。例としてあげれば「フグの、卵巣に含まれる、神経毒のテトロドトキシンで、呼吸困難になる」ということである。
さて、上記の分類は分かっていただけただろうか。個人によって知っている範囲と理解度の差があり、大きければ不安にならないだろうか。
「 フグ 」 を例にあげれば専門店(ふぐ処理施設の届出がされた)で出され、適切な方法(ふぐ調理師免許証保有者が)であろうから安心だと思うのではないだろうか。
安全とは、処理方法や数値として科学的に示すことができる客観的なものであり、安心とは何かを根拠にされた主観的なものである。
このような追加情報を得た場合、不安と思う気持ちを払拭できるだろうか。専門店が過去に一度も事故を起こしていないというこれまでの実績(結果というデータ)や、知り合いが数日前に来て食べたが元気だったとか、複数の調理人が確認している、提供する前に自ら食して確認して(実際にあるかはわからないが)いるというような専門店側からのPRでも無い限り安心はできないのでなないだろうか。
生産者側(ここでは食品取扱事業者)と消費者側の、安全に対する意識について紹介しよう。平成21年内閣府国民生活局が公表した 「 フードチェーンにおける安全性確保に関する食品産業事業者アンケート調査 」 からの抜粋である。食品取扱事業者としての役割の中で、安全に関する役割(図1参照)に対し約70%以上と高い意識を持っていることが伺える。
一方、消費者側はどうとらえているのだろうか。時期と内容は異なるが、平成20年10月に公表した農林水産省食料品消費モニター調査結果では、約半数(47%)の消費者が 「 トレーサビリティ 」 という言葉を概ね理解していると回答している。
しかし、概ね理解していると回答した消費者に対し、「 トレーサビリティと生産情報開示とは異なるものである 」 ことを理解している消費者は、さらに半分(49%)であった。これは消費者は言葉は知っているが、間違った理解をしていると言えるだろう。
トレーサビリティとは、平成12年に発生したBSE問題に対応すべく 「 牛の飼育(飼育者、飼料など)、流通、加工、小売など 」 を一貫して管理することにより、問題が発生したときにすばやく対応できるようにした取り組み(仕組み)であり、積極的な生産情報開示ではない。しかし、この取り組み(仕組み)が存在することを知り、守られている限り安心できるのではないだろうか。
安心とは、安全に対する取り組み状況や過去の実績を知ることにより、信用できる気持ちではないだろうか。
そのためには、企業側は積極的に情報を開示すべきだと考える。また消費者側は数多く存在する情報の中から正確な情報を探し出すことと、その精度を見極めることが必要であろう。
奇しくも、本年10月から 「 米のトレーサビリティ 」 がスタートする。次回は、「 安全・安心 」 のための取り組みなどについて述べてみたいと思う。