宮城大学は、食材の生産から消費、さらには循環・リサイクルを含む一連の産業を「食産業」と捉え、そのフィールドで活躍すべくスペシャリストの養成を目指し、食産業学部を設置している。生産段階を学ぶ「ファームビジネス学科」、食材の加工・流通・消費を学ぶ「フードビジネス学科」、エコロジーやリサイクルを学ぶ「環境システム学科」。同学部の特徴は、文理融合教育。いわゆる文系科目と理系科目を垣根なく学べるカリキュラムにある。飲食ビジネスの将来を担う人材を養成する同校の取組を食産業学部副学部長の富樫千之教授に話を伺った。
「 食産業 」 の中で、「 農業 」 は食材生産という大きな役割を果たしてきました。しかし、消費者の食生活が変化するとともに、健康への意識が高まっている昨今は、より消費者ニーズに対応した食材の生産が求められているのです。
これに応えるには、良質で安全・安心な食材を生産できる生命科学の知識や技術、環境に配慮した生産技術、消費者動向を的確に捉えられるビジネスセンスなどが必要です。これらのことから 「 ファームビジネス学科 」 では生命科学とマーケットのわかる人材の育成を目指しています。具体的には、植物や動物の生命科学について基礎から応用まで幅広く学ぶことになります。そして、環境保護やエネルギー循環を考えた、農業・園芸・畜産の高度な生産技術や経営方式を追求します。さらには、最先端のバイオテクノロジーを駆使した新しい食材の開発にも取り組みます。それにより、農業生産から食材の加工・流通、アグリビジネスにいたる様々な問題を体系的に認識し、その解決に挑み、社会に向けて情報を発信できる人材を育成して行きたいと考えています。
今年3月の卒業生の進路は、林牧場や農協などの農林水産業や森永乳業などの製造業など学んだことを活かせる企業に多く就職しています。
輸入食品の増加、食品表示の偽造、BSEや生肉の問題など、食に関して様々な問題が発生しています。食品素材を供給する国内外の生産現場、加工、流通、消費される過程で発生している様々な課題を知り、技術とビジネスの両面からその解決のためのスキルや知識を身に付けることが重要なテーマとなっています。「 フードビジネス学科 」 では、文理融合の考えに基づいて、食品化学、食品加工学、食品の栄養や機能に関する理系科目の習得と同時に、食品の経済学や経営学、事業戦略、マーケティング等の文系科目の習得を目指した総合的な教育を行っています。理系に行けばマーケットのわかる技術者、文系に進めば技術のわかるマーケターを育成して行きたいと考えています。社会に出れば、理系も文系も関係がなくなります。理系、文系の枠を超えて、お互いの気持ちや業務を分かり合えて仕事を遂行していける人材を育て、輩出して行きたいと考えています。
今年3月の卒業生の進路は、赤城乳業や味の素ベーカリーなどの製造業が多いのですが、プロントコーポレーションなどの外食企業にも就職しています。
21世紀は 「 自然との共生 」 が大切になりますので、食の生産現場ではエコロジー(人間と自然・生物との共存)を重視した環境整備が求められています。一方、食品の生産・製造から流通・消費までの現場ではゼロミッション(廃棄物を極限まで抑えた生産)や食品廃棄物の低減化、さらにはその活用法なども求められています。「 環境システム学科 」 では、「 食 」 を支える生産基盤や、生活環境の整備のあり方、食品廃棄物のリサイクルなどの対応を学び、食産業を支え地域環境づくりに貢献できる人材の育成を目指しています。
ご承知の通り日本の食料自給率は先進国中最も低く40%を切っています。飼料穀物はほとんど輸入に頼っている状況にもかかわらず、食品の製造業や外食産業からは残渣が多く排出され償却されているのが実態です。食のリサイクルの観点から、この食品残渣をエコフィード、つまりリサイクル飼料として再生したり、バイオマスエネルギーとして再生したりすることが求められています。この様な研究を行うことで日本の食産業に活かして行きたいと考えているのです。
今年3月の卒業生の進路は、宮城県、福島市や東北農政局などの公務員、迫川上流土地改良区などの団体、JR東日本都市開発などの不動産関連などやはり学んだことを活かせるところに就職しています。
公立大学法人 宮城大学 食産業学部
太白キャンパス 宮城県仙台市太白区旗立二丁目2番1号
1997(平成9)年4月 県立宮城大学開校
2005(平成17)年4月 食産業学部設置
2009(平成21)年4月 公立大学法人宮城大学設立、法人化
食産業学部概要 『環境の時代21世紀に、”食” と ”農” の未来を開拓するスペシャリストを養成』健康や暮らしに直結し、生活の基盤である“食”に関する内容を幅広く学習。具体的にはバイオのような先進技術とフードビジネスの融合、“食”に関する付加価値の創造、地域に密着した新産業創造、などの能力に長けた人材の育成を目指す。