外食ドットビズの創刊1周年記念と致しまして、「ステーキ&カレー ふらんす亭」の創業者である松尾満治氏にご登場いただきます。松尾氏は、1978年(昭和53年)に東京・下北沢で起業し、その後30年間にわたり外食業界の最前線で活躍されました。その経験をもとに、現在の業界にある問題点を指摘していただくとともに、活性化へのヒントについてお話をいただきました。
また、今年の6月から外食独立希望者と現役店長向けにこれまでになかった実践的な塾 (2講座×10日)を開く予定で、現在受講希望者を受付ています。『松尾本気塾』の詳しい内容はこちら
さて二つ目の問題点ですが、これはすでに皆さんがよくご存知のことです。そう、人です。業界が不振を脱出するために必要な、最前線に立つ人の数と力が不足していると思います。勿論これは外食だけの問題ではなく、日本の産業全体の問題ですが、不振を立て直す時には、この業界もより多くの人の力が不可欠であることは事実です。問題意識はあってもどうやって数と力を増やしていくか、残念ながらその方法論が的確に掴めていない。これこそ実は二つ目の問題点なんです。
先ず数の話からします。私にはひとつの鉄則があります。それは、「集めたかったらまず穴を掘れ」ということです。例えば、ぬかるんだ運動場で水を集めるとき、いきなりトンボで表面をさらっても、その時だけ水は集ま りますが、すぐに散っていきますよね。
確実に集めるには、時間はかか るけど 、先ず集めたい場所に穴を掘り、そこから放射状に小さな溝を何本か掘ってやれば いいのです。そうすれば 必死に集める努力をしなくても、じわじわと継続的に水 が 集まって 来るじゃないですか 。 もしも 急ぎたければ、そのとき初めて掘った穴に向かってトンボでかき集めればいいのです。 ようするに、より多くの従業員、広い意味では業界人を集めようと思うならば、外食で働く人たちにとってこの業界が価値のある場所(穴を掘った場所)にすることから始めるべきなのです。穴を掘る前に多額のお金を使って繰り返し人材を集めても、この業界が他の業界に比べ人生をかけるのに相応しくない業界だと、集めた水がすぐ散っていくように、人材も散っていっちゃい ます。結果的に慢性的な人材不足は続き、当然優秀な人材も生まれにくくなって しまい ます。
では、外食で働く人にとって、現在の業界の状況はどうでしょうか? 昼と夜の間が7時間位ある以上、就労時間はどうしても長くなってしまい ます。従って、賃金も時間給に換算すると 他業界に比べても 少ない方でしょう。仮にひと月100万円の利益を上げる店長がいたとします。規模にもよりますが一般的に言えば十分利益を生んでいる店長です。おそらくプロ 野球の世界で言えば3割バッターに匹敵します。でもこの人たちが年収で1000万円を超える事はあまりありません。業界最前線のエースでありながら、年俸1000万円を超え難いのであれば、他の業界に目が向いてしまうのは仕方がありませんよね 。更に、年齢が上がり体力が落ちてくると、現場での仕事は限られてきてしまいます。
これらの解決策は、社員に早期に力をつけさせた上で、業界の参入障壁が低いという利点を活かし、企業内独立支援制度により、どんどん稼げるチャンスを与えることなのです。
また、長時間労働問題の解決策では、例えば就労時間が8時間を超える超過時間分を正規就労時間として加給するのではなく、その超過時間分を10ヶ月分ぐらい貯めて、その分を休暇に振り分けると、すばらしい制度が作れますよね 。
どういう事かと言うと、一日2時間つまり一週間で10時間の超過時間を貯めると10ヶ月で約400時間分も貯まることになるじゃないですか 。その時間を休暇に使えれば、週に2回の休みとは別に2ヶ月位の長期休暇が取れる計算になりますよね。お金より時間が欲しい人達にとってその時間を長期旅行や勉強に当てることができますし、その間にアルバイトなどができれ ば実質年収が上がったり、他の職場を体験できたりするわけです。
これは、一日あたりの就業時間が長い業界だからこそできるのです。他の業界では考えられないような大変魅力のある業界になると思いませんか? この場合、企業側はそれを支える「現場の生産性向上」という知恵を絞る必要が生じますが、人材不足で悩み続けるより改善テーマが明確になる分取り組みやすくなりますし、働く側も自分の長期休暇のために日々の生産性を上げる努力をするわけですから、やりがいが出ますよね。
社員を1日当たり2シフトより1シフトにする方が人件費は下がりますし、本来企業側は残業分の割増賃金を支払うのですから、その費用で休暇中の補足要員を使ったとしても、割り増し分が削減になるはずです。しかし残念な事に、現行法ではこの方法は認められていません。何とか法改正を考えていただきたいものです。
資本家搾取といわれた戦後間もない時代にできた現行法は、これだけ社会背景が変化したのですから、是が非でも改正をすべきだと思います。
他にも日本式チップ制だとか、実践的能力別の厳正な資格制度とか、まだまだ知恵を絞れば、働く人にとって夢、誇り、お金、時間等、外食人だからこそ享受できるものがたくさん出てきます。他にはない魅力の創造こそ人を集める最大のコツなのです。ちなみにお客様を集めるための原則もこれと全く同じです。
「お金をかけていたずらに販促を行う前に、先ずお店に価値という穴を掘るべきだ。」
と付け加えておきます。
次回は人材の育成についてお話したいと思います。
松尾 満治
九州・佐世保の高級レストラン「ふらんす亭」にて 1年間見習いを経験した後、26歳のときに東京・下北沢のビル地下1階に10坪の「ふらんす亭」を創業。20年後の平成12年にフランチャイズ化して、「ふらんす亭」の他に居酒屋、イタリアン、ラーメン、カフェなどの業態で直営店75店舗・FC100店舗を展開(2006年8月時点)。外食に従事して30年を期に「ふらんす亭」を譲渡、外食で夢を追う人を対象とした「松尾本気塾」を今年6月から開催する。また、「ふらんす亭」を運営する株式会社フードデザインの顧問として、社員研修に携わっている。
◎松尾本気塾 準備室 03-5378-2480
※松尾氏には、4時間にも及ぶロングインタビューにご対応いただき、起業を志した少年時代、修業時代、1号店の初期など数多くの貴重なお話もいただきました。その内容は、後日、起業のすゝめの中で、改めて紹介をさせていただく予定です。