飲食業経営のためのネット講座“労務管理者”必見!日本の社会保険制度を知る! ~飲食企業に重くのしかかる社会保険 -Vol.1 労災編-

飲食業経営のためのネット講座 労務管理者必見 日本の社会保険制度を知る 飲食企業に重くのしかかる社会保険 Vol.1 労災編

外食ドットビズ2周年記念特集の一環として、飲食業の労務管理に関わる問題を株式会社リーガル・リテラシーの黒部社長のインタビュー記事として掲載させていただいた。飲食に携わる、特に経営者の方にとっては、関心の高い問題のようで多くの反響を頂戴した。
巷でも、年金問題、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)など社会保険にかかわる話題に事欠かない。そこで、外食ドットビズでは、再度黒部社長のご協力のもと飲食業における社会保険について講義形式で掲載させていただく。

第5回 経営者の方が注意しなければいけないことを学びましょう

第5回 経営者の方が注意しなければいけないことを学びましょう

登場人物
黒部善得社長
講師:黒部善得社長
坂尻高志
できの良い生徒:坂尻高志
前城幸代
できの悪い生徒:前城幸代

飲食企業の為の社会保険講座 Vol.1 労務管理者必見 日本の社会保険制度を知る 飲食企業に重くのしかかる社会保険 労災編【黒部社長】 さて、今までは、どちらかというと従業員の方々にスポットライトをあててみてきましたが、起業を考えられている方もいらっしゃるでしょうから、経営者に視点を向けてみましょう。

前城さんが飲食店を始めることにしました。成功のためにはこの業界の事をよく知っている人を雇いたいと思いましたが、最初から社員を雇うほどの余力はありません。そこで坂尻さんをアルバイトとして雇う事にしました。この場合、最初から労災保険に加入する必要があるでしょうか。

【前城】 労災には、正社員もアルバイトも関係ないので、労災に加入する必要があると思いま~す。

【坂尻】 おっ。わかってきたじゃない。

【前城】 あったり前じゃないですか!勘ですけど・・・

【坂尻】 ・・・。やっぱり・・・

【黒部社長】 その通り、加入の必要がありますね。原則として、労働者を一人でも使用する事業は、労災保険の強制適用事業とされます。事業所を設立してから、 50日以内に労働基準監督署に申請を行わなければいけませんので、気をつけてください。しかも、保険料は、全額事業者負担となります。

飲食企業の為の社会保険講座 Vol.1 労務管理者必見 日本の社会保険制度を知る 飲食企業に重くのしかかる社会保険 労災編では、坂尻さんが飲食店を始めることにしました。資金に余裕があるので、前城さんを正社員として雇う事にしました。しかも、「 君は非常に優秀だから専務取締役として迎えよう 」 と言ってくれました。しかし、開店3日目に、油で汚れた床で足を滑らせて転んでしまいました。しかも運が悪い事に運動音痴の前城さんは手のつき方が悪く右腕を折ってしまい、3ヶ月間働けなくなってしまいました。

さて、この場合どうなるのでしょうか。

【前城】 開店3日目ということは、仮に労災保険の申請をまだしていなくても50日以内だから労災の適用になりますよね。じゃ、労災保険を使えば良いのではないですか。

【黒部社長】 残念ですが、労災は適用できないのですよ。前城専務。

飲食企業の為の社会保険講座 Vol.1 労務管理者必見 日本の社会保険制度を知る 飲食企業に重くのしかかる社会保険 労災編【前城】 な、何でなんですか

【黒部社長】 労災保険というのは、あくまでも労働者のための保険なのですよ。役員は、労働者ではないのです。労働者は、会社と雇用契約を結びますが、役員は雇用契約では無く、委任契約になるのです。

だから、この場合、前城 “専務” は、病院に行っても保険が利かないどころか、3ヶ月無給になってしまうのです。坂尻さんの甘い一言に乗ってしまった結果ですね(笑)。

【前城】 坂尻さんって、ひどいっ!乙女の心を弄ぶなんって!もしかしたらそんな人じゃないかって思っていたけど・・・。

【坂尻】 おいおい。架空の話でそこまで言うか?しかも、ドサクサに紛れて “乙女” だなんて。ところで、黒部さん。前々から気になっていたんだけど、この場合、仕事中の事故だから当然健康保険も使えないですよね。じゃあどうしたらいいのですか。

【黒部社長】 これが、“ 医療保険の空白ゾーン ” と言われているところですね。労災も使えなければ、健康保険も使えない。例えば、自宅から職場に向う途中で事故に遭って怪我をしてしまった場合にも労災は適用されません。そもそも役員には通勤という概念が無いのです。それだけではなく勤務時間という概念もありません。

坂尻さんの質問に対する答えですが、労災には特別加入制度というものがあります。これに入っていれば、役員でも労災保険を使う事ができます。それ以外には民間の役員向け保険などに入る必要があるでしょう。

飲食企業の為の社会保険講座 Vol.1 労務管理者必見 日本の社会保険制度を知る 飲食企業に重くのしかかる社会保険 労災編【坂尻】 飲食業の場合、役員といえども店のサポートに行ったり、テストキッチンの厨房に入ったりすることが多々ありますよね。“ 医療保険の空白ゾーン ” があるのであれば、よくよく気をつけないといけないと言うことですね。

【黒部社長】 その通りですね。労災保険は、飲食業にとって非常に身近な存在なのですが、結構知られていない事が多いですからね。

【坂尻】 わかったかい?前城君

【前城】 よーく、わかりました。坂尻さんの会社に入っちゃいけないということが…。

【坂尻】 ・・・。そういうことじゃなく・・・。

【黒部社長】 まぁまぁ、お二人とも。次回は、そろそろまとめに入りたいと思います…

本日の講義のポイント-本日の講義のポイント-

  1. 労災保険の保険料は、全額事業者負担である。
  2. 原則として役員には労災保険は適用されない。
  3. 役員には、労災保険も健康保険も適用されない“医療保険の空白ゾーン”がある。
  4. 役員向けには、労災の特別加入制度か民間保険の役員向け保険がある。

◎ 原則として労働者が一人でもいると労災保険に加入する義務がある!



黒部 得善

黒部 得善

http://www.ll-inc.co.jp/

株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。

株式会社リーガル・リテラシー 沿革

2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資

文: 齋藤栄紀

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