外食ドットビズ2周年記念特集の一環として、飲食業の労務管理に関わる問題を株式会社リーガル・リテラシーの黒部社長のインタビュー記事として掲載させていただいた。飲食に携わる、特に経営者の方にとっては、関心の高い問題のようで多くの反響を頂戴した。
巷でも、年金問題、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)など社会保険にかかわる話題に事欠かない。そこで、外食ドットビズでは、再度黒部社長のご協力のもと飲食業における社会保険について講義形式で掲載させていただく。
【黒部社長】 前回、「 業務上の事由又は通勤上の傷病には、労災保険が適用される 」 と言いましたけど、例えば、会社に届け出た経路と違う経路で帰った時に事故にあった時には労災が適用されるか、されないかわかりますか?
【前城】 今回は簡単な質問ですね。もちろん駄目に決まっていますっ。
【黒部社長】 そうとも一概には言えないんです(笑)。労災が適用されないと思われている方が多いのですが、法的には “ 合理的な経路 および方法 ” であれば問題ないのです。例えば、帰宅途中にちょっと遠回りして、コンビニに寄って夜ご飯や日用品を帰っても “ 合理的な経路 ” とみなされるんです。
【前城】> えっ、そうなんですか?じゃあ、今日の帰りに経路の途中に当たる渋谷で坂尻君とデートして帰っても、万が一の場合には労災が適用されるのですね。
【坂尻】 誰が、“ くん ” だいっ。俺は50男だぞっ!
【黒部社長】 残念ながら、合理的な経路とはみなされないですね。まず、時間的に 40分の経路にもかかわらず、2時間かかってしまいました。というのは合理的とはいえないですね。
【前城】 坂尻さんとなら 2時間はかからないですよね?
【坂尻】 ・・・ 。
【黒部社長】 時間だけじゃなく、デートや飲み会や友人宅に立ち寄るなどの場合には合理的とみなされないのです。この場合 “ 通勤の中断または逸脱 ” といわれ、これ以降の事故については労災の対象にならないのです。わかりましたか前城さん。
【前城】 そうだと思ってました
【坂尻】 じゃあ、聞くなよ!
【黒部社長】 もう一つ問題ですが、通勤の途中に子供を保育園に送ってから会社に行きました。この場合はどうなると思いますか?
【前城】 子供の送り迎えなら合理的な経路とみなされて、労災の対象になるんじゃないですか?私、子供が好きですし、女性の立場からもちゃんと考えていただきたいところですよね。
【黒部社長】 子供が好きかどうかは別として・・・ (苦笑)。保育園に預けることに合理性があれば、労災となります。ここでいう、合理性とは、送っている父親(母親)が送っていかなければならない合理性および保育園に預ける合理性が求められます。では、最初の問題の類題です。会社ではバイクの通勤を禁じていましたが、バイクでの通勤中に事故を起こして怪我をしてしまいました。この場合は労災の対象になるでしょうか?
【前城】 もうだまされませんよ!労災の対象になります(小声)。
【坂尻】 いきなり弱気になるなよ。それにこれはクイズじゃないんだぞ。授業なんだから、けんか腰になるなよ。
【前城】 ・・・
【黒部社長】 でも正解です。労災の対象になります。もちろんバイクの経路が合理的であることが前提ですけど。それに、バイクで来る方が早く来られるとか、夜遅くなっても電車の事を考えなくてもいいからとか、会社がいくら駄目と言っても、いくらでも合理性を作る事ができます。
会社の規程というのは、あくまでもその会社のルールであって、法律とは関係ないのです。会社の規定違反は、会社で処罰すればいいのです。もちろん悪質な問題であれば懲戒解雇も可能になることもあります。
「 電車での交通費をもらいながら、バイクで事故を起こしたのだから労災の申請はしない 」 となると悪意は無くても労災隠しになってしまう場合がありますので、気をつけていただきたいと思います。
会社への申請と違う経路で通勤しましたという事は、あくまでも社内で処罰してください。
【黒部社長】 では、今回最後の質問です。先ほどの前城さんの質問に似ているのですが、通常業務が終わった後で、アルバイトだけでお酒を飲みながら打合せをしました。その帰宅途中に事故にあって怪我をしてしまいました。さて、労災の対象になるでしょうか、ならないでしょうか?
【前城】 いくら打ち合わせと言ってもお酒を飲みながらなら、労災の対象にならないと思いま~す
【黒部社長】 これが、実は労災の対象になるんですよ。だって、お酒を飲みながら打合せをしてはいけませんという法律は無いでしょ。あくまでも自分のお店での単なる飲み会ではないということが前提ですけれども。これもバイクの問題と同じで会社に規定があれば、会社で処罰する事ですね。
【黒部社長】 通勤災害の話は、ここまでにしましょう。最後にわかりやすく図示をして今回は終わりたいと思います。
【前城】 ・・・
-本日の講義のポイント-
◎ 飲食業の労務管理監督者は、労災と会社の規定は分けて考えるべし!
※今回取り上げられたものは事例であり、100%労災の対象となる事を保証するものではありません。実際発生した事故については、状況をよく把握し検証し読者様の責任で判断してください。
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀