以前掲載した労災に関する記事にも多くの反響を頂戴したが、飲食業の経営者の方々にとって法律上、特に労務管理に関わることは非常に関心の高い問題であることを痛感した。そこで今回は第2弾として、今年の4月1日に施行された改正労働基準法に関してまとめてみた。
改正労働基準法(以下、改正労基法)の正式名称は、「 労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号)」 である。この法律は、第170回国会において平成20(2008)年12月5日可決成立し、同12日に公布され、今年、平成22(2010)年4月1日に施行されたのである。
この法律の目的は、『 少子高齢化が進行し労働力人口が減少する中で、子育て世代の男性を中心に、長時間にわたり労働する労働者の割合が高い水準で推移していること等に対応し、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが重要な課題となっている。
今回の労基法の改正は、このような課題に対応するため、長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともに仕事と生活の調和がとれた社会を実現する観点から、労働時間に係る制度について見直しを行うもの (厚生労働省労働基準局長通達:基発第1212001号) 』である。
では、改正された内容について詳しくご説明しよう。
前回の講義で36協定について記述させていただいた。その中で「時間外労働の限度に関する基準」(平成10年労働省告示第154号) という言葉が出てきたことを覚えておられると思うが、今回この基準が改正された。
労使間で36協定を結ぶ際に、新たに以下の3点が必要となる。
(1)限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3ヶ月以内の期間、1年間)ごとに、割増賃金率を定めること
(2)(1)の率を、法廷割増賃金率(2割5分以上)を超える率とするように努めること
(3)そもそも延長ができる時間数を短くするよう努めること
過労死防止など健康な労働環境を確保のため、長時間に渡る時間外労働の抑制を図る必要がある。時間外労働というものは本来臨時的なものとして必要最小限にとどめられるべきものである。今回の改正ではその目的をより明確にするために、限度時間を超える時間外労働に係わる割増賃金率を引き上げること等により、限度時間を超える時間外労働を抑制することを目指しているのである。
(1)月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
改正前の労基法では、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)に対しては、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなかった。今回の改正では、この内1ヶ月に60時間を超える法定時間外労働に対しては、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなった。
例えば、1ヶ月に70時間の法定時間外労働の場合、60時間までは25%以上の率で計算した割増賃金、60時間を超えた10時間分が50%以上の率で計算した割増賃金となる。
ちなみに深夜(22:00~5:00)の時間帯に60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上の75%以上の割増賃金率となる。
(2)代替休暇
(1)の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができる。これは、法定時間外労働を行った労働者の健康を確保することを目的とした制度である。ただし、代替休暇制度導入にあたっては、使用者と過半数組合、それがない場合には過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要となる。
代替休暇の単位は、まとまった単位で休暇を与えることによって労働者の休息の機会を確保する観点から1日、半日、1日又は半日のいずれかによって与えることとされている。
また、代替休暇を与えることができる期間は、上記の通り労働者休息機会の確保が目的であるので、一定の近接した期間内に与える必要がある。具体的には、法定時間外労働が60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月間以内の期間となる。例えば、5月に68時間の時間外労働があった場合には、6月~7月に8時間分の代替休暇を取得できることになる。
(3)中小企業の猶予措置
「法定割増賃金率の引き上げ関係」については、中小企業には当分の間適用が猶予される。飲食業における中小企業の定義は、「資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下または常時使用する労働者数が50人以下」とされ、店舗単位ではなく企業単位とされている。ちなみに当分の間とは、法の施行3年経過後に改めて検討するとされている。
仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるように、使用者と過半数組合、それがない場合には過半数代表者との間で労使協定を結ぶことにより、年に5日間を限度として、時間単位(※) で年次有給休暇を付与できるようになった。
※ 分単位などの時間未満の単位は不可。1時間単位以外にも「2時間」「3時間」などの単位も可能であるが、1日の所定労働時間を上回ることはできない。
“ 法律 ” はその文言が日常的に使われるものでないため非常に難しく思われる方が少なくないであろう。しかし飲食業に関わらず企業を経営していくためには避けて通れないことともご理解いただきたい。
外食ドットビズでは、今後も労務関連の法律を中心に飲食企業に深く関わる法的な問題を取り上げて行きたいと考える。
文: 齋藤栄紀
(参考文献: 厚生労働省ホームページ )