2007年問題と言われた団塊世代の一斉退職、少子高齢化、フリーターの急増といった人手不足問題、更には「名ばかり管理職問題」と言われる日本マクドナルド社に対する訴訟と飲食企業の労務を取り巻く環境は厳しさを増している。
外食ドットビズでは、飲食企業を始めとした多店舗企業の労務に携わる、株式会社リーガルリテラシー社の黒部得善社長に登場いただき、労務問題の解決策を探って行く。
黒部さんの飲食業界に対する労務の仕事の取組み方、考え方をお聞かせ下さい
私はこの飲食業界のプロではありません。学生時代にちょこっとアルバイトをしたくらいです。だから、「 コンサルタントをやります 」 なんて口が裂けても言いません(笑)。しかし、” 労務屋 “ としてはプロです。では、この業界に対して何が出来るのか。労務の運用に対するサポートはできるのです。運用はあくまでもその会社しかできないからこそ、当社はサポートに徹するべきであるとの考えを持っています。どういうことかと申しますと、その会社の労務に関わる情報の取得、具体的には、日々のタイムカードの情報を毎週お借りします。その情報を分析した上で付加価値を付けた情報、現場で具体的に動けるような情報に変えて会社に返します。その付加価値の付いた情報をその会社の運用に活かしていただくということです。
なぜタイムカードをみるのですか?
タイムカードをリアルタイムに分析するサービス 「 ロームセキュリティ ™ 」 のきっかけは、過労自殺事件や過労死事件に対応していった事が大きなきっかけでした。一般的に、過労死や過労自殺と疑われる案件に対して対応をする時には、まず、その方のタイムカードを過去半年から1年遡って見ます。そして、その動きから、安全配慮上の問題をさがしだし、対応を検討します。
しかし、考えてみてください。亡くなられてからや病気になってからでは遅いのです。遡って見て問題点がわかるくらいであれば、それを、リアルタイム、毎週1回分析し、会社が常時把握し対応を取れるような情報を提供しようと思ったわけです。どのような視点でタイムカードをみるのですか?
アンチ”合計””平均”です。できる店長は、合計時間でその社員やアルバイトの仕事振りを判断するわけでなく、直感的にフォローするべき時を知っています。
人事部的なタイムカードの見方は合計時間や平均で見ますよね。つまり Aさんの労働時間は今月何時間だったから給与は○○円である、とか、Bさんの残業時間は今月60時間だった、などという様にです。
残業時間の60時間が多いか少ないかは別としても、1日2時間を30日連続で働いての60時間と1日10時間を6日連続で働いての60時間では現場での労務管理方法はまったく異なります。事象が連続発生する事により人間には負荷がかかる。だから残業時間抑制問題のだけではなく、精神的な健康状態を保つためには負荷がかからないようにしなくてはならない。そういったことを月単位ではなく週単位で、連続性という観点から個人個人を見ていく必要があると言う視点で見ています。
このような視点でみる分析手法 「 労務リスク検索エンジン 」 は、現在技術特許出願中です。特長は、今までは ” 合計 ” 時間からしか人の動きというものを把握できませんでしたが、個人ごとに身体的負荷や不平不満を生み出す働き方の ” 量 ” とその働き方の ” 連続性 ” を相関分析させることで、退職や労務問題となる可能性のある個々人を特定して抽出することが可能になりました。さらに、この分析結果を再集計することにより、店舗の労務管理の状況や人の効率活用まで ” 見える化 ” させることができるのです。
” ロームセキュリティ ” は過労死を防ぐための商品なのですか?
過労死防止は主目的ではありません。労務管理上で一番重要なことは、“ 必要な人材を辞めさせない事 ” と申しましたが、ロームセキュリティは ” 必要な人を辞めさせないため ” の仕組みなのです。
少し、考えてみてください。1年間に1社で発生する、「 過労死・過労自殺・メンタル不全者 」(=A) 「 労務訴訟・監督署垂れ込み 」(=B)の合計件数よりも 「 退職者 」(=C)の数のほうが圧倒的に多くないですか?
C>A+B というのが現状だと思います。AやBが発生しないためのリスクヘッジは退職者を減らすことはないけれど、退職者を減らすための方法はAやBへのリスクヘッジもかね合わせるのです。
具体的な流れをお話させていただきます。
実際の運用上は、いきなり店長などへの配信をおこなうのではなく、業態のトップとSVが現状を把握し、SVが店長をフォローする、という流れが現実的です。そのようなフォローを受けた店長が将来の店長候補をフォローし組織風土としていく、のが効果的な活用方法です。
ロームセキュリティは、各店舗の一人一人の動きを把握できることで、” 定着率の向上 ” ” コンプライアンスの遵守 ” ” 運営の効率化 ” を見える化する事ができるのです。
” ロームセキュリティ ” のアウトプットについて教えてください。
” 店舗カルテ “ は、店舗従業員の労働負荷傾向を把握する事によって、店舗運営の効率アップを目指します。例えば、誰にどの位依存しているのかが人目で見えます。新人に対する依存度が高くないか、高すぎると顧客サービスに問題が発生する可能性が大きくなりますよね。
“ コンプライアンス・ウォッチャー ” は、個人個人の労働時間を週単位で見ることにより、社会保険対策をする事ができます。一般的には月単位で労働時間を見ていると思いますが、これでは 「 あっ A君は社会保険適用者になっている 」 ということになりかねないのです。事前に状況が見えることで各人の労働時間に対するコントロールができます。社会保険適用者になると会社にとってもアルバイト・パートにとってもコストに跳ね返ってしますよね。これは、結果的にコストダウンをはかれる機能ですね。
“ リスクマップ ” は、身体的負荷の量と身体的負荷の連続性から店舗と個人の疲弊度を分析し、その結果を表示します。個人の疲弊は離職を生むリスクになり、個人の離職は店舗運営のリスクになります。この社員やアルバイトが優秀であればあるほど店舗運営上のリスクになります。労働時間が長い=離職、というわけではないのです。
また、” リスクマップSV ” は、名前の通り、SV向けのリスクマップです。これは疲弊度だけではなく、各店舗における各個人の動きを見ることができます。それによりSV業務にとって有益な情報源となりえます。
最後に、” リスクアラーム “ ですが、これは、身体的付加の量と身体的付加の連続性を具体的に見える化して、各個人が労働上抱える問題点、各個人に対して管理監督者が取るべき行動について明記します。これは労務上の課題を問題になる前に事前に把握、行動する事によってリスクヘッジする事を目的としています。
あと、最近ですと一言で人手不足と言っても、どのような人手不足の種類なのかを見る分析もおこなえるようになりました。まだ試験的ですけど。
” ロームセキュリティ ” の様々なアウトプットはどのようにうまれたのですか?
もともとは、パチンコ業界最大手の方からアイデアをもらいました。「 毎週タイムカードを見ているのならついでにこんな分析もできない? 」 といった感じです。最初にロームセキュリティを入れてくれたのがその最大手だったことがラッキーでした。システム的にも何万人単位、数百店舗単位の分析に耐えられる構造となりましたから。パチンコ業界は飲食業界以上に人の定着率が非常に低い業界なのです。パチンコをされている方はご存知だと思いますが、最近パチンコ店のイメージが昔と比べ大幅に変化しましたよね。イメージだけではなく CS(顧客満足)にも力を入れないと生き残れないのです。CS向上のためにはサービスが必要である。高品質なサービスを提供するには人材の定着が必要であるというところから様々な視点の分析帳票が生まれたのです。
これらのシステムはすべて社内で開発したもので、結果、いつでもどんな分析を追加することも可能な体制となっています。帳票はあくまでも見せ方で、現場で活かせるデータに直す、というのがいつでも可能です。
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀 写真:トヨサキジュン