2007年問題と言われた団塊世代の一斉退職、少子高齢化、フリーターの急増といった人手不足問題、更には「名ばかり管理職問題」と言われる日本マクドナルド社に対する訴訟と飲食企業の労務を取り巻く環境は厳しさを増している。
外食ドットビズでは、飲食企業を始めとした多店舗企業の労務に携わる、株式会社リーガルリテラシー社の黒部得善社長に登場いただき、労務問題の解決策を探って行く。
前回、労務問題の際に ” 証拠 ” が重要と言われていましたが、どういうことですか?
法律の難しいところは、一つの条文でも解釈が色々と出来てしまうのです。刑法なら 「 人を殺してはいけません 」 とパシッと決められる事があります。違法か適法かの考えです。しかし、労働法では有効か無効か、という考えも多く使われます。有効無効の判断の裏づけとなるのが証拠なのです。特に労務管理を運用するにあたって、多くの会社が持っている労務管理の方法は、何を持って証拠とするのかということが完全に欠けていると思うのです。
典型的な例を挙げると 「 就業規則にはこう書いてあります。だからあなたは悪いのです。 」 というようなことをよく言いますよね。あるいは、「 貴社の労務管理は大丈夫ですか? 」 と聞くと 「 当社は大丈夫です。就業規則がありますから。 」 といった話を良くお聞きしますが、それだけじゃ弱いんですね。
更に 「 その就業規則を運用した事実はどこにあるのですか?労務管理をしたという証拠はどこにあるのですか? 」 との問いに対しては 「 紙に書いてあるものを渡してあります。それが証拠です。 」 というような回答が多いのですが、そんなのは証拠にはならないのです。事実、裁判例上そういったことが否定されているケースが多々あるのです。逆に就業規則がなくても、整備されていなくても、勝つ場合もあるのです。
就業規則に関わらず、企業における労務管理に関する裁判例を 「 会社に喧嘩を売った社員たち 」 というタイトルで無料のメールマガジンを発行していますので、是非ご覧になってください。3年連続マグマグ大賞にノミネートされたマグマグ殿堂入りメルマガです。
一般的な外食企業における就業規則の問題点は何でしょうか?
一つ言えるのは、就業規則に書いてある事の半分近く、へたをすれば半分以上が労基法に書いてある事と全く同じ事が書いてあることですね。もちろん、法的には全く問題ないのですが、何のための就業規則かという事が理解されていないと思うのですね。
「 何のための就業規則か? 」 一般的には 「 法律で決まっているから 」 とか 「 会社のリスクヘッジのため 」 と答えが返ってくると思いますが、何のリスクからヘッジされたいのかが不明確なのです。就業規則を定める事が法律で決められているからとか、就業規則があれば社員が皆守るであろうとか、万が一社員から訴えられた場合に就業規則が盾になるからなど、監督署の方を見ているだけに思えてなりません。
就業規則というものは、社員がきっちりと理解できていないと守る事が出来ませんし、理解されていない事を運用できています、というのも詭弁にしか聞こえません。労務管理は現場でおこなわれているのであり、机の上でおこなわれるものではないのです。運用している事を証明しないと訴えられた時にも勝てないのです。
では、どうしたらよろしいのでしょうか?
労務管理上のステークホルダー ( 企業の利害関係者 ) は誰なのかをきちっと認識する事ですね。それは、上司や部下や就職希望者、社員の家族、お客さまや仕入れ業者。会社にとってのステークホルダーはとても多くあります。その中から 「 なぜ会社がそのルールを守らせなくてはならないのか 」 を理解させる伝え方が必要となります。だったら監督署に伝えるという考えだけではなく、社員の方に伝わる方法を考えながら就業規則も作りましょうよ、と私は言いたいです。
そういう考えから、雇用契約書作成のための契約書ナビと同じように就業規則作成のためのワーキングナビというものを生み出したのです。
社員に目を向けた就業規則があれば、労務管理上万全となりますね。
それと、実際に運用する。運用したということが証明できるようにする事が必要なのです。その為には、管理監督者である上司、飲食店舗の場合は店長にあたります、が日々労務管理を行う事が必要なのです。急に人が辞めてしまうとか、解雇にあたるような金銭上の問題が起こるとかなどの労務問題というのは、実はいきなり発生することは少ないのですよ。その前には予兆というものが必ずあるのです。社員が発している SOSや危険を知らせる情報ですね。この情報を取る事、感じる事が労務管理なのです。こういった情報は五感だけではなく、具体的なデータとしても取得する事が出来ます。しかも、タイムカードを見るだけでわかります。それに関しましては次回ご紹介したいと思います。
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀 写真:トヨサキジュン