2007年問題と言われた団塊世代の一斉退職、少子高齢化、フリーターの急増といった人手不足問題、更には「名ばかり管理職問題」と言われる日本マクドナルド社に対する訴訟と飲食企業の労務を取り巻く環境は厳しさを増している。
外食ドットビズでは、飲食企業を始めとした多店舗企業の労務に携わる、株式会社リーガルリテラシー社の黒部得善社長に登場いただき、労務問題の解決策を探って行く。
労務管理で一番大切なことは何ですか?
最初にも申上げましたが、労務管理とは、労務上の問題が起こってから対処するのではなく、問題が起こる前に未然に防ぐ事です。そして、労務問題を未然に防ぐために一番重要なことは、必要な人が辞めない事です。もちろん、終身雇用を制度として持つ必要は無いですけど、結果的に生まれる終身雇用というのが、必要な人が辞めないということなのです。そして、必要な人が辞めないようにするには、日々発生している情報を掴んだり、感じたりする事です。それによりコミュニケーションが取れ、人間関係も円滑になっていくからです。
飲食企業など多店舗企業を考える時にまず何が大切かというと、入口を管理することなのです。入口で人が入ってこない、入ってきてもすぐ辞めてしまうということを何とかしなくてはならない。そして、どうやったら気持ちよく入口を越えてくれるのかというところに注力する必要があるのです。要は、相手に選んでもらえるということが必要なのです。結構、人を選ぶという目線に立ちすぎている事が多いですよね。
それとパート・アルバイト比率の高いのがこの業界の特徴ですが、これを逆手にとってパート・アルバイトを一つの擬似労働市場と見立てることが重要です。というのは、リクナビに正社員募集とぽんと載せても、残念ながら他の業界と比べると見劣りしてしまうのですよ。お金にしても、勤務条件にしても。だから正社員を取りづらいのです。でも発想を変えて自社 (店舗)内を見渡してみるとアルバイトが沢山いますよね。自社(店舗)に大きな労働市場を抱えているわけですよ。この中から正社員を登用していくという考えは重要なのです。もちろん中には、「 自社社員登用制度はあります 」 と言う企業はあるでしょうけど、制度を持っているだけじゃ受身なんですよね。制度だけではなく、どうやったら必要な人材を、一本釣りを確実にできるのか、その方法を考えなくてはいけないのです。
入口の管理や人材の登用のために必要な事は何なのですか?
間違いなく面接でしょうね。面接といってもただ単に面談するということではなく、相手を気持ち良くさせる、その結果定着率を上げる事まで考えないといけないのです。要は一方的な質問に終始したり、ありきたりな答えに満足したりすることではなく、ちゃんとコミュニケーションを取る。しかも、面接者は良き聞き手となり、相手に気持ち良く語ってもらうようにすることが肝要なのです。
そのためのツールの一つが “ 面接キット ” なのですね。
そうです。面接の仕方を変えるだけで定着率は格段と上がるのです。それも熱心に聴いてあげるだけで良いのです。この熱心に聴いてあげるためのサポートツールが面接キットなのです。
今は、面接キットというネーミングになっていますが、元々は単なる個性診断テストだったのです。組織診断をやっている会社の協力を得て、開発をしました。なぜこのようなものを開発したかというと、労務トラブルっていうのは、法律に違反したから即トラブルになるわけではないんです。人間関係上の感情のもつれがきっかけになっていることが圧倒的に多いのです。それならば、労務管理的に見て、コミュニケーションを取れるような、いらぬ感情的トラブルを発生させない診断結果がでるようなものを作ろうと思い立ち個性診断テストを作ったのです。
でも、これが売れなかった(笑)、全く売れなかった(笑)。個性診断テストならWEB上において置けば勝手に売れるだろうと思っていたのです。当社が発行している 「 会社にケンカを売った社員たち 」 というマグマグ殿堂入りメルマガの発行部数は6,500部程なのですが、そのうち3%の方に使っていただけたら開発費がペイできると目論んでいたのですが、全くの目論見違いでしたね(笑)。こりゃあ失敗だわと思って一時ほったらかしにしていたんですよ(笑)。
多店舗企業の方との関わりが増えてきた頃、サッポロビール(株)フードビジネスサポート部の社員から、「 これを紙に落とす事が出来る? 」 と聞かれたんですよ。何故かなと思って聞いたら 「 これって質問の宝庫だよね。面接の時に使えるじゃない」と言われたんですよ。なるほどと思いましたね。実際に飲食業などの面接では、「 いつ来れるの?来れないの? 」 などという一方的な質問とか 「 将来はどうしたいと考えているの? 」 などといった漠然とした質問を投げるだけの事が多いじゃないですか。相手の話を聞くための情報がまだ無いので仕方がないといえば仕方が無いのですが。あまりに面接者が一方的にどんどんと強く語ることが多くなってしまうのが現実なのです。
例えば 「 いつの間にか人の輪の中心的存在になっている 」 と言う設問に対して 「 はい 」 と答えた人には、「 へー、そうなんだ。例えばどんな時? 」 とか何か話せますよね。こうやって聞き上手になって行けば、この人となら上手くやっていけそうだ、この人と一緒に働きたいと思わせる事が出来る。そこが重要な事なんですよね。自分の話をじっくりと真剣に聞いてくれたら、その人の事を好きになりますからね。
更に、WEBに回答を入力すると診断結果がでますので、その場でも、一緒に働くようになった時でも、自分の診断結果と見比べながら 「 僕のはこうだけど、君のはこうだね 」 などとコミュニケーションが図れるようになるじゃないですか。
正直、瓢箪から駒が出たようなサービスですけれども(笑)。
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀 写真:トヨサキジュン