飲食業界は本当に人手不足なのか?! ~飲食企業の人事・労務問題を斬る!~

飲食業界は本当に人手不足なのか?! 飲食企業の人事・労務問題を斬る!

2007年問題と言われた団塊世代の一斉退職、少子高齢化、フリーターの急増といった人手不足問題、更には「名ばかり管理職問題」と言われる日本マクドナルド社に対する訴訟と飲食企業の労務を取り巻く環境は厳しさを増している。
外食ドットビズでは、飲食企業を始めとした多店舗企業の労務に携わる、株式会社リーガルリテラシー社の黒部得善社長に登場いただき、労務問題の解決策を探って行く。

第2回 「名ばかり管理職問題」訴訟の問題点

第2回 「名ばかり管理職問題」訴訟の問題点

最近の多店舗企業における一番インパクトがある出来事は、日本マクドナルド社の ” 名ばかり管理職問題 ” ですが、これに対する考えを聞かせてください。

まず始めに申上げておきますが、私は経営者の味方でも社員の味方でもありません(笑)。私が会社を興す時に周りの方から 「 黒部はどちらの味方の会社をやるんだ? 」 と聞かれたのですが、「 私は常に会社の味方でいたい。 」 と申上げました。私の考えでは、会社が良くなれば、経営者も社員もどちらもハッピーになれる。そして、会社の発展をうみだし、会社が、社会の公器として、たくさんの雇用の場となる、と考えています。経営者にとって良い答えを作るとなると経営者に子飼いにされるだけですし、かといって労働組合的な発想と言うのも嫌いなんですよ(笑)。どちらにとって良い答え悪い答え、という考え方ではなく、納得のいく答え、というものづくりに貢献したいです。

飲食業界は本当に人手不足なのか 飲食企業の人事・労務問題を斬る さて、本題に入りますと ” 名ばかり管理職問題 ” の争点は、店長は管理監督者に当たるかと言う事でした。つまり管理監督者の職制である ”経営の参画度合い” ”アルバイトの採用権限や出退勤時間の自由度” ”独自メニューの展開権限” そして ”給与面” など総合的に見て管理監督者として認められるかと言う事でした。私は、違った争点で争えば違った結果になった可能性があると思っています。それは何かと申上げますと労務管理の中で一番重要な事のひとつに契約の解除があるかということです。多店舗展開をしている飲食業の中で日常的に起きている典型的な問題として、退職勧奨するとか、「明日から来なくていいよ」などと現実的な解雇を行っている事実が見受けられます。解雇と言うのは人に関わる重大な契約解除の行為ですからね。管理職云々よりも、労働基準法でいう 『 使用者 』 としての行為を決断している、と思うのです。人に関わる契約の解除を独断で決められる者が経営に参画していないとは言えないですし、大きな権限を持っていると言えます。その実態を徹底的に調査して行ったらまた違った結果が生まれた可能性は否定できないと思います。やはり、多店舗展開の店舗とは、どのような制度を作っても、現場で実行される労務は一筋縄ではいかない、そのように思います。

解雇の権限は採用の権限より大きいと言う事ですね。

飲食業界は本当に人手不足なのか 飲食企業の人事・労務問題を斬るその通りです。契約を解除すると言う事ですから。採用というのは契約締結前の行為ですからまだ労働者には当たらない、つまり、原則的には、労働基準法(労基法 )の制限がかかる前なんですね。解雇と言うのは労働者に対して行う事なんです。労働者と言うのは、雇い主から指揮命令を受けるから労働者と言うのです。労働契約と言うものは、単純に言ってしまえば、雇い主が指揮命令する権利を買って、その対価として労働者にお金(賃金)を払うという部分がありますね。

もちろん、面接から採用決定までの期間でも、人種や性別による差別をしてはいけない、などの規制はあります。でも採用は雇う側にも自由があると共に、雇われる側にも自由と言うものがあります。

労基法が定めているのは労働開始後とまり雇用契約締結後の最低基準ですから、やはり採用より解雇の方が管理監督者の権限としては大きいと言わざるを得ません。

現場で採用しているからと言って、管理監督者とはいえないのですか?

飲食業界は本当に人手不足なのか 飲食企業の人事・労務問題を斬る それも一概には言えないのですよ。例えば、会社のスタンスとして、最初にアルバイトとして雇い、その人を社員にして行こうという考えが仮にあるとすると、つまりアルバイトは社員予備軍だというスタンスで採用するとしたら、採用の位置付けのウェイトは当然高くなります。将来の幹部を見つける、そういう決定権限まで持って採用するとなったら会社に与えていく影響が大きくなってきますので、やはり管理監督者としての権限とみなされるでしょうね。ただし、実際のところ、「 シフト上の人がたらないからとにかく人を店舗で雇う 」 という考えですと、採用が管理監督者としての行為とはいえないでしょう。

管理監督者というものの判断は非常に難しいということですね?

そうなのです。 “ これが管理監督者である ” という判断は一概には出来ないのです。そうすると、一概に出来ない中でどうするかというと、やはり 「 こういった業務をやっているから管理監督者ですよね 」 という確認を監督署に出す事になると思います。リスクが大きくなる事を考えたら、この運営は正しいですかという確認を取る事になると思います。

ただ、ここに大きな落し穴があります。要は監督署の言う事が全て正しいか?ということです。ご承知のように日本は司法・行政・立法という三権分立が確立した国家です。つまり、法律上の判断は司法がするもので、行政機関である監督署が「いいですよ」と言っても法律上正しい事にならないからです。例えば、この近年で過労死を監督署が広く認定するようになったわけではなく、過労死を労災と認めなかったことへの訴訟で監督署が多く負けて、監督署の認定の考え方、監督署の運用方法が代わったわけです。

飲食業界は本当に人手不足なのか 飲食企業の人事・労務問題を斬る監督署が問題ない、と判断したことと、その運用が法的に正しいこととはまったく別問題なのです。本部の目が行き届きにくい多店舗展開の業態にとって、制度として監督署の御墨付きをもらっても、運用としてアウト、ということが多く出やすい業態なのです。それは、何も裁判でなくても、監督署の臨検時にもいえます。とにかく、制度の運用を裏付ける証拠がなければ、何も法的に証明できないのです。

そういうことを考えると、多店舗業態の特性にあわせて、「 名ばかり管理職問題 」 も店長は管理監督者かどうかを争点とせず、契約解除の権限を持っているのは管理職であるということを争点としたら結論も変ってきたのではないかと思うのです。憶測ですけど(笑)。



黒部得善

黒部 得善

http://www.ll-inc.co.jp/

株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。

株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資

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文: 齋藤栄紀  写真:トヨサキジュン

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