2007年問題と言われた団塊世代の一斉退職、少子高齢化、フリーターの急増といった人手不足問題、更には「名ばかり管理職問題」と言われる日本マクドナルド社に対する訴訟と飲食企業の労務を取り巻く環境は厳しさを増している。
外食ドットビズでは、飲食企業を始めとした多店舗企業の労務に携わる、株式会社リーガルリテラシー社の黒部得善社長に登場いただき、労務問題の解決策を探って行く。
- 社会保険労務士(社労士)の資格を取るきっかけを教えてください。
実は、今では自分が社労士ですとは、あまり前面には出していないんですよね(笑)。その理由は追々話させて頂きますが。
社労士というのは、法律屋なのですが、もともと法律に興味を持つきっかけになったのが、中学生時代でした。当時はまだ、教師による体罰というのがあって、思い悩んでいた、というよりも、むかついていたんですね。自分としては何も悪い事はやっていないに、何で、力でねじ伏されるんだろうと。ある日、廊下の片隅にある、誰にも使われない目安箱の前で、投書してやろうかとたたずんでいたんです。そうしたら教頭先生が 「 何かあったの? 」 と声を掛けてくれたんです。そして真摯に私の話を聞いてくれた。最後には 「 自分の部下である教師が、君に対して力づくで接した事を上司として謝ります 」 と言ってくれたんです。子供ながらにこの人は凄いなと感動しました。管理教育がまだまだ残っていた名古屋で、大人が子供に謝るなんて。そして、それからたくさんその教頭先生と話をしました。その教頭先生の話の中にあった世の中にはルールと言うものがある。社会のルールの最たる物が法律であると言う事を知り法律に興味を持つようになったのです。その頃から、法学部にいって見たいと強く思うようになりました。
そして、白金にある明治学院大学法学部に行ったのです。ぎりぎり卒業させていただいた不真面目学生でしたが、法律を知るにつれて、中学時代の経験した教える側教えられる側というパワーバランスに近いと感じたのが、使用者と労働者の関係で、そのパワーバランスが最適なときに、私が教頭先生と出会えたように、最高の状態が生まれるのではないかと感じました。そこから労働法に興味を持ち、卒業の年に社労士の資格を取得したのです。
- でも今は、”社労士”と前面に出していないですよね。
そうですね。大学卒業後、4年半に渡って大手の社労士事務所に勤めていたんです。社労士の仕事の多くが、問題が起きてから対応するとか、聞かれた事に対して動くだとか、法律なら一般論を語って終りとか殆ど事務作業で流れてしまっているんですね。発想自体も本来は顧客に対する具体的な答え作りとかが必要なはずなのに、役所の方に向いてしまっているように思えてならなかった。自分の思いとギャップが大きかったので辞める事にしたのです。
このように一般的に世間から捉えられている社労士像と、私の考え方や今の実務と違っていますので社労士とは全面的に出していないのです。
でも、長らく好き勝手な私を修行させてくださいました 社会保険労務士法人 大野実事務所の大野実先生には今でも色々と助けていただいたり、経営の相談にのってもらったりと、私にとっては師匠です。特にこの業界は、経験がものを言う世界ですので、私のようなぽっと出の新卒の人間を雇っていただいたことには感謝しています。
- 自分の考えを実現するために起業をしたのですか?
実は、社労士事務所を辞めてからすぐに起業したわけではないのです。退職後に株式会社日立国際ビジネスというシステム関連の会社に就職したのです。もちろん回りからは 「 今までの経験を活かした仕事に何故就かないのか? 」 とは言われました(笑)。ただ自分的には経験ではなく体験しただけでしょと言う思いでした(笑)。だから資格を持っていたらそれを活かせるとも思っていませんでしたので、企業の人事部などに行きたいという思いも全くありませんでした。
ただ、学生時代から一貫して労務管理には携わりたいと考えていました。自分の考える労務管理を実現するにはデータを活かす事が必要だと言う思いが漠然とあり、それとシステムも法律も答えを導き出すのはロジックだという考えから、異業種ではありますが根っこは同じと思い、システム会社に飛び込んだわけなのです。
それから起業したわけですが、最初は起業ありきではなかったのです。自分の思いを実現できる場があればどこでもよかったのですが、誰もやっていない。色々な人と話をしている中で起業と言う選択肢もあるのかと初めて知ったような状態でした。昔のお客様からは、「 脚光を浴びたり、人が注目するまで時代的にまだ早いんじゃない?実現は難しいんじゃない? 」 と言われましたが、一方では 「 だけど、本当に必要な事だし、誰もやっていない事だから頑張ったら 」 と言う励ましを頂きました。時代も終身雇用・年功序列といった日本的雇用慣行から成果主義に変革していた時代なので、自分なりに、これからの時代に必要な労務管理というものを構築してみようと考え起業しました。
- 黒部さんが考える労務管理とはどの様なものですか?
一般的に労務管理とは、就業規則などの人事制度を作って、社員の採用・教育・賃金計算や退職の手続きをする事と思われています。だから主管部門が人事部になっているのです。私の考えでは、労務と言うものは日々の問題であり、人事は制度の問題。だから、労務管理をするのは日々指揮命令を行っている管理職だと考えています。とは言え、典型的な日本の労務管理といわれている終身雇用という " 制度 " が崩壊した今、日本には労務管理そのものが存在しないと言えなくも無いですよね(笑)。
また、労務管理の管理と言うのは、社員を管理する業務ではなく、情報をマネジメントすると言う事と考えています。その原点は、やはり法律なのですが、法律がこうだからこうしなければならないと言う決め事では無くて、法律と言うものはあくまでも社会的尺度の一つであるという考えがあるのです。特に労働法と言うのは公法と私法の中間に存在している法律なのですが、社会の流れによって判例が変っていく、つまり解釈が変っていくのです。だから私にとって法律とは、一つのものを判断する時の情報の尺度としての意味合いが強く、労務管理も社員に効率的に仕事してもらうために、様々な労務の情報を捉えて、それをマネジメントして行く、更に突き詰めて行くと 社員が労務上の問題を起こす前に情報をきちんと把握・分析する事により問題を未然に防ぐ 、と言うように考えるようになったのです。
- 多店舗企業の労務管理に関わるようになったきっかけを教えてください。
もともと多店舗向け専門の労務管理サービスという考えはありませんでした。労務問題が起こりやすい環境にある業界、さらには、その問題が経営に直接的に影響するのはどこかと考えたところ、行きついたのが人がサービスをおこなう多店舗企業ということだったのです。例えば、100人の会社でも1フロアに集まっていれば、誰か1人でも見ていれば、ある程度100人に目が行くものですが、多店舗企業では、本部と店舗の間に物理的な距離がある。そうすると物理的なコミュニケーションが取れないため、現状の労務管理の考え方で行くと本部で決めた事と実際に店舗で運用されている事が乖離してしまう危険性が高いに違いないだろうと考えたのです。事実、人手不足や定着率の低さといった問題が見受けられます。こここそが、私の考える ” 現場で運用できる労務管理 ” という手法を一番活用できる業界だと思ったわけなのです。
黒部 得善
株式会社リーガル・リテラシー
代表取締役社長
1974年 愛知県名古屋市生まれ。
1997年 明治学院大学法学部法律学科卒。
同年社会保険労務士試験に合格。
港区橋本定人事務所、目黒区志村幸彦事務所、渋谷区大野実事務所にて会社が抱える多くの労務問題を経験、一旦社労士業界を離れ、(株)日立国際ビジネスにてERPコンサルタントに従事。
黒部労務リスクマネジメントオフィスを経て、現(株)リーガル・リテラシー主宰。
趣味は、フライフィッシング・動物の飼育。
株式会社リーガル・リテラシー 沿革
2002年9月 東京都社会保険労務士会会員 黒部労務リスクマネジメントオフィス設立
同年12月 渋谷区神宮前に株式会社リーガル・リテラシー設立
2003年4月 本社を渋谷区円山町に移転
同年10月 社会保険労務士法人リーガル・リテラシー設立
2005年11月 2,850万円に増資
文: 齋藤栄紀 写真:トヨサキジュン