厨房機器の今と未来を知る ~厨房機器の進化と発展~ 株式会社シニリトル ジャパン(現ループコンサルティング代表取締役) 伊藤芳規氏

厨房機器の今と未来を知る 厨房機器の進化と発展第一章:北欧と米国そして日本の厨房機器思想と設備環境の動向

第3回 北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い

北欧圏と米国内では、厨房の設計では欠かせない存在である 「 キッチンコンサルタント 」 が常に活躍し、欠かせない存在である。両圏では業務の内容は若干異なるものの、彼らは各種レストランの業態、施設作りうえで、非常に重要視されている。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い例えばヨーロッパの厨房コンサルタントは、どんなエグゼクティブシェフでも調理オペレーションと厨房設営環境に関して、対等に打合せを行ない、米国では飲食施設が絡む建築計画で銀行関連の融資を交渉する際、建築プロジェクトの説明に関し、どちらの PM(プロジェクトマネージャー) や厨房コンサルタントがメンバーにいるか、否かは融資のポイント評価となるぐらいである。ヨーロッパは、[図1]の通り、各厨房メーカー独自のコンサルティング部門と、独立系のコンサルタントは関連性がありながら、競合関係にあるという状態。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い厨房メーカーのコンサルタント部門では、レストラン厨房やセントラルキッチン( CPK )のコンサルティングを行ないながら、自社の厨房システム(クッキングバッテリ)を導入させる活動を行なう。

独立系コンサルタントでも、厨房メーカーのコンサルティング部門出身の経験者が多く、特定のメーカーと親密な関わりがある。業務は動線計画・厨房設計・施工管理など、[図1]のデザインコンサルティング ( フェーズ4~9 ) が主な範囲で、厨房メーカーあるいは出身者が得意な厨房設備に偏りがちな業務内容になる傾向がある。また、各厨房メーカーは洗浄機器メーカーや、給排気設備(天井フード)メーカーなどと支援関係にあり、厨房メーカーのコンサルティング部門、独立系コンサルタント、どちらに依頼しても、結果的に厨房メーカーと繋がりのある洗浄機や、給排気設備が各ラインに設備される場合が多い。従って、飲食施主側にとっては、機器選択の幅が制限され、透明性が少ない状況があると思われる。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い追記するが、北欧圏の厨房機器郡、特に加熱機器郡は同メーカーの機器類がアイランド式となり、他社の製品を一点たりとも組み込めない設営思想となっている。その為、機種選定、特に加熱機器のメーカー選定では、機能やコストはもちろん、その他目に見えない諸々の背景が機器の採用へと導かれる状況だと思われる。

一方、独立色が強く、透明性が高いのが米国のキッチンコンサルタントだと言える。ホテル厨房やセントラルキッチンといった大型の飲食施設の建築には、期間、予算、業務範囲など、仕事の進め方の枠組みづくりをするコンストラクションマネージメント(CM)会社やPMスタッフが入り、予算決定後、建築、設備、電気、衛生、厨房と各分野に、CM会社が関与するコンサルタントを入れる場合が多い。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違いキッチンコンサルタントに限定していえば、[図1]の業務の範囲を表す、「フェーズ」ごとに契約し、各項1~9まで契約した場合、一般的な厨房コンサルティング業務だけでなく、市場および競合分析、需要分析、立地調査、運営収支など、日本でも一般的となる商圏調査や業態、運営分析業務まで手掛けられる。契約した業務範囲では、施主側もCM会社もコンサルタントの業務を尊重させ、他からの意見の侵害が及ばぬ立場を保証している。機器選定業務に関しては調理、オペレーション、予算面の範囲で公平に選定業務を行ない、CM会社や厨房メーカーの影響は受けない立場となっている。従って、契約裁量の範囲内で、飲食施設状況に則した機器選定が常に行なわれている状況だと言える。

米国系CM会社がコーディネーションを行なう物件では、参加するコンサルタントや工事会社はプロジェクトでの避けられない障害が起こったケースを考え、プロジェクト毎に各種の保険に加入する。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い我々CLJも外資系プロジェクトに参加した際、プロジェクト用保険への加入が求められた経緯が幾度もあった。CMサイドの施主への主張としては、工事に参加する各企業はプロジェクト期間中の責任は保証しますよ、という体制が常に整えられているとも言える。結果、必要な分野に専門コンサルタント会社を参加させるのも、問題が起こった時の責任の所在をはっきりさせる、という意味が含まれている。

業務の一例として、米国メリーランド州では、州内で営業するレストランのメニューに対し、HACCPの手法に従い、仕入れる食材がどんな管理で入荷させ、その食材を何℃で荷解きして、どのような保管、熱加工を経由してお客様へ提供するかを、フローチャートにして管轄の保険局を含めた承認行政機関へ提出が求められる。こうしたステップのフローチャート作成もキッチンコンサルタント業務の一環となる。

つまり、厨房環境づくりに関し、北欧のコンサルは厨房設計や設備に重点をおいたメーカー主導型で、やや閉鎖的な環境であり、対してアメリカは、フェーズ毎に飲食業態の開発までも請け負う、責任の所在が明確なコンサルティングを行なっている印象がある。ただし、双方に共通していることは、経緯は異なるが、衛生環境が常に維持できる厨房づくりを念頭に置いていることだけは間違いなく言える。

日本国内での厨房・コンサルの課題

日本国内での厨房・コンサルの課題 一方、日本国内のキッチンコンサルタントは、クライアントから求められる範囲では、[図1]の表中フェーズ5~9が主な業務範囲となる。個人的な見解ではあるが日本の場合、基本設計と入札管理、施工管理がメインとなり、オーナーサイドとの意見調整した結果を、総合厨房設備メーカーに図面を作成させるケースが多い状況。コンサルタント業務内容としては、ヨーロッパに近い状況となる。

しかし、衛生管理思想に限っていえば、日本はオーナーからの意向を多く重視する為、施設条件に合った機器の選択裁量が少なく、制限下での厨房機器を導入せざるを得ない事例が多い。この状況は施工例から見ても、機器と機器の間には隙間が発生し、油や食材の残りカスが溜り、衛生環境を保持出来ない環境となっている。 アメリカの厨房設備も似た状況となるが、キッチンコンサルタントの立場が日本より確立されている為、オーナー、建築サイドの意向に大きく影響されずに、環境に則した厨房環境の構築が提案できる情況となる。

北欧圏と米国内のフードサービス及び厨房(BOH)コンサルタントの違い例えば、先述でのUDSの設備啓蒙などで、衛生環境の改善を推進させ、空調や室内環境では、照明の照度や必要となる換気バランスの提言も保証されている。北欧の場合では、衛生環境を守る為、各厨房機器メーカーのジョイント思想が発達し、ミリの領域までディテイルが徹底的に追求されている。機器構造に関しても、板金の庫内四隅はラウンドで施工、ゴミの飛散する範囲はシームレスとか。冷蔵庫は中棚の棚柱は取り外して清掃できる事は基本。結果、コンサルタントがそれほど意識せずとも、衛生管理の保全は最低条件確保されている環境は整えられていると言える。

米国の清掃性が維持出来る設備改善、北欧での機器構造ディテイルの技術開発。衛生管理が徹底され、厨房環境が維持できる環境では、厨房で働く人たちのモラルやモチベーションも上がり、その結果として、お客に喜ばれる商品やサービスを提供できる環境となる。スタッフ教育を含め、その厨房環境の付加価値が施主サイドから認められるようになれば、日本の厨房環境も大きく躍進することは言うまでもない。



伊藤 芳規(いとう よしき)

1960年 福岡県出身。信州大学大学院(生命機能・ファイバー工学)。大光電気系列社にて店舗用照明デザインを学ぶ。北沢産業に入社、厨房関連設備設計に従事する。その後、大日本塗料照明部 ニッポ電機にて照明デザインに参加。88年ツカモト&アソーシエイツ事務所(T&A)に参加。多数の飲食施設プロジェクトに従事。92年エーエフディーコンサルタンツ(AFD)設立に参加後、98年(株)シニリトルジャパンに入社。(現)株式会社ループコンサルティング 代表取締役。

株式会社シニリトルジャパン

株式会社 シニリトル ジャパン

http://www.cljapan.com/

執行役員 / チーフコンサルタント
Cini・Little Japan、Inc.
Executive Officer FCSI (Food Service Consultants Society International) Professional Member
感性工学会 フードサービス研究部会 副会長
電化厨房フォーラム21 厨房設計部会 会長

著書、寄稿
・Vessel Sanitation Program (船舶サニテーションプログラム運用マニュアル) 翻訳 (日本外航客船協会) ・飲食店のキッチン計画・飲食店のオープンキッチン計画 (商店建築 共著) ・飲食店舗設計計画の設備改善(経済調査会)、建築設備と配管工事、月刊食堂、飲食店経営・月刊厨房寄稿、食品産業新聞、他多数。

第1章 北欧と米国そして日本の厨房機器思想と設備環境の動向

文 : 伊藤芳規

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