外食産業における「ホスピタリティ」を考える -お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」

外食産業における「ホスピタリティ」を考える お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」

外食産業の活性化には、「商品の低価格化」「食材原価、人件費のコストダウン」など数々の解決策が存在する。外食ドットビズでは、外食店のレゾン・デートル(存在理由)は何か? 内食・中食との差別化要因は何か?といった根源的な課題も重視しており、その解決策を考える上でのキーワードのひとつに”ホスピタリティ”があるのではないかと考えている。

ホスピタリティは、一般的に「おもてなし」「歓待」「心のこもったサービス」と解釈される場合が多いが、実態が見えないものという印象があることも事実である。今回は、外食店舗へ行きたくなるサービスとはどういうものかという初歩的な問題から、外食産業におけるホスピタリティについて議論してみたい。参加者は、フードジャーナリストの加藤秀雄氏、フードアナリストの堀田宗徳氏、外食チェーン OBの湯澤一比古氏、外食ドットビズ論説主幹の坂尻高志氏の4人。いずれも外食のプロというべき面々であるが、今回は利用者としての観点も交えながら、外食産業におけるホスピタリティへの課題を提言したいと思う。司会は、株式会社フォアサイト代表取締役・酒美保夫。

第6回 外食ホスピタリティへの提言(2)食文化に貢献することが本質!!

第6回 外食ホスピタリティへの提言(2)食文化に貢献することが本質!!

外食産業における「ホスピタリティ」を考える-お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」【加藤氏】 商品開発やメニュー開発という分野でも、ホスピタリティ精神を発揮できる場所があるように思います。私の知り合いがやっているそば屋では、予約で宴会を受け付けているのですが、出せる料理は蕎麦と天ぷらだけです。しかし、宴会なら最初に刺身を食べたいだろうと、商店街の魚屋と組んで、刺身を仕出しで持ってきてもらっています。それでグレードを上げるというわけではないですが、お客さんの側に立ってメニューの提供をしているのです。これも大切なホスピタリティだと思います。自分の店で刺身を出そうと思えばできるかもしれないでしょうが、専門家の手による本物をコースに組み込んでいるわけです。また別の例ですが、巻き寿司を作るおもちゃがあって、その玩具メーカーと海苔屋が組んで、おもちゃ売り場で一緒に販売して大ヒットさせたというニュースがありました。これを居酒屋でやったら、おもしろいメニュー開発になりますよね。クロスマーチャンダイジングも立派なホスピタリティになるはずです。

【堀田氏】 最近の小売店では当たり前のようにやっています。魚の売り場にわさびが置いてあったり、苺のコーナーにはコンデンスミルクがあります。昔は、客が自分で探していました。お客さんにとって便利なのだから、立派なホスピタリティでしょうね。

外食産業における「ホスピタリティ」を考える-お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」【坂尻氏】 そうですね。ただ、自分で寿司を巻かせるというサービスも、いつかは飽きてくるお客さんが出てくるはずで、そうなると「面倒だから巻いてくれ」という要望が出てくるでしょう。そういったお客さんの心の移り変わりも判断すべきでしょうね。最初は、目新しくて感動させられたかもしれないが、やり続けてしまうと逆効果になります。

【堀田氏】 それが、今の外食店のサービスでしょうね。「もういいよ、このサービスや業態は」と飽きられてしまっているのは否定できません。

外食産業における「ホスピタリティ」を考える-お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」【加藤氏】 次から次へとアイデアを出さなければいけません。外食のホスピタリティに関しては、“知恵の絞り合い”という側面があるかもしれませんね。その仕掛けを作り続けることが、「おもてなし」なのかなと思います。

【湯澤氏】 外食業界でCS(Customer Satisfaction)という言葉が注目された時もそうでしたが、日本の外食の経営者はズルくて、現場で走り回ってるスタッフに、その責任があると思いたいのです(笑)。しかし、CSもホスピタリティ精神も、経営者自身が持たなければいけない特質の最たるものです。かつて「すかいらーく」が成功した要因は、後付けかもしれませんが、モータリゼーションによりロードサイドが発展する、農業が立ち行かなくなって農業従事者から廉価に土地が供給されるという時代を見通したからだと思います。そういった明確な社会的変化を捉えて業態を作ったり、企業コンセプトをまとめるという視野を持った経営者が出てきてないんだろうと思います。これもマーケティングの一種なのでしょうが、これからの社会に対する思いやりや、どうすれば日本の食文化へ貢献できるかということに思いを馳せなければいけないと思います。その本質的ともいえるホスピタリティマインドを持てば、その後に従業員たちが持つべきホスピタリティ精神という枝葉はついてくるのではと思います。もちろん、枝葉の部分も大切ですが、幹の部分のホスピタリティを提案する企業がないことが、今日の日本の外食企業の行き詰まりの原因ではないかと思っています。

外食産業における「ホスピタリティ」を考える-お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」【堀田氏】 確かにそれはいえますね。藤田田氏や横川兄弟などは志がありました。いまは友達同士が仲間内で仕事をしているという感覚があるように思います。悪いことではないですが、会社が大きくなったら立ち行かなくなるかもしれません。志の問題ですから、小規模なままでもいいのですが。

【湯澤氏】 日本の食文化に貢献するかというと、その影響は小さいかもしれませんね。外食における究極のホスピタリティは、積極的に食文化へ貢献したいという気持ちではないかと思います。



外食産業における「ホスピタリティ」を考える お客様を喜ばせるアイデアを出しつづけることが「おもてなし」

坂尻 高志(写真前段左)

外資系コンピューター会社勤務後、すかいらーく入社。店長、事業部運営スタッフ、本部営業部門を担当した後、情報システム部で、店舗系システムの開発に着手。 1995年情報システム部長。以降主にすかいらーく本部の業務システムの開発と、業務改善を実施。1999年独立。外食企業のIT化、経営政策の立案、業態開発、スタッフ教育等に従事。

 

加藤 秀雄(写真前段中央)

1951年東京生まれ。73年に日本経済新聞社入社。88年春、日経BP社に出向、「日経レストラン」の創刊準備に携わり、同年10月の創刊時から副編集長職に。

91年9月から2000年7月まで、9年9カ月にわたり編集長を務める。2000年12月にフードサービス業界向けとしては初の本格的ポータルサイト「Foodbiz」を立ち上げ、プロデューサーに就任。03年1月、ベンチャー・サービス局次長、同3月付で「日経レストラン」と「日経食品マーケット」の発行人に就任する。06年3月、日経BP社を退社。98年4月からは女子栄養大学非常勤講師を兼務(08年3月まで)。05年4月から大正大学、東京栄養食料専門学校非常勤講師。

 

堀田 宗徳(写真前段右)

1957年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、1989年に農林水産省所管の財団法人外食産業総合調査研究センターの研究員として入社。99年、主任研究員となる。05年から関東学院大学人間環境学部、尚絅学院大学総合人間科学部、07年から宮城大学食産業学部、仙台白百合女子大学で非常勤講師(フードサース論、フードビジネス論、フードサービス産業概論、フードサービス事業運営論、食品企業組織論など担当)も務める。09年から宮城大学食産業学部フードビジネス学科准教授に就任。

専門領域は、個別外食・中食企業の経営戦略分析、個別外食・中食企業の財務分析、外食・中食産業のセミマクロ的動向分析、外食産業市場規模の推計、中食商品市場規模の推計、外食・中食等に関する統計整備など。主な著作は、フードシステム全集第7巻「外食産業の担い手育成に関する制度・施策」(共著、日本フードシステム学会刊)、「明日をめざす日本農業」(共著、幸書房)、「外食産業の動向」、「外食企業の経営指標」(いずれも外食総研刊「季刊 外食産業研究」)など著作多数。

 

湯澤 一比古(写真後段左)

1953年東京生まれ。外食企業客席係を経て、システム担当となる。2007年9月まで同社でシステム室長を務める。

株式会社廣告社ぶれいん 取締役 企画営業部長
出井商事株式会社 経営企画室 室長
miniSeminar(リテールビジネスのIT研究会) 発起人メンバー
NPO法人地域自立ソフトウェア連携機構 理事
オープンソースソフトウェア協会 事務局
Linixコンソーシアム 業務アプリケーション部会
主な著作は、「オープンソースじゃなきゃ駄目」

 

酒美 保夫(写真後段右)

外食産業向けシステム大手のセイコーインスツルメンツ株式会社に勤務して25年、業界初のオーダリングシステムをプロジェクトリーダとして立ち上げ、外食産業御三家をはじめ多くの店舗に採用され、業界認知を受ける。また、事業部長として常にビジネスを牽引し続けてきた。2003年12月、新たな外食産業へのソリューションを追求すべく、株式会社フォアサイトを設立する。

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